第四十七話 このままじゃダメだ!!
「このままじゃダメだ!!」
試験から少しの月日が経ち、今日は一学期の終業式。その終業式の後のホームルームが終わった後、私はとあることを決心し、勢いよく立ち上がった。
「ど、どうかしたのですか……?」
「私、この前の実技試験であまり活躍できなかったでしょ?」
「そうかな? 僕達のピンチを咄嗟に助けてくれたじゃないか」
「あれは、たまたま私の知識が活かせる状況だったからです。実際に、私は偽物に追い詰められて、死にかけてますし」
結果的にはうまくいった。それでいいのかもしれないけど、それで済ませていたら、私はなんの成長も出来ない。
これでは、宮廷魔術師になって家族を楽させるなんて夢、叶いっこないよ。
「それに、ゲオルク達がああなったのも、君の手柄だろう?」
「それはそうかもしれませんけど……」
納得ができない私は、視線を逸らしながら、唇をギュッと噛んだ。
今回の一件の元凶であるゲオルク様だけど、あの試験から一気に悪い話が広まって言っている。
生徒会長なのに、実技試験が不合格だった。
生徒会長なのに、妹達を見捨てて逃げだした。
生徒会長なのに、妹達に責任を擦り付けていた。
これ以外にも、似たような話が拡散され続け、ゲオルク様の評判はがた落ちしてしまった。
それと同時に、シンシア様やミア様も酷い言葉を言った影響か、評判が下がっている。
唯一大丈夫なのは、ルシア様くらいだろう。あの人の話は、ほとんど聞かないからね。
あ、ちなみに私を襲ってきた人だけど、試験が始まってからの記憶が無いみたいで、情報を聞き出せなかったんだ。
代わりに、物凄く謝られちゃって、逆に申し訳なるくらいだったよ。
「とにかく、私はもっともっと強くなりたい! せっかくの夏休みだから、沢山魔法の練習をして、ソーニャちゃんの友達として、エルヴィン様の特別な人として、相応しいくらい強くなりたい!」
「その心意気、素晴らしいと思います……! わたし、応援します! 何か手伝えることがあったら、何でも言ってください!」
「ありがとう、ソーニャちゃん! それじゃあ、私にパワーを分けてほしいな。ってことで、ギュー!」
「ふひゃ!? あ、アイリーンさんってば~!」
突然抱きついても、ちょっと驚くだけで受け入れてくれるソーニャちゃん、優しすぎない? 実は犬の獣人じゃなくて、女神の獣人なのでは……? いや、女神の獣人ってなんだかおかしいね。
「……そんなに強くなりたいなら、きっかけになれる人に心当たりがある」
「そんな人がいるんですか!? 」
「その人は、この学園の教師をしているんだ。受け持ってる学年は三年生だから、僕達は授業を受けたことはないけどね」
セレクディエ学園の教師に、そんな凄い人がいるなんて知らなかった。この由緒正しい学園の教師を出来るんだから、凄いのは当然かもしれないけどね。
「彼は歴代の魔法使いでも、確実に歴史に残るといわれるほどの魔法使いだ。彼なら、君を魔法が使えるようにしてくれるかもしれない」
「な、なら……お願いしにいきましょう……!」
「それが、少々問題のある人物でね。実力は確かなんだが、研究ばかりしてて、人付き合いを好まないんだ。授業もプリントだけやらせて、自分はすぐに研究室に戻ってしまうくらいだそうでね」
それは、なんというか……自由な人だ。そんな人が、私に魔法を教えてくれるのだろうか?
「望み薄かもしれませんけど、動く前から諦めてたら何も始まりません。もしかしたら、お願いしたら引き受けてくれるかもしれませんし!」
「アイリーンの言う通りだね。よし、それじゃあ彼の元に行ってみようか」
「わ、わたしも行きます……! なにかお役に立てるかもしれませんので……!」
二人の頼もしい仲間と一緒に、目的の人物がいるとされる、研究室へと向かう。
研究室は、どうやら学園の旧校舎の地下に居を構えているようだ。それで旧校舎に来たは良いけど、薄暗いし人がいないしで、不気味なところだった。
「人がいませんね……」
「ここは旧校舎だから、基本的に生徒は用がないからね。二人共、僕から離れないようにね」
少しだけ前を歩くエルヴィン様の左手を私が掴み、ソーニャちゃんは右手の裾を掴む。
学園の敷地内のはずなのに、まるで知らない場所を探検しているかのような気分だ。
「ここだ。ヴァーレシア先生、いらっしゃいますか?」
「入れ」
地下のとある部屋の中から、しわがれた男性の声が聞こえてきた。
その声に従うように部屋の中に入ると、中は魔法の本や魔道具でグチャグチャになり、壁や天井には数多の魔法陣が刻まれていた。
それだけでも驚きなのだが、それ以上に部屋の中がまるで火事になっているんじゃないかってくらい、煙っているのが印象的だった。
「ごほっごほっ……け、煙いし臭いです……」
「これ、タバコの臭い? ソーニャちゃんの鼻だと厳しいかもね……無理しないで、ダメそうなら帰っていいからね?」
「いえ、もうちょっと頑張ります……!」
ソーニャちゃんは、鼻を抑えて涙目になってしまっている。
こんな状態でも、私のために頑張ってくれるだなんて、本当にソーニャちゃんは優しくて良い子だ。今度またお礼をしないとね。
「ふー……この回路でもダメか。それなら……」
煙の向こうでは、一人の男性が何かブツブツ言いながら、魔法陣を空中に出しては消し、時には魔法陣同士を組み合わせて新しい魔法陣を作っていた。
よれよれの白衣、ボサボサの髪、無精髭だらけのその風貌は、お世辞にも教育者には見えない。
本当にこの人がそうなのだろうかと一瞬思ったけど、ここまで来て人違いというのは考えにくい。
「ヴァーレシア先生、研究中に申し訳ありません」
「あ? オメーは確か……そうだ、二年のエルヴィンだったか?」
「はい。二年のエルヴィン・シャムルです。本日はヴァーレシア先生にお願いがあってきました」
「はっ、女を侍らせてお願いたぁ、良いご身分なこった。わざわざご足労してもらって悪いが、俺は研究で忙しい。帰れ」
咥えていたタバコを魔法陣に擦り付けて火を消しながら、空いた手でシッシッと私達を払う仕草をする。
完全に話を聞く雰囲気じゃないけど、これくらいなら想定内だ。
「あ、あの! 私、アイリーンと申します! 今年から、特待生として編入してきました! 先生は凄い魔法使いと聞いてきました! 私、魔法が全然うまく使えなくて……なので、魔法を教えてください!」
「…………」
今までずっと誰とも目を合わせてくれなかったのに、急に私の方に顔を向けたと思ったら、じっと私の目を見つめてきた。
気だるげなのに、どこか鋭さを感じるその目は、率直に言うと恐ろしく感じたけど、ここで目を逸らしたら逃げたと思われるかもしれない。
「アイリーン……ふん、特待生に選ばれた奴が魔法が使えないとか、なんの冗談だ?」
それが冗談だったらどれだけよかったか……あはは……。
「まあそんなことはどうでもいい。どうして力を求める? 特待生の面子か? それに、どうして俺なんだ? 魔法を教えるのなんて、そこの彼氏にでもしてもらえばいいだろ。確かそいつ、成績優秀だろ?」
「か、かれっ!? 私達はまだそういう関係じゃないですから!」
もう、突然何を言い出すのこの人は!? 思わず大きな声が出ちゃったじゃない!
「情けないことに、僕には教える才能が無いのです。なので、高名な魔法使いであるヴァーレシア先生に、お願いをしに来た次第です」
「その……この前の実技試験で、魔法が使えないせいで、二人の足を引っ張ってしまいました。それで、このままじゃいけない、すぐにでも魔法が上達したいと思って!」
「…………」
「私はもっと魔法が上手になりたい! そして、いつか宮廷魔術師になりたい! お願いします!」
私は何度も何度も頭を下げ続ける。すると、エルヴィン様とソーニャちゃんも一緒に、私のために頭を下げてくれた。
「…………」
ここまでしても了承してくれないのなら、最終手段――誠心誠意の土下座をして、更に頼みこむ。
「あ、アイリーン!? なにをしてるんだ、頭を上げて!」
「上げません! お願いします、私はもっと魔法が使えるようになりたいんです! もっと頑張って、二人に相応しい人になりたい! 宮廷魔術師になって、私を拾って育ててくれた両親を楽させてあげたいんです! お願いします! 私に出来ることなら、なんだってやりますから!!」
大切な二人や家族のため、そして自分の夢のために、おでこを汚れた床の上にこすりつけながら、何度も何度も頼み込む。
すると、今までずっと黙って私のことを見ていたヴァーレシア先生は、ふう……と深く溜息を漏らした。
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