第五十話 大切な人へのプレゼント
「……あれ、ここは……?」
目を開けると、そこにあったのは、さきほどまでいたヴァーレシア先生の研究室の天井と、エルヴィン様の心配している顔だった。
背中に感じる、柔らかな感触……どうやら私は、研究室に置いてあった、ボロボロのソファに寝かされているみたいだ。
「アイリーン、目を覚ましたんだね」
「エルヴィン様……私、倒れちゃったんですね」
「ああ。無事でよかったよ」
……あれ、よくよく考えたら、どうしてエルヴィン様の顔が目の前にあるのだろう? それに、頭だけ少しだけ固いような……まさか!?
「え、エルヴィン様? 今、私になにをしているのですか!?」
「なにって、膝枕だけど」
やっぱり、この暖かくて少し硬い感触は、エルヴィン様の膝なの!?
きっとエルヴィン様のことだから、私の心配をしてくれた故の行動だろうけど、好きな人に膝枕をされるだなんて、嬉しい以上に恥ずかしくて、また気絶しちゃうって!
「ああ、気を付けて。尻尾が潰れないように体を全体的に外側にしているんだ。落っこちないようにしてね」
言われてみれば、体の三分の一くらいはソファに乗っていなくて、エルヴィン様に支えてもらって落ちないようになっている。
それなら、尻尾を外側に向けるようにすればいいのにと思ったけど、それだと私が息苦しくなってしまう。
それに、目が覚めたらエルヴィン様のお腹が目の前にあって驚かないように、配慮してくれたんだと思う。
「あ、よかったぁ……目が覚めたんですね」
「ソーニャちゃん、心配かけてごめんね。エルヴィン様も、ごめんなさい」
私はゆっくりと体を起こしてから、二人に頭を下げる。
なんだか、エルヴィン様が少し残念そうな顔をしているのは、きっと私の気のせいだろう。
「よう、お目覚めのようだな。王子様の膝の上で目覚められるたぁ、お前も良いご身分だな」
「おうっ!?」
だから、どうしてそういう表現をするのかな、この人は!? そんなことを言われたら……恥ずかしさと嬉しさが同時に襲って来て、尻尾が勝手に揺れちゃうから!
「体の調子はどうだ?」
「えっ? だいぶ体が重いですけど……」
「さっきも言ったが、お前は魔力を無理やり消耗した状態だ。そんな状態で魔法を使えば、こうなるのは当然だ」
なるほど、さっき二人に魔法を見せようとしたタイミングで、ちょうど魔力が底を尽きて、倒れちゃったというわけか。
せめてもう一回くらい使えるくらい残ってれば、二人の前で倒れるなんて失態を晒すことはなかったのになぁ。
「どうだ、嫌になったか?」
「いえ、全く。これで魔法が上達するのなら、いくらでもやってみせます!」
「アイリーンさん、あまり無理はしないでくださいね。先生の指示の下とはいえ、わたし、凄く心配です……」
「心配なのは僕もだが、アイリーンの頑張りを邪魔しないためにも、僕達が全力で彼女を支えよう」
「……はい、そうですね!」
「おい、そこで青春を堪能するのは構わんが、俺の研究の手伝いをすることを忘れるなよ」
やや呆れた感じな言い方をするヴァーレシア先生の言葉に、数秒程顔を見合わせた私達は、クスクスと笑った。
青春か……去年の私だったら、そんなものには縁は無いと思ってたけど……人生ってどうなるかわからないね。
****
■ソーニャ視点■
アイリーンさんが魔法の練習を始めてから、一週間が過ぎました。
あれからアイリーンさんは、毎日何度も倒れながら、一生懸命魔法の練習をしています。その努力の甲斐もあってか、少しずつ魔法が使えるようになってきていて、凄く嬉しいです。
そんな中、エルヴィンさんは主に部屋の掃除を、わたしは食事の準備をする係となって、アイリーンさんを支えていました。
「ソーニャ、今日は随分急いで買い物をしていたけど、何か用事でもあるのかい?」
晩ごはんの食材の買い物中、いつも一緒に来ているエルヴィンさんに、不思議そうに尋ねられました。
「実は、ちょっと寄りたいところがありまして……」
「寄りたいところ? 珍しいね、一体どこかな?」
「どことは決まって無いんですけど……わたし、アイリーンさんにプレゼントをしてあげたいんです」
「プレゼント?」
「はい。アイリーンさん、毎日毎日頑張ってるので、何かプレゼントをして元気にしてあげたいなって……それに、魔法が使えたお祝いもちゃんとできてないので……」
おずおずと自分の考えを説明すると、エルヴィンさんは目を丸くしてから、その目を輝かせました。
「素晴らしいじゃないか! ああ、僕としたことが、プレゼントという考えは、全然無かったよ!」
……そ、想像以上に乗り気みたいでよかったです。アイリーンさんのことが大好きであろうエルヴィンさんなら、断らないとは思ってましたが、ここまでは想定外です。
「でも、わたし……お友達にプレゼントってしたことがないので、なににすればいいかわからなくて……エルヴィンさんの意見を貰いたいんです」
「そうだね……僕としては、指輪やネックレスとか……あとはドレスとかも良いと思うんだけどね」
そ、それはさすがに重すぎると思いますよ……そんな素敵なものをプレゼントされたら、アイリーンさん……卒倒しちゃう気がします。
「その案は、またの機会に……」
「それは残念だ。それじゃあ、手当たり次第に見て回ろうか。あまり遅くなると、ヴァーレシア先生に怒られてしまうからね」
エルヴィンさんの言葉に頷いたわたしは、近くのお店から順番に回り始めました。
その中で立ち寄った雑貨屋さんで、わたしはとある物が目につきました。それは、可愛いアロマキャンドルでした。
「エルヴィンさん……このアロマキャンドルはどうでしょうか?」
「良いじゃないか。可愛らしいし、色々な効果も期待できるみたいね」
あ、本当だ……商品の説明欄に、効能がちゃんと書いてあります。見た目が可愛いから手に取っただけだったので、盲点でした。
「せっかく君が見つけたんだから、君が選ぶといいよ」
「えっ? えーっと……それじゃあ……」
いくつも並んでいる中から、見た目が可愛くてアイリーンさんが好きそうなものを、三つ選びました。
効能も、疲労回復とかリラックス効果とか、心を落ち着かせるとか書いてあるので、最近疲れがたまっているアイリーンさんには、どれもピッタリだと思います。
「白、青、ピンク……どれも捨てがたいですけど……これが一番可愛いです」
「このピンクのかい? アイリーンは、こういう可愛い感じの物が好きだし、良さそうだね。大きさも手ごろだし、香りも彼女が好きなものだ」
「さすが、アイリーンさんのことをよくわかってますね……!」
「アイリーンのことなら、ご両親の次に理解していると自負してるよ」
「それも、やっぱりアイリーンさんへの愛でしょうか?」
「ははっ、さすがに君には隠し通せないか」
やっぱり、エルヴィンさんはアイリーンさんのことが好きなんですね。
わたしじゃなくて、ほとんどの人が気づけるようなことではあるのですが、改めてそれを知ることが出来ました。
「それじゃあ会計をしてくるから、君は外で待っててくれ」
「あ、あの……お金は……?」
「僕が出すから気にしないで」
「そ、それではダメですっ! これは、わたし達からのプレゼントなんですからっ!」
「……確かにその通りだ。すまない、僕が間違っていた。一緒に会計しに行こうか」
「はいっ!」
わたしはエルヴィンさんと一緒に会計を済ませると、足早に帰路につきました。
これで、アイリーンさんの疲れが、少しでも減ると良いんですが……。
「……あの、エルヴィンさん。どうしてアイリーンさんは、あんなにボロボロになるまで頑張るんでしょうか?」
負担を減らしたい。そう思った時に、どうしてあんなに頑張るのかと思ったら、自然とわたしの口から、言葉が漏れていました。
「家族のために、宮廷魔術師になりたい……そのために必死に努力するのはわかります。宮廷魔術師は、並大抵の努力ではなれないのは知ってますから。でも……目の前でボロボロになるのは、なんていうか……見ててつらいんです」
わたしのこの言葉は、アイリーンさんの覚悟を侮辱しているようなものです。
アイリーンさんのお友達なら、その覚悟を汲み取ってあげるのが、正解なのかもしれません。
でも、わたしは……毎日倒れるまで魔法の練習をする姿を見てると、アイリーンさんがかわいそうで……胸が張り裂けそうなくらい、つらいんです。
「僕も同じような気持ちさ」
「それなら……」
「でもね。僕は僕の勝手な気持ちで、アイリーンの覚悟を踏みにじりたくない。だから、どんなことをしてでも、アイリーンを支えるんだ。それがたとえ、人生で一度もやったことのない掃除だろうとね。あははっ」
わざと軽いことを言って、場の空気を和ませようとしているのは、鈍いわたしでもわかります。
「アイリーンのために、僕達は自分が出来ることを全力でやろう。そうすれば、きっとアイリーンの力になれるはずだし、負担も減るはずさ」
……そうですね、エルヴィンさんの言う通りだと思います。わたしのような人間でも、きっとアイリーンさんの力になれることがあるはずですよね。
「さあ、早くアイリーンの元に帰って、これを渡そうじゃないか」
「は、はいっ!」
アイリーンさん、プレゼント喜んでくれるでしょうか? 喜んでくれたら、とっても嬉しいな……そう思いながら、わたしはエルヴィンさんと一緒に再び歩き出しました。
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