第五十四話 歪んだ愛情
■ルシア視点■
夏休みが明けて、二学期が始まってから少し経ったある日。学園の話題が段々と学園祭のことで持ちきりになる中、私は愛しのゲオルク様と一緒に、生徒会室にいました。
すでに今日の仕事は終わっているため、ここに残っているのは、私とゲオルク様だけですわ。
せっかくの二人きりなのですから、襲ってきてくださらないでしょうか? 私、ゲオルク様が求めてくださるのなら、どこでだって構わないのですが……。
「くそっ……くそっ! 忌々しい……あの女狐め……!」
私の気持ちとは裏腹に、ゲオルク様はかつての婚約者に対して、ずっと呪詛を吐き続けております。
どんな手を使ったのかは存じませんが、二学期になってから、アイリーン様は魔法が使えるようになったようで、一部の人達が驚いて話しているのを聞いたことがあります。
それに、日に日にエルヴィン様との仲が進展し、ご友人との仲も良好なようで、とても幸せそうな雰囲気を醸し出しております。
……一方のゲオルク様は……いえ、三つ子の皆様の評判は、相当落ちてしまっております。
元々、一年生の頃から三つ子の皆様に対する評価が悪い人は、一定数いたのは確かですが、それとは比較にならないほどの評判になってしまいました。
原因は言わずもがな、あの期末試験の実技ですわ。あれで醜態を晒してしまったことや、シンシア様とミア様を見捨て、挙句の果てに子供のような見苦しい喧嘩をしたのを見られてしまったのが、よくありませんでした。
三つ子の皆様を良く思っていない人達が、我先にとこの話を学園中に拡散していきました。それどころか、ありもしない話で更に着色し、三つ子の皆様の評判を下げてきました。
その結果、今では皆様の評判は一気に悪くなり、特にゲオルク様のことを悪く言うお方が激増しました。
本当に、皆様はゲオルク様の良さを何もわかっておりませんわ。わかっているのは、この私だけですの。
――私は幼い頃から、故郷の国で宰相を務めているお父様の権力と、誰にも引けを取らない圧倒的な美貌のおかげで、多くの殿方から言い寄られてきました。
しかし、どのお方も全く魅力に思いませんでしたの。
金や権力を振りかざすお方。
自分は何もしていないのに、親の力を誇示して偉そうに思うお方。
美しい私の伴侶にして、自分のステータスにしたいだけのお方。
父の権力を将来的に我がものにしようとする、野心のあるお方。
他にも多くの人を見て、多くの人から求婚されましたが、全てが私には有象無象のどうでも良い人間に映りました。
それと同時に、人間というのは皆平等につまらないものだと感じるようになり、他人というものに全く関心が無くなりました。
そんな中、私は彼に……ゲオルク様に出会ったのです。
セレクディエ学園に入学してから間も無く、一人で教室にいた私の元に、彼は突然やってきました。
当時の私は、彼は自分への絶対的な自信を持っていると、既にわかっていました。
それはただの見栄や虚構ではなく、後に一年生で生徒会長に選ばれるという異例を達成するほどの学力と魔法の実力、そして圧倒的なカリスマ性がありました。
そんな彼は、突然私の元にやって来て、こうおっしゃりました。
『なんて美しい女性だ! 気にいった! 俺様はお前に一目惚れをしてしまった! お前、俺様と婚約をしろ! そうすれば、未来永劫の繁栄と幸せ、そして誰よりも深い愛を提供すると約束しよう!』
断られるなんて微塵も思っていない、圧倒的な自信に満ちた目とお姿。そして変に着飾らない、直球な愛の言葉に、私の心は一瞬で奪われました。
後に、ゲオルク様には別の婚約者がいたことがわかったり、嫉妬に狂った愚かな女達に陰湿な嫌がらせをされましたが、どれもこれも私の愛を止めることはできませんでしたわ。
ゲオルク様も、私の愛のために色々してくださいました。前の婚約者とは婚約破棄を行い、女達は裏で手を引いて、学園から消してくださいましたわ。
ああ……今でも出会った時のことを思いだすと、ゲオルク様の愛も一緒に思い出して、体が勝手に熱くなって仕方がない。こうなってしまうと、ゲオルク様に静めてもらわないと、夜も眠れなくなってしまいます。
「どいつもこいつも、俺様のことを見下しやがって……! 俺様を一体誰だと思っている!?」
「彼らには、物事の本質というものが全く理解できておりません」
「ああ、さすが俺様の愛しのルシアは、よくわかっている!」
ゲオルク様に抱きしめられた私は、その感触を堪能するように、目をそっと閉じました。
周りの有象無象にゲオルク様が悪く言われるのは許しがたいですが、ゲオルク様から離れてくれるのはとても嬉しいです。
だって……邪魔な方々がいなくなれば、私がもっとゲオルク様を独占できますから。なんなら、全ての人間が消え去って、私達だけの世界になればいいとさえ思っております。
ただ、ゲオルク様をここまで追い詰めたあの女狐と、エルヴィンだけは許すわけにはまいりません。必ず、奴らを地獄に叩き落とさないと、私のこの胸に奥に燃える怒りの炎が収まりませんもの。
……ああ、どうしましょう。女狐のことを考えただけで、頭がどうにかなってしまいそう。早く精神的に追い詰めて、そのあとは適当な理由をでっちあげて連れて来て……ありとあらゆる痛みを、その体に刻みつけたい……!!
……あらやだ、私としたことが、なんてはしたないことを……未来の妄想をする前に、まずはゲオルク様のことを考えませんと。
「ゲオルク様、私に一つご提案があります」
「提案だと?」
私は、前々から考えていたアイリーン達への復讐方法を、ゲオルク様にお伝えしました。すると、あのゲオルク様が美しい目を見開いて、驚きを露わにしておりました。
「そんなことが、可能なのか?」
「はい。私のお父様の権力と、私の魔法を最大限に使えば、可能でしょう」
私の提案したものとは、とある方法を使って、女狐とエルヴィンの仲を、修復不可能なレベルにまで落とすというものです。
その方法が、普通では思いつかないような方法ですので、ゲオルク様は驚いていらっしゃるのでしょうね。
「まさか、お前の国の王族を利用する作戦だなんてな……だが、リスクが大きすぎではないか? そもそも、奴は所詮ただの一貴族の子供ではないか。そこまでの男のために、王族に手を出す必要があるのか?」
「大いにあります。実は、前々から何かに利用できるかと思い、彼女に気づかれないように魔法を使っておりました」
「お、俺様の知らないところで随分なことをしていたのだな」
「いつでもゲオルク様の力になれるように、準備しておくのが務めですから。王族を利用できるだなんて、最強のカードに出来ますわ。さて、話を戻しますが……種を植え付けていた時に、夢現な状態の彼女が、興味深いことを口にされてました」
「情報だって?」
「ええ。偶然とはいえ、素晴らしい情報でした。これがもし本当なら、この話を絶対に断れないでしょう。それがたとえ、愛する人を裏切ったとしても」
くすっと笑ってから、私は手に入れた情報をゲオルク様にお話すると、その場で勢いよく立ち上がりました。
「そんなバカな!? それが本当なら、気づく人間が出てくるはずだ! いや、俺様だって気づくはずだ!」
「それは私にもなんとも……もしかしたら、何かしらの魔法を使っているのかもしれません」
「それに、もしその案が失敗すれば……この国とお前の国の間に、修復不可能な傷が付く可能性が……」
「まあ、そんなもの……どうでもいいですわ」
セレクディエ学園があり、ゲオルク様達が住むこの国と、私の故郷である国は、遥か昔からとても有効的な関係を築いている。
……でも、そんなことは私にはどうでもいいですわ。両国の仲が悪くなっても、滅びてしまっても、私には関係ありません。
だって、私の全てはゲオルク様ですもの。彼の力になれるのなら、どんなものを犠牲にしたってかまいません。
「ゲオルク様は、このままでよろしいのですか? あの女狐にプライドをズタズタにされて、そのまま泣き寝入りをするのですか?」
「そんなの、嫌に決まっているではないか!」
「ではやりましょう。大丈夫、私の魔法は完璧ですわ。必ずや、女狐とエルヴィンの仲を引き裂き、絶望の底に叩き落としてごらんにいれましょう」
――こうして、私とゲオルク様の壮絶な復讐劇が、幕を上げる。
みていなさい、アイリーン……あなたがしてきたことが、いかに愚かだったか思い知らせて差し上げますわ。
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