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65.元気でしょうか


信と会った次の日、大福屋のバイトを終えてガラリと扉を開けた。


ガードレールに持たれるように立っていた人の幻が見えたような気がして、パチクリと瞬きを繰り返す。改めて正視すると、そこには誰もいない。


ここのところ何だかんだ言って一週間に一度は顔を合わせていた。黛が研修医となり忙しくなってからも、よく趣旨の分からないメッセージが週に一回は来ていたような気がする。

そう言えば偶然本田家で居合わせた以外で二人で顔を合わせる時は、いつも黛からのお誘いによるものだったという事に七海はやっと気が付いた。







家に帰り洗濯籠の中身をより分けて洗濯機に入れる。スイッチを押した後掃除機を掛け更にソファにコロコロを掛けていると、洗濯機からピーッピーッと終了の合図が聞こえた。洗い終わった洗濯物を抱えバルコニーへ出る。洗濯ものをパンパンと伸ばしながらハンガーに干していくと、風に吹かれて辺りがふんわりと柔軟剤の香りに包まれた。

全ての洗濯物を干し終わり、ベランダの窓を開け放したままフローリングに腰掛け、はためく衣服越しに青い空を見上げる。


(元気でやっているのかな?それともまたボサボサ頭の怪しい風体になるくらい、忙しくしているのかな?)


便りが無いのは良い知らせと言うけれども。

最近ほぼ週末毎に顔を合わせていたから、黛の不在が余計に七海の心に沁みて来る。


バタンっと扉が開いて、小さな足音がパタパタと響いて来る。

次の瞬間どすんと温かい体が七海の背中に飛び込んできた。

小さな腕が首に回され、そのまま乗っかるように押し潰される。


「翔太、お帰り」

「ただいまー」


ケラケラ笑いながら、翔太はオモチャコーナーへ走り去る。

後から両親がやって来た。


「今日、日差し暑っいわー!これから回転寿司食べに行くんだけど、七海も行く?」

「行く」


母親の響の問いに七海は即答した。

唯と本田が宮崎に遊びに行くので、あらた亜理子ありすも一緒についていくらしい。他の友達もデートやら何やらで忙しく、大福屋のバイトと家事以外この週末七海のスケジュールは空白だった。


「やぁ!」


先ほどまで父親の翔平と一戦交えていた翔太が、オモチャの剣を抱えて七海に襲い掛かって来た。


「ぎゃあぁ~」


とアッサリ斬られて倒れると、フッと満足気に笑ってその場に仁王立ちした翔太が言った。




「ねえ、まゆずみくん今日はあそびに来ないの?」

「え?」




腕を組み、不遜な態度で翔太は言った。


「ななみすぐ死ぬからおもしろくない」

「……」


どうやら翔太は黛との遊びが大層楽しかったらしい。







その日七海は黛あてにメッセージを入れた。




『元気?時間できたらご飯食べに行こう』




―――けれども、返事は返って来ないまま。一週間が経過したのだった。



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