第三十五話 三人いればきっと!
「はぁ……」
セレクディエ学園での生活が始まってから数ヶ月後のある日。私はソーニャちゃんと一緒にテラスでお昼ご飯を食べていると、突然ソーニャちゃんが深い溜息を吐いた。
「どうかしたの? なにか悩み事? あ、もしかして私が知らないところで、また誰かに良いように使われてるの!? もしそうなら、私が注意してくるよ!」
「い、いえ! そうではありません! 心配してくれてありがとうございます、アイリーンさん」
いつも垂れている耳をピンッとさせながら慌てるソーニャちゃんは、同性の私から見ても可愛いと思える魅力がある。
ちなみに、私の口調がかなり砕けているのは、この数ヶ月でソーニャちゃんと交流している中で、友達なんだからよそよそしいのはどうかなって思って、両親と話す時のような口調になっている。
本当は、ソーニャちゃんにも敬語を使ってほしくなかったんだけど、本人曰く、これの方が使い慣れているから、気にしなくて大丈夫とのことだ。
「もうすぐ、期末テストがあるじゃないですか? わたし、前回の中間テストの成績が良くなかったので、心配で……」
「あ~……私も、実技がさっぱりだったから、その気持ちはよくわかる……」
セレクディエ学園の定期テストは、入試試験と同じように、筆記と実技の二つがある。この二種類のテストの結果が悪いと退学の危険もある、とても重要なテストだ。
そのテストで、私は筆記の方はほぼ満点だったんだけど、実技の方が……ちょっと目も当てられない、悲惨な結果だった。
先生にも、仮にも特待生なのだから、もう少ししっかりしろと、嫌味まで言われる始末だ。
ソーニャちゃんは、筆記も実技もあまり良くなかったようで、退学こそしなかったものの、このままだと少々マズい状況らしい。
それと、エルヴィン様は筆記も実技もトップクラスだったそうだ。さすがはエルヴィン様だよね! 聞いた時は、自分のことじゃないのに、自慢してまわりたくなっちゃったよ!
「せっかく放課後に、アイリーンさんやエルヴィンさんにたくさん教えてもらったのに……自分が不甲斐ないです。それに、わたしのために、高いお金を払ってくれているお父さんやお母さんに、顔向けできません」
ソーニャちゃんの表情が、どんどんと暗くなっていく。
私と同じように、ソーニャちゃんも両親のことが大好きな子だというのは、この数ヶ月の間に聞いた話で知っている。
なんでも、ソーニャちゃんの家は商人をしているそうなんだけど、それほどお金持ちじゃないのに、ソーニャちゃんの将来を考えて、お金を切り崩してセレクディエ学園に入学させてくれたそうだ。
仕事で忙しいのに、少しでも時間が空いたら自分のために使ってくれる優しい両親が、とても大好きで尊敬していて、いつかは自分が二人の仕事を継ぎたいんだと話した時の、ソーニャちゃんのキラキラした目は、今でも鮮明に思い出せる。
「自分を追い込んじゃダメだよ、ソーニャちゃん! 次のテストも一緒に頑張って乗り越えよう!」
「アイリーンさん……はいっ! 頑張りますっ!」
私はソーニャちゃんの両手を包み込むように握ると、しょんぼりしていたソーニャちゃんの表情が、パッと明るくなった。
ソーニャちゃんは笑顔が一番可愛いから、こうやって笑っているのが一番なんだよ。
「おまたせ、二人共。遅れてしまってすまない」
「エルヴィン様!」
ソーニャちゃんと一緒に笑い合っていると、エルヴィン様がお昼ご飯を持って、私達のいる席にやってきた。
「何の話をしていたんだい?」
「えっと、その……今度の期末テストの話をしてたんです……」
「そうか、もうそんな時期か。それじゃあ、またテストに向けて勉強会をしようか」
「いいんですか?」
「もちろんさ。君達の力になれるなら、僕としても本望だからね」
いつも頼りっぱなしなのに、勉強のことになると、いつも以上にエルヴィン様を頼りっぱなしになってしまうのは、正直に言うと申し訳なく感じている。
私がここまで勉強が出来るようになったのは、エルヴィン様の協力のおかげだし、ソーニャちゃんもエルヴィン様に魔法を教えてもらったおかげで、随分と上達したんだよ。
……改めて思うと、エルヴィン様の魔法の指導は色々と凄いのに、ソーニャちゃんが説明を理解して、自分の実力に出来たのって、本当に凄いと思うなぁ。私なんか、全く理解できなかったもの。
「勉強の方は良いけど、実技の方は自信ないなぁ……前回も酷かったし」
「実技といえば、さっき内容について告知の張り紙がされていたよ。多分、今日のホームルームでも、改めて周知されるんじゃないかな」
セレクディエ学園の期末試験の実技試験は、毎回その内容が変わる。私はまだ経験が無いから、どのような内容なのか、見当もつかないけどね。
「今回は、山の中で学年合同ハイキングをするそうだ」
「……なんだか、それだけだと試験じゃなくて、レクリエーションみたいですね?」
「ははっ、アイリーンの言っていることはもっともだね。ただ、これは試験だ。きっとただのハイキングでは済まないだろう」
詳しい内容を話さない辺り、きっと詳細までは告知されていないんだろう。
全部わかっていたら、簡単に対策を立てられてしまうから、当たり前ではあるけどね。
「それで、試験に当たって事前にチームを組んで、提出しないといけないそうだ。人数は二人から四人まで。同学年だったら、誰と組んでも良いって書いてあったよ」
「ち、チーム制……ですか……それって、誰とも組めなかった場合って、どうなるんでしょう……?」
「その場合は、先生が組めなかった人達でランダムなチームを作るって書いてあったよ」
「そ、そうなんですね……」
少しほっとしたように胸を撫でおろすソーニャちゃん。
きっと、誰とも組めない最悪のケースを考えてしまって、不安を感じていたのだろう。
気持ちはわかるけど、そんな心配は全く必要が無い。だって、私がソーニャちゃんをチームに誘うんだから。もちろん、エルヴィン様も!
「実は、ここに来る前に既に何人ものラブコールを受けていてね。それが原因で遅くなってしまったんだ」
「えっ!? そうだったんですか!?」
「まあ、全部断ってきたんだけどね。僕のことを評価してくれるのは光栄だけど、君達と組めなくなってしまうからね」
エルヴィン様とソーニャちゃんと一緒に組みたいって思ってたのに、もうエルヴィン様は組んだ後なのかと、一瞬嫌な考えが頭を過ぎったけど、そんな心配は不要だったみたい。
そもそも、エルヴィン様が私を差し置いて、別の人の誘いに乗るなんて、ありえないような……ダメね、こんな考え方は自意識が過剰すぎる。
エルヴィン様だって事情があって、私の誘いを断る時が来るかもしれないのにね。
「そういうわけで、アイリーン、ソーニャ。僕と一緒にチームを組んでもらえるかな?」
「私はもちろん大歓迎ですよ! 三人いれば、きっと大丈夫です! ソーニャちゃんは?」
「嬉しいです……! お二人の足を引っ張らないように、頑張りますっ!」
ソーニャちゃんは、小さな握り拳を作りながら、ふんっと気合を入れる。耳と尻尾もピコピコ動いていて、とても可愛い。
よーっし、私も二人の足を引っ張らないように、頑張らないと!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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