第四十八話 不思議な練習法
「……絶対に弱音を吐かねぇ。俺のやり方に文句を言わねぇ。それを守れるなら、この夏季休暇の間だけ、特別に教えてやる」
ヴァーレシア先生の言葉に、勢いよく頭を上げる。
今のって、了承してくれたってことだよね? 私の幻聴じゃないよね?
「本当に良いのですか!?」
「一々デカい声出すな。俺は同じことを二度言うのは嫌いなんだ」
よかった、私の幻聴じゃなかった! これで、少しでも魔法が上達するかもしれない。嬉しすぎて、小躍りしちゃいそう!
「あとエルヴィンと、そこの犬っ子。俺の研究の手伝いをしろ。なに、難しいことじゃない。俺一人だと部屋の掃除と整理整頓、メシの準備が疎かになるから、それをしてくれりゃいい」
「わかりました」
「ひゃ、ひゃい……!」
突然話を振られて驚いちゃったのか、ソーニャちゃんは声を裏返しながら、エルヴィン様の背中に隠れた。
「二人共、せっかくの夏休みなのに……本当にいいの?」
「もちろんさ。君の力になれるのなら、不眠不休で手伝うつもりだよ」
「わたしも……アイリーンさんが喜んでくれるなら、頑張りますっ」
「エルヴィン様……ソーニャちゃん……ありがとう!」
――こうして、私の初めての夏休みは、魔法の腕を磨く修行の期間になることが決まった。
あれだけ大見得を張って、二人にも手伝ってもらうんだから、絶対に今よりも上達してみせるよ!
****
翌日、私はエルヴィン様と共に、ヴァーレシア先生の研究室へとやってくると、既に先に来ていたヴァーレシア先生とソーニャちゃんに出迎えられた。
「おはようございます、ヴァーレシア先生、ソーニャちゃん」
「おはようございます」
「お、おはようございますっ」
「おう、朝から一緒に面を見せるとは、お熱いこった。ここは若者のデートスポットじゃねえぞ」
「で、デート!?」
「ヴァーレシア先生、あまりアイリーンをからかわないでください」
いきなり何を言い出すのかと思ったら、デートだなんて……ていうか、私とエルヴィン様って、そういうふうに見えるのかな……もしそうなら嬉しいかも、なんて……!
「んじゃ、そこの犬っ子。あー……ソーニャだったか? お前、なにか料理は出来るか?」
「は、はい。それなりですが、一応……」
「それじゃあ、お前は朝食の準備な。エルヴィンは部屋の掃除をしろ。んでアイリーン、お前にはこれを渡しておく」
ヴァーレシア先生は、使い古した机の引き出しから、掌サイズの水晶を投げ渡してきた。
もう、急に投げてくるなんて危ないなぁ。危うくこんな綺麗な水晶を、落として割っちゃうところだった。
「さっそく魔法の修行だ。その水晶に、魔力を流し続けろ」
「この水晶に?」
「そうだ。それは無尽蔵に魔力を込められる水晶だから、魔力過多で壊れることは無い。わかったら、さっさとやれ」
なにか凄い魔法を教えてくれるとか、魔法のコツを教えてくれるのかと思ったけど、魔力を流し込むだけ?
まあ、それくらいなら一応私にもできる。
なによりもヴァーレシア先生のやり方に文句を吐かないって約束だし……言われた通りにやってみよう。
「ちなみにですけど、どれくらい魔力を流し込めばいいんですか?」
「俺が良いというまでだ」
「はあ……わかりました」
少し間抜けな返事をしながら、ガタガタな椅子に座って、水晶に魔力を込め始める。
よくわからないけど、言われたからにはやってみるけど……これで魔法が上達するのかな?
そんな疑問に思いつつも、私は言われた通りに水晶に魔力を流し続ける。
その間に、ソーニャちゃんがおいしい朝食を用意してくれたり、エルヴィン様が掃除に全く慣れていないのか、逆に散らかしてしまうなどの事件が起こったりもした。
「……あの、ヴァーレシア先生……これ、いつまでやるんですか?」
「さっき言っただろ。俺が良いというまでだ。おいソーニャ、その本棚の三段目の本、全部ここに持ってこい。エルヴィン、あまり埃をたてて掃除をするな」
魔力を流し始めてから、もう四時間は経っている。朝食で少し休憩があったとはいえ、さすがに疲れてきた。
それに、ずっと座って同じ事をしているというのは、精神的に来るものがある。
でも、泣き言は言っていられない。きっとこれには重要な意味があるのだから。
「…………」
「そろそろ昼食の準備をしろ。材料は……もう無いか。お前ら、金はやるから何か材料を買ってこい。ああ、アイリーンはここで続けろ」
「わかりました。ソーニャ、行こうか」
「は、はい。アイリーンさん、頑張ってくださいね」
「…………あ、うん! ありがとう! 気を付けていってきてね!」
精神的な疲労と、魔力をかなり失ってしまった疲労で、返事が遅くなってしまった。
これくらいでへばっていたら、魔法を使えるようになるなんて、夢のまた夢だ。もっとしっかりしなさい、私!
「ふむ……そろそろいいか。アイリーン、その水晶をここに置いて代わりにこれを持て」
「この紙は?」
「別に何の変哲もない、ただのいらない紙だ。お前の魔法で、それを燃やしてみせろ。ああ、しょうもない魔法で隅っこだけ燃やすとか認めねーからな。一発で全部燃やせ」
一発で燃やせと言われても、何も教わっていない状態で、そんなことが出来るはずがない。
自慢じゃないけど、私が炎の魔法を使ったところで、大成功してもマッチ程度の火力しか出せない。
それに、ずっと魔力を水晶に流し続けていたせいで、もうほとんど魔力が残って無くて、フラフラな状態になっている。
「なんだ、さっさとやれ。それとも、こんなところで燃やしたら火事になるとでも思ってるのか?」
「それもそうですけど、私の魔法ではこれを一瞬で燃やすなんて、出来ないんです」
「やる前から諦めんのか。とんだ見込み違いだったな。さっさと帰れ」
「……そ、そうですよね。やる前から諦めてたら、なにも始まりませんよね。私、やってみます!」
失敗したら、その時はその時だ。今までだって失敗しかしていないのだから、それが一回増えたところで、何の問題もない。
そう開き直った私は、意識を集中して、授業で教わった炎の魔法を発動した――
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