第五十三話 今よりも一歩先に
魔法の練習漬けだった夏休みが終わり、二学期が始まった。久しぶりに会うクラスメイト達の中には、日焼けをして随分と印象が変わった人もいる。
そのクラスメイト達からは、もっと遊んでいたかったとか、学園が久しぶりに感じられるといった会話が聞こえてくる。
私は毎日学園に通っていたから、久しぶりという感情はないけど、遊びたかったという気持ちは理解できる。
なんなら、初めての夏休みだというのに、最終日にバーベキューをした時以外、どこにも遊びに行けていないしね。
「アイリーン、どうかしたのかい? なにやら浮かない顔だけど」
「夏休み、どこにも遊びに行かなかったなって考えてたんです。自分のせいですから、自業自得ですけどね」
将来のための、有意義な時間だったのは確かだけど、せっかくの学生なんだから、どこかに遊びに行きたかったというのも本音だ。
「それじゃあ、来年の夏休みはどこか一緒に遠出しようじゃないか。そうだな、一緒に海とかどうかな?」
「海ですか!? わぁ、海って行ったことが無いんです!」
「そうだったんだね。実は、うちが所有している島があってね。何年か前は、その島にバカンスに行ったりしていたんだ」
島を持っているって、さすがは貴族って感じだね。もしかしたら、貴族ならそういうのを持ってるのは当然なのかもしれないけど、庶民の私にはよくわからない。
「あ、でも……海ってことは、水着になるんですよね?」
「そうだね」
水着ということは、肌をエルヴィン様に見せるってことだよね……なんか、考えただけでも恥ずかしい。
それに、私のスタイルは決していいものとは言えない。胸は全然無いし、くびれがあるわけでもないし……なんなら、夏休みにソーニャちゃんのおいしいごはんをたくさん食べた影響で、お腹や二の腕にお肉が……その、ね?
「私の水着なんて、見ても全然面白くないと思いますよ? スタイルも良くないですし……」
「それは聞き捨てならないね。君の美しさは、どんな絶景でも足元にも及ばない。君は、もっと自分に自信を持った方が良い!」
あまりにもドストレートな言葉に、一瞬だけ固まった後、まるでお風呂上りように体が熱くなっていくのを感じた。
い、いい、いきなり何を言っているのこの人は!? 嬉しいけど……嬉しいけど! 好きな人にそんなことを言われて幸せだけど! もう少しオブラートに包む良い方とか、言う場所とか! それからそれから……ああ、もう! わけがわからないよぉ!
「ん? そんなに顔を赤くして、どうしたんだい? まさか、熱があるとか?」
「っ!?!?」
心配そうに眉尻を下げるエルヴィン様の顔が、目と鼻の先まで迫ってきた。
わかってる。これは私を心配して、私のおでこに自分のおでこをくっつけて、熱を測ろうとしているのは。
でも……! こんな、少しでも動いたらエルヴィン様と……き、キスしてしまうくらい近づかれたら……私、もう……!
「~~~~っ!!」
「あ、アイリーン!?」
私は、興奮と嬉しさで暴れまわる尻尾を片手で抑えつつ、真っ赤に染まった顔をもう片方の手で隠しながら、教室から逃げるように立ち去った。
……逃げる際に、教室にいたエルヴィン様のファンの女子達から、とてつもない嫉妬の目を向けられた気がしたけど、気にしないでおこう……。
「もう、エルヴィン様ってば……あんなことを言われたら、恥ずかしくって戻れないよ……」
もう帰りのホームルームは終わってるから、このまま落ち着くまで校内を散策するのも手だけど、エルヴィン様のことだから、私が戻るまで教室で待っていそうな気がする。
もしそうなったら申し訳ないし、少し追い付いてから教室に戻ることにしよう。
「ふう……」
中庭へとやってきた私は、おしゃべりをしたり、帰宅したり、部活に向かおうとしたりと、様々なことをしている生徒達を、ぼんやりと眺めていた。
私のことを見ながら、なにかひそひそ話をしている人もいるけど、いつものことだからもう慣れちゃった。
「ねえねえ、もう少ししたら学園祭だけど、あんたはどうするの?」
「もちろん、愛しのあの人と回りますわ。それで、夜になったらキャンプファイヤーで……」
「キャンプファイヤー? それってあれよね、キャンプファイヤーの前で告白して結ばれたら、その二人は永遠の愛と幸せを手に入れられるっていう伝説の?」
「ええ、それですわ! ああ、今からドキドキが止まりませんわ……!」
近くを歩きながら会話をする二人の女子生徒の話し声が随分と大きくて、意識していなくても私の耳に届いてきた。
キャンプファイヤーで告白かぁ……永遠の愛と幸せかぁ……いいなぁ。私もエルヴィン様に告白して、今よりも一歩先の関係になって……一緒に幸せになりたい。
「……違う。したいじゃなくて、すればいいんだ」
この前は、運悪くパパが家の中から出てきてしまったから告白できなくて、なんとなく告白するのが気まずくなってしまったけど、それってただ私が一度の失敗を経て、逃げるようになっているだけじゃないか。
「うん、決めた。今度の文化祭のキャンプファイヤーで、エルヴィン様に告白しよう」
いざ告白しようと決めたら、急に胸がバクバクいい始め、もしダメだったらどうしようという嫌な考えが頭をよぎったが、ここで逃げていたら、いつまでたってもエルヴィン様との仲は進展しないよね。
もちろん今の関係も悪くはない。むしろ、壊れたらって思うと怖いけど……私は今以上の関係になりたい。
だって、エルヴィン様のことが大好きだから。
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