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【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません  作者: ゆうき


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第三十二話 自然の中でデート!?

 同日のお昼前、私は今日の昼食のおかずを手に入れるために、エルヴィン様と一緒に、散歩も兼ねて森の中にある川にやってきた。


「この森に来るといつも思うんだけど、この辺りは本当に空気がおいしくて過ごしやすいね。川辺は涼しいし……こういう自然の中でのデートというのも格別だね」


「で、デートって……」


「おや、違うのかい?」


「ち、違います! これは食料の調達です!」


「それなら、どうして僕を連れて来てくれたのかな? 普通なら、お客さんを食料調達に連れてはこないよね?」


「それは、その……エルヴィン様なら、断ってもついてくると思っていたというか、一緒にいたかったというか……ごにょごにょ……」


 必死に言い訳をしながら、勝手に動いてしまう尻尾を抱えて見せるが、私の気持ちを完全に見透かされていたようで……エルヴィン様は終始ニコニコしながら、私を見つめていた。


「アイリーンは、今日も相変わらず可愛いね。ところで、どうやって調達するんだい? 情けないことに、僕はこういうことをした経験どころか、森の中を長時間歩いたことも無くてね」


 なるほど、だからここに来るまでの間、エルヴィン様の歩みが少し遅かったのね。足でも痛めたのかと思って心配だったのだけど、杞憂で済んで良かった。


「ふふっ、そこで見ててください」


 私は自信たっぷりに川辺まで行くと、靴を脱いで川の浅いところに入る。

 そして……私は気配を殺しながら魚に近づいて、全神経を集中させて……!


「……ここだっ!」


 一瞬の隙を突くように尻尾で魚をすくい上げる。すると、魚は綺麗な放物線を描いて、岸へと飛んでいった。


「おみごとだよ、アイリーン! 君にこんな特技があるだなんて!」


「えへへ……昔から食費を少しでも浮かせるために、こうして食材を獲りに来てたので、慣れてるんです。そいやっ!」


 褒められて調子に乗った私は、二匹目、三匹目と順調に魚を確保していく。

 そうして捕まえた魚が十匹になったところで、今日の漁はお開きとなった。


「いっぱい捕まえたね」


「エルヴィン様に、沢山食べてもらいたいですからね。獲れたては、塩をふって焼くだけでも絶品なんですよ」


「僕のために? ありがとう、アイリーン。お礼に何かさせてほしいな」


「それでしたら、魚をバケツに集めましょう。いつも獲るのに夢中になって、適当な場所に放り投げてしまうんですよ」


「さ、魚をか……わ、わかった」


 エルヴィン様にしては、珍しく余裕がないような感じがするような……あれ、なんだか魚を恐る恐る触っている。


 あ、そうか! エルヴィン様、生きた魚を触った経験が無いんだ! それなら、おっかなびっくりになるのも無理はないね。


「エルヴィン様、大丈夫ですよ。こうやって掴んで、そのままバケツに入れるだけです。毒とかありませんし、棘もないので大丈夫です」


「わ、わかった。わわっ、想像以上にぬるぬるして滑るな!?」


 こんなに慌てるエルヴィン様、初めてみたかも……いつもだったら、私が慌てる立場なのに……。


 どうしよう、凄く可愛いかも……私がやった方が良いのはわかってるけど、この可愛いエルヴィン様を、もっともっと見ていたい。


「大丈夫です、そのままバケツに! 焦らずにゆっくり!」


「あ、ああ! 良い子だから、大人しくしていてくれ……よっ!」


 エルヴィン様の手の中で大暴れをしていたお魚達は、全てバケツの中に移し替えることができた。


 いつもやっていることでも、大切な人とやると楽しさが倍増するなんて、とても不思議だね。


「なんとかなったかな……慣れないことをすると、こうもうまくいかないとは」


「エルヴィン様は凄いですよ。ダメな人だと、絶対に触れない人とかいますしね」


 私が川に魚を獲りに来た時に、たまに家族連れで遊びに来ている人とかいるんだけど、魚が気持ち悪くて触れないと騒いでいる人を、何人も見たことがある。


 エルヴィン様も、最初だけはその人達と同じな雰囲気だったのに、すぐに慣れて触れるようになったんだから、十分凄いと思うんだ。


「他にも、なにか集めるのかい?」


「いえ、あとは家にあるもので十分ですので、家に帰りましょう」


「わかった。その前に、尻尾が濡れちゃったから拭かないとね」


「だ、大丈夫ですよ。こうやってブンブン振れば、すぐに乾きますから」


 私はエルヴィン様に水気が飛ばないように、小刻みに尻尾を振ってみせる。


 いつもなら、ちゃんとタオルを持ってきて、終わった後にしっかり拭いている。今日だって、ちゃんとタオルは持ってきて、先に足をしっかり拭いている。


 でも尻尾は拭かない。なぜなら、きっとエルヴィン様のことだから、私の尻尾を拭いてあげると言うのが、目に見えていたからだ。


 それが嫌というわけではないけど、男性にそんなことをされるのは恥ずかしいし、尻尾はとても敏感なところだから、なおさら恥ずかしいんだよね。


「そうかい? それじゃあ、足元に気を付けて……って、僕より慣れてる君に言うのは、おかしな話だね」


「そんなことないですよ。いつもリードしてくれるの、嬉しいです。とても恥ずかしいですけど……」


 いまだに男性に触れられるのになれてないうえに、私は貴族でもないのに、貴族を相手にするようにリードしてくれるのは、正直恥ずかしく感じる。


 でも、それ以上にエルヴィン様にこうしてもらえるのが嬉しくて、その手を拒むことが出来ない。そして、その日の夜にベッドの上で思い出して悶えるのが、いつものセットだ。


「エルヴィン様も気を付けてくださいね。川辺の岩って、想像以上に滑るので」


「わかった、気を付けるよ――おわっ!?」


 気を付けると言ったばかりなのに、エルヴィン様は危うく滑って転びそうになっていた。


 転ぶ前に言えてよかった。もし言わなかったら、思い切り転んで石に体を打ち付けていただろう。当たり所が悪かったら、そのまま……うぅ、考えたくもない。


「大丈夫ですか?」


「ああ。アイリーンが事前に言ってくれたおかげだね」


「たまたまですよ。さあ、行きま……ん? くんくん……この匂いは……エルヴィン様、少しこの辺りで休憩しましょう」


「構わないが、どうかしたのかい? 疲れたのなら、抱っこしてあげるよ?」


 だ、抱っこって……もしかして、物語とかに出てくる王子様が、お姫様にしてあげる、あの恥ずかしいやつ!?


 そんなの、恥ずかしすぎて絶対に気絶しちゃうよ! で、でも……してもらいたくないかと聞かれると、してほしいような……。


「そ、そうじゃなくて! 雨の匂いがするんです!」


「雨だって? でも、雲はあまり出ていないよ?」


「そうなんですけど、多分もうすぐ降ると思うんです。だから、雨宿りをと思ったんです」


 いきなりこんなことを言われても、信じてもらえないかもと思ったけど、エルヴィン様は私の言葉を一切疑わず、小さく頷いて見せた。


「わかった。アイリーンがそう言うなら、きっとそうなんだろう。どこか雨宿り出来そうなところはあるかな?」


「あそこに、大きな木が見えますよね? あの木には大きなウロがあるんです。二人で入っても問題ないくらい大きいので、そこで雨宿りしましょう」


 少し急いで歩きだしたのも束の間、ぽつぽつと雨粒が私達を襲い始める。そして、すぐに雨は本降りになってしまった。


 せ、せっかくのエルヴィン様とデート……じゃなくて、お出かけだというのに、雨だなんてついてない。早く雨宿りをしないと、風邪を引いちゃう!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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