第三十七話 面倒な女と思われても……
翌朝、今日も私の家まで迎えに来てくれたエルヴィン様と一緒に、出発前にお茶を飲んでいた。
ただ、今日はいつもと全然違う。エルヴィン様への気持ちを自覚してしまったからか、まともに顔を見ることができないし、会話も全然弾まない。
「アイリーン、調子でも悪いのかい?」
「そ、そそ、そんなこりょありましぇんよ!?」
ダメだ、緊張で舌も全然回っていない。これでは、エルヴィン様に余計な心配をかけてしまう。
「それならいいんだけど……そろそろ出発しようか。お義母様、ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。それじゃあ二人共、気をつけていってらっしゃい」
「い、いってきます……」
いつものようにママに送りだされて、エルヴィン様の乗ってきた馬車の前まで行くと、これもいつものようにエルヴィン様は、私の手を取ってリードをしようとする。
今までも、エルヴィン様に触れられると顔が赤くなっていたけど、今日はそんなのは比にならないくらい、体が熱くなっているし、心臓がドキドキしすぎて爆発しそうだ。
「やっぱり今日のアイリーンは少し変だよ。なにかあったなら、僕に相談してくれないか? きっと力になってみせるよ」
「っ……! だ、大丈夫でしゅ……!」
言えない。言えるわけがない。あなたへの恋心を自覚したせいで、緊張しすぎてしまっているだなんて。
こうして毎朝迎えに来てくれるのも、私を特別な人だって思ってくれているから……あれ?
「ちょっと待って……」
確かにエルヴィン様は私を特別な人と言った。それは、友達という意味ではないのもわかっている。
でも、それが異性として好きだからと断言はできないんじゃ……? 例えば、私のことを妹みたいに思ってるとかなら、ある意味特別とも言える。
それに、ママやソーニャちゃんの考えだって、勘違いの可能性も否定しきれない。
……これってもしかして、私が一人で盛り上がってるだけで、ただの勘違いの可能性もあるんじゃ……。
こんなネガティブな考え方は、絶対良くないのはわかっているのに、少しでも考えたら嫌な気持ちがどんどんと広がり、さっきまで熱くて仕方がなかった体から、血の気が引いていくのを感じた。
私のことを好きじゃないなら、エルヴィン様はいつか知らない人と結婚して、その人と幸せな家庭を築くんだよね? そんなの、そんなの……嫌だ……私、耐えられない……。
「あ、アイリーン? 今度は顔が真っ青だよ!? 本当に今日はどうしたんだい!? やはり調子が――」
「ぐすっ……エルヴィン様は……他の人のところに行ったりしませんよね……ずっと私と一緒にいてくれるんですよね……?」
こんなことを言っても、エルヴィン様を困らせてしまうだけだし、ただの面倒な女と思われてもおかしくない。
でも、不安で不安で仕方がなくて、つい情けない言葉をこぼしてしまった。
「アイリーン、なにを不安に思っているのか、僕にはわからない。でも、これだけは言える。僕は、君の傍を離れることは、絶対に無いよ」
「エルヴィン様……」
いつもの様に微笑みながら、私の頭を優しく撫でてくれた。それだけのことで、私を支配しようとしていた不安感は、どこかに行ってしまった。
我ながら、何とも単純な女だと思うが、単純になってしまうくらい、私はエルヴィン様のことが好きなのだろう。
「少しは元気出たかな?」
「はい。ありがとうございます、エルヴィン様。あの……私、エルヴィン様のこと……」
「アイリーン?」
――好きです。その一言を言えばいいのに、口がパクパク動くだけで、言葉が後に続いてこない。
この気持ちを伝えたい気持ちも、エルヴィン様ともっと特別な関係になりたい気持ちも、紛れもなく本物だ。
でも、私に言う度胸が足りないのに加えて、もし本当にエルヴィン様は私を異性として好きじゃないのに、好きだと言ったら……多分、この関係は壊れてしまう。
そう思ったら、怖くてそれ以上の言葉が出なかった。
「いえ、なんでもないです……」
「……そうか。もし言いたくなったら、いつでも言っていいからね。僕は逃げずに向き合うから」
「ありがとう、ございます……」
もしかしたら、エルヴィン様は私が言いたかったことを理解してるけど、あえて急かさないでくれたのかも……そんなことを思いながら、私は今日も学園へと向かっていった。
****
■ゲオルク視点■
「ええい、くそっ! くそっ!!」
ある日の放課後、俺様は下校して誰もいなくなった生徒会室で、声を荒げながら、机に拳を振り下ろして怒りをぶつけていた。
怒りの理由は単純だ。ここ最近、アイリーンが充実した学園生活を送っていることが、気に入らないことだ。
エルヴィンとまるで恋人のように仲良くし、どこぞの犬族の女と友人になったようで、楽しそうに話している姿を何度も見かけている。
あの女狐には、ずっと孤独で底辺を這いずっているのがお似合いだというのに、今では真逆の生活を送っているではないか! ああ腹立たしい!
本当は、俺様自らがあいつらの関係を壊して、アイリーンの心にも体と心に一生残る傷を増やしてやりたいところだが、学園の監視の目が厳しくなってしまい、迂闊に手が出せない状況だ。
「まったく、シンシアとミアが余計なことをしなければ、今頃は手を打てたというのに……!」
愛する妹達を悪く言うのはよくないが、こればかりはあいつらが勝手な行動をしたせいだと言える。あいつらの気持ちもわからなくはないが、全く余計なことをしてくれたものだ。
「失礼しますわ、ゲオルク様。ルシアですわ」
「ああ、どうぞ」
イライラして癒しが欲しかったタイミングで、ちょうど愛しのルシアが生徒会室にやってきた。
どこぞの狐と違って、俺様の恋人はとても気が利くな。あとでストレス発散も兼ねて、たっぷりと可愛がってやるとしよう。
「何か用か?」
「先程、例の試験のチーム分けの書類を提出してまいりましたの。それを報告をするために、馳せ参じた次第ですの」
「そうだったか。それはご苦労だったな」
期末の実技試験など、俺様にとって遊びに等しいものだ。むしろ、適度に手を抜いてやらないと、周りの連中がついてこれない。それではあまりにも惨めだろう? ああ、俺様は本当に優しい男だ。
「実技試験……待てよ、一つ良いことを思いついた。ルシア、確か今回の試験は、全学年合同だったな」
「仰る通りですわ」
「なら、こういうことはできるか?」
俺様は、先程思いついたことや、その目的を話すと、ルシアはうっとりした表情で、俺の肩に頭を置いた。
「素晴らしいですわ、ゲオルク様。あなた様の案ならば、今度こそあの忌々しい女にぎゃふんと言わせられるでしょう」
「そうだろう? だが、恐らく今のままでは、俺様達とアイリーンは、一緒になることはない。学園としても、面倒事は避けたいだろうから、意図的に違う振り分けになるだろう」
「なるほど、そこで私の力の出番ということですね」
「お前は本当に察しがよくて助かる。ルシア、お前なら悟られずに出来るだろう?」
「ええ。その程度のことでしたら、絶対に悟られないでしょう」
よし、そうと決まればさっそく下準備を始めないとな。
くくっ……待っていろ、アイリーン。今度こそ、貴様を元いた底辺まで叩き落として、俺様にたてついたことを後悔させてやる……!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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