6-27『勝つために』
――勝つためにはどうすればよいか?
そんな、単純すぎて答えのないような、ある意味で世界の真理みたいな問いかけに、けれど魔術師ならば答えを持っているものらしい。そう知ったのは、俺がこの世界にやって来て――さて、どのくらい経った頃だったろう。
別段、その是非を問うているわけではないのだ。
一種の机上の空論、ある種の理想論。けれど揺らがず頼るべき信念……そういったものを、己の指針として持っているかという話だ。己が我を通さんと望むとき、最も頼むべき己が《最強》。
――自らが勝つ必要はない。ただ相手に勝ち得るものを創り出せばそれでいい。
――最大火力をただ最速で見舞えばいい。一撃で勝負を決するなら負けはない。
――どんな状況にでも必ず対応できるくらい、多種多様な魔術を覚えればいい。
――どちらが最後に立っているのかを競うのだから、最後に立っていればいい。
――状況を打ち砕く肉体を持てばいい。それを叩き込める場所に向かえばいい。
――相手を必ず上回る我をもって、どんな相手でも格で圧倒してしまえばいい。
様々、考え方はあるだろう。俺にだって、考えていることはある。
もしそこに違いがあるとすれば、それは俺が、彼らのように必ずしも自らの手で勝利することには、執着がないところだと思う。
あるいは、それは俺がこの世界ではない世界の出身だからかもしれない。
魔術なんて得体の知れないものを、当たり前に扱う連中。当時の俺からしてみれば、そんな奴らは例外なく怪物だ。魔術という技術そのものが存在しない――わけではなかったらしいが、少なくとも俺は知らなかった――世界から来た俺は、魔術師という連中を、そもそも根源的に恐怖していたし、自ら歯向かおうだなんて発想が初めはなかったのだ。
魔術を使える奴と争うなら、魔術を使える奴に対応してもらえばいい。
それが必ずしも自分である必要はない。
たとえるなら、それは現代人である俺が街で犯罪を見たとして、自分で犯人を捕らえにかかるかという話である。
当然、そんなことはしなかった。
そんな発想がそもそも浮かんでこない。警察機関に全て任せるに決まっている。
目の前の危機から助けてくれるものを信じず、己が力で抗おうという思考が当たり前の異世界人とは――たぶんその点が違っていたのだと思う。まあ、この世界にだって騎士団や自助組織くらいはあるけれど。
だから俺は考える。
戦いなんて、そいつに勝てる奴にやってもらえばいいだけだと。
魔術なんて大概が相性戦だ。どんな敵だろうと実力で捻じ伏せる――なんてのは、それができる一部の強者どもの理屈であって、基本的に人間は徒党を組むことで困難に対応する。そいつが当然の知恵というもの。
まあ無論、それで全てに対応できるかと問われれば、それが否であることもわかっていた。
無償の奉仕などこの世になく、たとえば傭兵を金で雇うように、対価もなく他者の力を頼みにはできないし、何より突然の窮地には自力で対処するほかない。それもまあ真理というか、事実ではあった。
なら、俺はどうするべきなのだろう。
自力では絶対に勝てない。
どうあっても勝利のない敵を目の前にして。
それでも己が我を通さんと望むのなら。
――当然。
それは、勝てないということだ。
一縷の望みを託して特攻する、なんて考えは端から性に合わない。
勝敗など戦う前から決している――という言葉が確か地球にはあったと思うが、それは裏を返せば、戦う前に決している勝負以外を受けるな、という意味だ。それを強制される事態に陥っている時点で過失であり、敗北なのだ。
アスタ=プレイアスでは、ウェリウス=ギルヴァージルには勝てない。
これが揺らがない真実である以上、そしてその上で、敵対してでも通すべき目的がある以上は、戦術ではなく戦略で勝らないことには己の我を貫けない。
敵に回さずに済む方法を考えるべきなのだ。
たとえば俺以外の誰かに代理で戦ってもらうとか、たとえば戦闘そのものから逃走してしまうだとか。
たとえば――相手の敵対理由をそもそも失わせてしまうだとか。
考えてみれば違和感はあった。
このタイミングで、ウェリウス=ギルヴァージルが教団側につく理由とはいったいなんだ?
あの腹黒イケメン貴族が、そう簡単に誰かに動かされるとは思えない。
このままではこの惑星が滅ぶから。そうなっては己の目標も果たせないから、だから教団側の思惑に賛同した。あの男はそう言っていた。実際それらしい理由ではあろう。説得力はある。
死にたくないからとか滅んだら困るではなく、あくまで《世界が滅びたら目的を達成できない》という理由であるところは、確かにいかにもウェリウスらしい。あいつなら《目的を果たしたあとなら滅んでもいい》くらいのことは言いそうだ。
――けれど、それで教団側につき、俺の邪魔をするという思考は正直解せない。
あいつなら――ウェリウスならばそんな選択肢に手を伸ばさない。
そんなふうに教団を信用するはずがないし、それくらいならいっそ俺側について別の方法を探すほうがウェリウスらしいだろう。あいつの言う《貴族の矜持》と、それはかけ離れたところにある選択だ。
別段、あいつの人間性を信じているという話ではない。
あいつがいきなり「レヴィさんを助けたいから協力するよ!」なんて言い出したら、それはそれで、俺は逆に信用しきれなかっただろう。自分の目的のためなら、おそらく最終的に――あいつは他者の犠牲を呑み込む。ほかに方法がなければ。
奴だって魔術師だ。
魔術師とは《人間性がない生き物》では決してない。魔術師だって人間ではある以上、喜怒哀楽の感情や、善性に沿った倫理観くらいは持っている。どんな魔術師も、別に自分以外の人間なら全て犠牲にできる残酷な非人間ではないのだ。
けれど同時、魔術師とは目的のためなら《己の人間性をいつでも捨てられる》人間でもあった。
犠牲を容認できる。対価を賄える。
――自分の心を殺害できる。
もうそれ以外にどうしようもないという瀬戸際でなら、おそらくウェリウスも今のような行動に出るだろう。
そのときは徹底して、俺にとっての最大の敵として立ちはだかるに違いない。
では。
ウェリウスは、果たしてそうしていたか。
考えるまでもなく答えは否だ。
ウェリウスは完璧には行動を徹底していなかった。
なぜならウェリウスは、わざわざ俺に宣戦布告をした。
その行動は、もし《滅亡を回避する》という目的に対し、《俺という障害を排除する》という手法を見た場合、魔術師なら――否、ウェリウスなら絶対に行わない行動だと俺は思う。
それが俺はずっと気になっていた。
なぜなら、あの宣戦布告は完全に《俺にとっての利》にしかなっていないからだ。
ウェリウスの視点から見れば、あの行動は完全にマイナスしか生んでいない。
自分が敵対行動に出たという値千金の情報を、そもそも俺に教えている。
その上であいつは俺を挑発することで覚悟を決めさせた。
だが、ウェリウスに俺を殺す決意があるなら、そんな行動を選ぶはずがない。不意打ちでさっさと暗殺でもなんでもしておくだろう。それでお終い。逆の立場だったら俺だって正面からは戦わない。まずは食事にでも毒を盛っておくはずだ。
こうなれば話は変わってくる。
ウェリウスは露骨なほどに俺を中途半端だと責めた。
それは裏を返せば、自分の行動もまた半端であると俺に気づかせるためだった。
本当は俺と正々堂々、最強を競いたかった――なんて言い訳は後づけに過ぎない。こんな禍根を残す形になった時点で、ウェリウスにとってそれは叶わない目的だ。それこそ徹底できていない。
一度捨てると決めた目的に、拘泥するような男か、アレが? あり得ない。
では、そのような遠回しな行動を取った理由とは何か。
脅されているからか。あいつが? あの最強の元素魔術師が、いかに魔人を相手にしたとて素直に従うか? 絶対にあり得ない。仮にその場合、少なくとも一度は敵対行動に出て敗北しているはずだ。――だとしたら絶対に無傷じゃない。
だがウェリウスは俺にさえ、直接的なヒントは一切出さなかった。
俺が気づかなければ完全に終わりだった。まあその場合、終わるのは俺のほうなのだが(勝てんので)、ウェリウスがそれを望んでいるとは俺も思わない。
最低限、ウェリウスが完全な監視下にあることだけは間違いないと見ていいだろう。
そうでなければ言えたはずだし、教団側も――月輪だって、監視をしない理由がひとつもない。
では見られていて困る理由は何か。
教団だって、ウェリウスが自分たちにつくと言ってもそう簡単には信じまい。俺に巻き込まれただけとはいえ、これまで敵対に近い状態だったことは事実。そうでなくとも、ウェリウスほどの戦力を相手に油断はできまい。
ならば保険を掛けておくはず。
――人質だ、と直感した。
であるなら自ずと、俺の勝利条件も定まってくる。
直接戦闘でウェリウスを打倒する必要はない。ていうか無理だ。
だがウェリウスが敵対する理由其のものなら潰せる可能性も見えてきた。
つまり、――あの魔女に一切悟られることなく、どこに捕らえられているのかも、誰かもわからない人質を先に救出すること。
それやっぱ無理じゃね? と思うだろうか。
どうだろうね。
俺は、ウェリウス=ギルヴァージルを倒すよりは楽だと思った。
まあその後も綱渡りであることに変わりはない。
そもそもこの推測だって、必ずしも正解とは限らなかった。証拠なんてない。証拠がないことそのものを根拠にしている、と言うべきか。
単純に、ほかに生還の目がないので縋るしかないだけ。完全な監視下に(おそらくは自ら)入ったウェリウスよりは、俺のほうが自由に動けるから、人質になった誰かもきっと救い出せるはず――そういう希望的観測に基づいている。
どちらかと言えば、問題は《では誰が人質になっているのか》だった。
これは、俺にはわからない。
確定させる方法がない。たとえば家族――ギルヴァージル家の誰かが人質になっているのなら、それを知る方法が俺にはなかった。教団だって《水星》の脱落により、動員できる人数(と、表現できるならの話だが)は少なくなっている。今となってはほぼ幹部連中しか残っていないと見ていいだろう。
とはいえ無論、ガストのような、いわゆる《信者》がほかにいる可能性はある。
何より魔人化を経て、連中は惑星を走る魔力流、霊脈に乗って高速の長距離移動が可能になっている。
ちょっとウェリウスの出身地に行って家族を人質にしてきた、とでも言われたらお終いだ。
もちろん混乱した今のオーステリアで、誰がどこにいて生きているのかを正確に判断することも難しい。俺の知らない、この街にいるウェリウスの友人を捕らえた程度でも、人質として充分に機能するだろう。
と。ここまで考えて、俺はふたつの疑問点にぶつかった。
ひとつ目は、こうも簡単に人質を取れるはずの《七曜教団》が、ではなぜ今までそれをしなかったのかという疑問。
もちろんこちらは魔術師だ。情に流されて大局的な判断を誤るなんて期待、連中だってしないだろう。人質を監視する人員も、今や教団にはない。とはいえ、やったっていいはずだった。
これは、おそらく教団の目的が、大きく見れば《人類の救済》にあるからだと思われる。
奴らにとって人間とは、殺したっていいが殺したいわけではない、できれば生きていてもらったほうがいい――そのくらいの認識になるのだろう。救世という大義を謳っている以上、いたずらな虐殺は避けたいはずだし、恐怖支配も狙ってはいない。七曜教団の動きは基本、よく言えば流動的――悪く言えば場当たり的だ。
なるようになる運命、だとでも言わんばかりに。
ただ少なくとも、必要以上にコトを大きくすることは望んでいない。できれば最低限の犠牲で留めようとはしている。
いや。というよりも、彼らは巻き込む人間を峻別していると見たほうがいいか。
俺たちであったり、あるいは学院生やこの街の住人、《銀色鼠》などは巻き込む側に入れている。というか、どうあっても関わると初めから知っているかのようですらあった。
あいつらは登場人物を選んでいるのだ。
資格というよりは不本意な烙印めいたものだが、おそらく一番目の《日輪》はそういう、運命の流れのようなものを信奉している。
おそらく《日輪》は、人質を取る、だなんて面倒な手段は選ばない。
だとすれば、それは彼ではなく別の人間の手によるものだ。
そしてふたつ目の疑問。
こちらは、さきほども触れた単純なもの。魔術師に人質など通用しない。
ならば教団は、果たしてどんな人質ならウェリウス=ギルヴァージルに通じると思ったのだろう?
実際に通用するかどうかではない。どのレベルの人質なら通用すると教団側が見做すかだ。
肉親か、兄妹か、友人か、あるいは恋人か。
そして今、確実に行方不明であると言える人間がいること。
これらを繋ぎ合わせたとき、俺の頭にはひとつの仮説が浮かんでいた。彼女が姿を見せ、それ以降の行方が知れなくなっていることなら俺も聞いてあった。
しかし、その行方不明は不可解すぎる。
これを正しいと信じたのはもう、半分以上は直感だったろう。
だが確信した。
――人質に取られたのは《二番目の魔法使い》である。
※
無理のある思考だが、逆にそれがいい。
なにせ《空間》の魔法使いだ。ウェリウスより上位の人質とは畏れ入ったもの。普通なら逆だろう。
というか、仮にも空間の支配者が逃げ出せない空間とはなんだ。
もうその時点で仮説として狂っていると言えた。
もしこの推測が正解なら、救出の難易度は最高難度を通り越して狂気的難度。
つまり、どうせなら最悪の可能性を考えておいたほうがいいというコト。
二番目が人質だと仮定する場合、俺は《空間》の魔法使いが抜け出せない空間を探し出し、侵入し、連れ出して逃げなければならないわけだ。間違いなく真っ当な物理空間ではないし、ていうかもう、何それできるわけなくない? のレベル。
なんてこった、である。無理を避けたら無理が出てきた。
ウェリウスを倒すほうがまだ、無理度が低いかもしれないくらいだ。
もちろん、無理に度合いも何もないが。
けれど。
「……光明が見えた、かな」
ウェリウスの生み出した闇の中で、俺は呟く。
ここにクロちゃんがいる、という事態が何より素晴らしい。メロが連れてきたときは何も思わなかったし、おそらくシャルだって想定してはないだろうが――これほどのファインプレーがあるものか。
さて、解答だ。
このまま行けば俺はウェリウスに殺される。
どうすればいいだろう。
諦めることなく手繰り寄せた糸の先はどこに繋がっている?
仮定。
ウェリウスが教団についたのは、師であり母代わりでもある女性、二番目にして空間の魔法使い――フィリー=パラヴァンハイムを人質に取られたから。
疑問。
では《空間》を完全に支配下に置く魔法使いを、捕らえておける人間とは誰か?
解答。
それは三番目にして《時間》の魔法使い――アーサー=クリスファウストでしかあり得ない。あの魔女を呪い、空間を時間の檻で縛れる者などあのジジイ以外にいるものか。
――ならば。
そこに。
弟子である俺が立ち入れない理由などあるものか――。
「頼むぜ、クロちゃん。――ジジイのとこに、道、繋げてくれよ……っ!」
※
移動術。自身を半魔力素子化することで地脈に乗り、繋がる別の場所へと事実上転移する魔術。
クロノスが俺に教えてくれたもの。
俺はそれを用いて、ウェリウスの支配する闇の世界から抜け出した。これにルーンは必要ない――そもそも厳密には魔術ですらないからだ。
そして。
「……なるほど、アレの因子を使ったのか。それなら、ここに来られることも道理だな」
そこは《空間》だった。
それ以外に表現のしようもない場所だった。
「なにせ血を分けた娘だ――人造人間とはいえ、いや、だからこそ実子以上に濃い血の繋がりがある。その使い魔もまた同じ。その製造過程でこのオレの血を使っている。魔術師ならその血の繋がりを辿るくらいはできらぁな。は! ようやく初めて、普通の魔術師らしいことしたじゃねえか。ええオイ。できの悪ィ奴だよ、テメェはよ」
一面に広がるのは白の一色。天も地もないその場所で、自分が何を踏んで立っているのかすらわからない。
口を開いたのはひとりの男だった。その傍らに、年端も行かない幼い少女が毛布を被って眠っている。
「……フィリーさん、か?」
「顔知らねえのか? まあ安心しろよ。今はガキになってるからな。おねむの時間ってだけのことさ」
「…………」
「にしたってテメェオイ、その手法は赤点だぜボケ。もしここが時間的に隔絶された空間だったら、ただの移動術じゃ絶対に入っちゃ来られねえ。仮にもオレの弟子だってのに、まだ時間の領分には少しも手が届いちゃねえってのか、締まらねえバカだよ、テメェはよ!」
無茶を言う。俺の手が魔法使いの領分になど届くものか。
というか、そもそもそんなことは誰にも無理だ。
あるいはこの先、《運命》の領分に手をかける者がいるかもしれない。
あるいはこの先、《空間》の領域に足を踏み入れる誰かもいるだろう。
だが――《時間》だけは絶対に越えられない。
それを己が唯一としたからこそ、奴はこの世でただひとり、世界最悪の犯罪者と呼ばれているのだ。
技術の占有。人類発展の否定。魔術の歴史を、その積み重ねを、完全にゼロにする行為。
それは、魔術師が絶対に行ってはならないコトだから。
「テメェは破門だ、クソガキ」
男が。
師が。
魔法使いが、俺に言う。
「まだされてなかったことに驚きだよ、クソジジイ」
だから俺は答えた。
たぶん、それは間違いで――だからこその正解だ。
「は、言いやがる。本当に、お前ほど見込みのねえ奴はいなかった。才能ゼロだよ、テメェはよ」
「喧しい。そんなもの欲しがったことねえんだよ、俺は」
「嘘つけボケ見栄張んな」
「やっかましいっつってんだろ! テメェこそ、ワケも言わずに消えるわ死体偽装するわ、おまけに敵に寝返るわ! 何を考えてんだっつーんだ、あァ!?」
「なんでこのオレが、オレの考えをいちいちテメェに教えてやらなきゃいけねえっつーんだよ。甘えるんじゃねえ。いつまでガキのままでいやがる気だ」
「そういう話はしてねーよバーカ」
「お前がバカ」
「いやお前のがバカ」
まるでガキの癇癪みたいな言い合いだった。
それが、なんだか酷く懐かしい。
「ったく……本っ当にどうしようもねえ奴だよ、アスタ。テメェは。案の定まだ足りてねえ。それじゃまるで足りてねえ」
「……あ?」
「確かに、そこで寝てるババアのガキは天才だよ。お前とは違う本物だ。あの《日輪》だってそれは認めるだろう。やがて自分すら超えていく器だと、あの男ですら言うはずだ」
「…………」
「だが翻ってテメェはなんだ? 戦う前から負けを認めてだんまりか? もしあのガキがお前と逆の立場なら――お前に勝てねえって諦めるのか? あ? 俺が言ってんのはそういう話だ。それでどうして我を通せる」
アスタ=プレイアスは逃げ出した。
勝てないからと戦いを避けた。
そんな男が、本当に《日輪》を倒してレヴィを救い出せるのか?
三番目は俺にそう問うている。
だから、俺は笑った。
「は――耄碌したなジジイ。まあそうだよ、認めるさ。俺はこっちのほうが勝算が高いと踏んだね実際」
「……、あ?」
「わかってんのか。なあジジイ、テメェこそわかってんのかよ。俺はここに、お前が――三番目の魔法使いがいると知っていて来たんだぜ? そうだよ、認めてやるさ。テメェと戦うほうが、ウェリウス倒すより楽そうだからだ、クソジジイ」
「――――――――」
「何より放っとくと老いさらばえてくたばりそうだしな。そうなる前に、決着つけに来てやったんだよ。ウェリウスなんざ後回しでいい――なあ、クソジジイ」
力を抜く。
敵は強大だ。
おそらく覚醒したてのウェリウスより強い。
んなこたわかっている。
だがどうした。
そんなことは問題じゃない。
俺は一度だって最強に憧れたことなんてない。
「――かかってこいよ。話なんざ、テメェを倒してからゆっくり聞いてやる」
そうだ。
俺が最初に憧れた魔術師は。
この世界で、最初に俺を助けてくれた男は。
「引導、渡してやるから引退しろジジイ。もうお呼びじゃねえんだ、すっこんでろ」
「――いい度胸だ、クソガキ。ああ、その言葉が聞けて安心したってモンだ」
笑う。
獰猛に。楽しそうに。
それは目の前の男を敵と認めた笑みだろう。
それでいい。
言葉などいらない。
言わなくたって、わかっている。
「最後の指導だ、クソ弟子。――このオレを殺してみろ、できるもんならな」
「は――」
だから俺も笑おう。
笑うべきなのだ。
これが、きっと最後の――。
この世界での、父親とのやり取りだから。
「――ここで超えるぜ、魔法使い」
今まで貰った全てのものを。
見せてやるから、ここで逝け。
※
レヴィ=ガードナー奪還戦。
第七戦。
vs《第三魔法使い》アーサー=クリスファウスト。
甘えられる相手には口が悪くなっちゃうみたいなヤツ、あったりしますよね。




