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てのひらに星雲を  作者: Q7/喜友名トト
シーズン3~夏休み編~
61/70

未来は、

 響は自分の言葉に真実味が大きくあるとは思っていない。おそらく、というか間違いなくローゼスにとってもそうだろう。

 三つのキークリスタルの一つ『ミンタカ』を奪われた直後の響がさらにもう一つのキークリスタル『アルニラム』も実は持ってました、なんていうのは考えられないことだ。

 実際、アルニラムはオリオンアカデミーのダルモア副学長が管理しているし、そこはここからは光年レベルで離れた場所だ。

 

 そもそも銀河を揺るがすほど重大なものであるアレを響が持っているのは、単に父親から譲り受けたものの所有権を許されているからにすぎないのだ。

 それは、当然ローゼスもわかっているはずだ。


「私がそれを信じるとでも思うのかね?」


 ローゼスは通信を通して響の質問に答えた。が、それは響の想定のうちだ。

 たしかに彼の言う通りだし、響の言っていることは嘘だ。

 しかし。


 しかし、だ。


「まあ、99.9%はクソガキのハッタリだと思うのが普通じゃないの?」

「残念ながら、その通りだとしか答えようがない」


「けど、100%じゃない、だろ?」


 響は手にしてクリスタル、さっき買ったばかりの、遠目に見れば『アルニラム』に見えなくもないイミテーションをちらつかせ、続ける。


「アンタの乗ってるその宇宙船はどうせ武装もしてるんだろうけど、いいよ別に? ミサイルやらレーザーやらで俺が乗る航宙機グラスパーを撃ち落とすのは簡単だと思うし、やってみればいい。けど、そしたら、0.01%くらいは本物かもしれないこの『アルニラム』っぽいものも一緒に砕け散るかもね。ああ、それはなくても、この宇宙空間でどこかに飛んでいけば間違いなく二度と見つけられなくなる。それでもいいっていうならやれば?」


 ローゼスの乗る大型武装宇宙船と響の小型航宙機、戦えばどうなるかは火を見るより明らかだ。しかも響はここに来る前、すでに航宙機グラスパーに積んであったミサイルをあることのためにデブリ帯で使用している。


だから響はドッグファイトをするつもりはない。だがそれはローゼスも同じはずだ。


 わずかな可能性であっても、ローゼスは『アルニラム』を失いかねないことはしない。


「……何が言いたい? ヒビキ・ミヤシロ」


 ローゼスの言葉に苛立ちの色が見えた。


「わかんないかなー? そんなデカい船で俺の航宙機を木端微塵にするより、もっとずっと安全に俺を殺せる方法があるって言ってるんだけど?」


「……正気かね? 君は」 


 ローゼスは、響の言わんとしていることを理解したようだった。

 こういう相手は助かる。あまりにもアホだと、乗せることすら難しいからだ。というのが響の本心だった。


「あ、わかってくれた? ……出て来いよ。ローゼス。機動宇宙服アーマースラスターを着て、この宇宙に。接近戦で俺を斬ればいい。予知能力とやらもあるそうだし、超剣術サイキックソードアーツにも自信があるんだろ? 見ての通り俺は一人だし、ついさっき楽勝した相手だろ?」


 響はそこまで告げると、航宙機グラスパーのハッチをあけて、宇宙空間に飛び出した。

 纏うのは機動宇宙服アーマースラスター。航宙機と同様、アカデミーの操縦マシンコントロールの授業で使い方を学ぶスラスター付きの宇宙服だ。


 その呼び名の通り、装甲アーマーの役割も果たすそれは、宇宙空間での白兵戦にも用いられる。地球人がイメージする『宇宙服』とは異なり、スタイリッシュなプロテクターとウイングを持つ装備である。


「……つくづく愚かな少年だな……ヒビキ・ミヤシロ。いいだろう。相手をしてやろうではないか。……私は言ったはずだ。次に会うことがあれば、殺す、と」


 ローゼスは冷笑を浮かべて大型宇宙船のシートを離れた。おそらくは、起動宇宙服アーマースラスターを纏い、ブレードやブラスターを手に出陣するつもりなのだろう。

 それは、ローゼスからすれば、絶大な自信に裏打ちされた『安全策』。アルニラムを失う可能性をゼロにするための判断だ。


 だが、響からすると違う。


「あ、一騎打ち、してくれる感じ?」


「ああ。いいだろう。スーズ様の見ている前で、殺してやる。下賤な異星人が……己の無力さを知るがいい」


「さっすが貴い生まれの人は違うね! あー、でも俺殺されるのかぁ、怖いねー」

 セリフとは裏腹に、響は内心で快哉を叫んでいた。



 のった。のってきた。

 高い確率でそうなるとは思っていたが、意外とあっさりことが運んだことは素直にうれしい。早い段階で応じてくれなければ他に考えもあったが、それは面倒だとも思っていた。


「……わかりやすいやつだぜ」

 響は小さく口にして、思う。


 俺の予想はやっぱり間違っていなかった。

ボルテージを上げていく緊張感のなかで、響は思う。


 ローゼス・フォア。己の予知能力と、それに基づく強さへの絶対的な自負を持つ男。

彼が持つ高いプライド、選民思想に基づく他星人への侮り、ミヤシロの名に対して持つ怒り、劣等人種ちきゅうじんに確実に勝てるという『錯覚』。


 そのすべてが合わさり、ローゼスは響の提案に乗ってきたのだ。もしかしたら、単に直接響を殺したかったのかもしれない、あるいは自尊心を満たすため、優れた自分をスーズに見せつけるためにかもしれないが、それでも、ローゼスは響の一騎打ちに答えた。


――ありがたい――


 だが、それは響の描いた勝利へのシナリオのファーストステップだった。


※※


「待たせたかね?」


 数分後、響の眼前十数メートルには、アーマースラスターを纏ったローゼスが姿を現した。

 宇宙空間で向かい合う少年と男。無音と浮遊感のなか対峙する二人。


「そーだね。ちょっと暇だったから夏休みの残りの予定とか立ててたよ。……あれ?」


 響はこの場にはいたもう一人に気が付いた。宇宙服ノーマルスーツを着た状態でローゼスに連れてこられたスーズだ。


 彼女は泣きそうな顔で響を見つめ、何事かを叫んでいたが、それは聞こえてこない。


「……スーズちゃんも連れてきたの?」

「さきほどのようなことをされては困るのでな」


 さきほどのようなこと。それはつまり、スーズが響を守るために自害を図ったことを指すのだろう。おそらくスーズの来ている宇宙服ノーマルスーツは外部からロックされていて彼女自身の意志で脱ぐことも出来ないはずだ。また、通信回線も切れているようで声すらも発せない。

その状態で宇宙空間に漂っていれば、文字通り彼女は少しも動くことは出来ない。

 自害を防ぐ、という意味では宇宙船に残してくるよりはよほど安全、というわけだ。


 生身では生きていけない冷たい宇宙にいるほうが安全、とは一見矛盾しているようだが、今この状況でのローゼスの判断は正しく、そして『間違っている』


「そっか。まあいいや。あんたを倒したらそのまま連れ去れるわけだし。いいね。俺一度女の子を賭けての決闘ってやってみたかったんだよ。ああ、そうだ。アンタもスーズちゃんが怪我したら困るよな。ちょっと離れようぜ?」


 軽口を叩く響に対し、ローゼスは変わらず冷たい微笑を浮かべる。


「決闘? これはそんなに上等なものではない。ただの制裁だよ」


 その言葉とともにローゼスはスーズからを手を離し、距離を取った。

それが、合図だ。



「ふーん。じゃあ……」


 下等な人種をひねりつぶす。テレパシーなど使う必要もなくその意志が伝わるなか、響は機動宇宙服アーマードスラスターにサイキックウェーブを流す。


「いくぜ!!」


ウイングを展開し、バーニアを吹かせて突進、同時にサイブレードを起動させ横薙ぎに斬りかかる。ただし、速度もパワーもあえて抑えた状態で、である。


「無駄だと言っている」


 響の斬撃は、いとも簡単にローゼスのブレードに受け止められた。それは華星での攻防の再現のようにもみえるかもしれない、が、実は違う。 


「あれ? 反撃してこないのかな?」


 そう、ローゼスはカウンターを仕掛けてこなかった。

 やっぱりな。そう考えつつさらに連続で攻撃をしかける。ただしこれもせいぜい50%程度の出力で、かつ剣を振るう動き自体にも手を抜いて。


「……ほう」

 そのいずれもローゼスの体には届かない。すべてが弾かれ、受けられる。

青白い火花が幾度も煌めき無音の剣戟が光の残像となって宇宙空間を彩る様は、まるでアクション映画の殺陣のように派手だが、刃が互いの体に届くことはなかった。

はた目には、互角に戦っているようにみえるだろう。


 数時間前にあっさりと負けた響がわずかの間に強くなったわけではない。これはただの方法論の問題だ。


「だと思ったよ。ローゼス、あんたはある程度レベルが高い相手に対しては、後手にしか回れないんだろ?」


「……なるほど。面白い所見だ。詳しく聞かせてもらいたいものだね」


 言葉を交わしながらもサイブレードをぶつけ合う二人。宇宙空間を飛び回り、アタックを重ねる響と、それを的確に防ぎつつも反撃には転じないローゼス。


「簡単だよ。アンタの戦い方の根本には予知がある。相手の攻撃を予知したうえで、その隙をつく、それだけだ」


 武術の世界でいう『後の先』。相手の動きに応じて反撃をするスタイルである。

そもそも攻撃というのはそれが強ければ強いほど、攻撃側には隙が出来るものだ。ではこれを完璧に予測されてしまっていたらどうか? 当然、反撃側は相当有利になる。


華星で戦った時、ローゼスはけっして自分のほうからは動かなかった。全部響の攻撃にたいするカウンターだった。初手から全力で奇襲をしかける響にとっては相性最悪の相手だったといえるかもしれない。


 だが、今は違う。響は攻撃を続けているが、これはあえて手を抜いたものだ。剣をあわせるだけ、に近い。強くはうち込まないし、体勢も崩れず攻撃のあとの隙も少ない。ゆえに、それが予知されたとしてもローゼスの反撃が致命的なものにはならない。

 

 ただ、もちろん確実に安全、というわけではない。


「くだらないな。ヒビキ・ミヤシロ……!」


 サイブレードをぶつけ合いわずかに二人の距離があいた直後、ローゼスはテレキネシスによる攻撃を放ってきた。

 

「……っと!」

 響はスラスターを急激に噴射させて身をかわす。


 間髪入れずにローゼスのサイブレードによる追撃。しかしこれにも響はブレードをあわせて受けてみせる

 

当然、身体強化過剰使用バイタルブーストオーバーフローを使うことによって、反射速度をあげているから出来ることだ。攻撃をした際の隙をつかれなければ、なんとか避けるくらいのことは出来る。もちろん、相当無理をすれば、という前提つきだが。


「よっ!」


 続いて今度は響からの一撃。やっぱり防がれる。ただただ繰り返される光の剣舞は、示しを合わせた殺陣に近いものだった。


「……やれやれ。何か考えがあるかと思えば、その程度か」


 しばらくしたのち、ローゼスはため息をついた。


「そう? 結構いい発見だと思うけどな。さっきは瞬殺されたけと、もう結構戦ってるじゃん?」


 機動宇宙服アーマースラスターのヘルメット内にたまった汗の粒を排出しつつ、響は笑って見せる。


「これは戦いではない。そうではないかね? ヒビキ・ミヤシロ。君はただ『負けないために』動いているだけで、私を攻撃するつもりはない。滑稽だよ。君は踊っているだけだ。それも死までの時間を引き延ばすためだけに」


 ローゼスの指摘は的外れではない。たしかに、ここだけみれば全くその通りだ。響はさきほどから倒すつもりで攻撃を行っていないし、そんな攻撃がローゼスに届くはずはないのだから。


「だが無駄だ。考えてもみたまえ。私を相手に今の君と同じことをしてきた者がいなかったとでも思うかね?」


「うーん。どうだろう。いたかもね」


 そうは言いつつも、響にも正しい答えはわかる。


「その通りだ。だが私は勝ってきた。その理由は……、いや、今の君が誰よりも理解していることだろう」


「えー? ボク地球人だからわかんない」

 これも、言葉とは裏腹に本当はわかっている。

 響はすでに限界が近い。攻撃は全力で行っていなくてもサイキックパワーは消費するし、ときおりあるローゼスからの攻撃を避けるためには相当無理をしているのだ。バイタルブーストオーバーフローはもう何度も使えない。


 一方、ローゼスは汗一つかかず、息も乱していないようだ。それも含め、この男は自分の強さへの自信があるとみえる。


 響とローゼスではサイキックパワーの絶対量が違うのだ。それがローゼスの言う人種の高貴さによる違いなのか、それとも修練や経験の差によるものなのかは響にはわからないが、その差は歴然だった。


「君は、まもなく力尽き、死ぬ」


 ローゼスは断言した。冷たいセリフのなかにわずかに見える愉悦の色。それが響にもわかる。


 だが。


「それは得意の予知能力?」


 響は次の攻撃を繰り出し、それを受け止められながらもあえてそう聞いた。


「いいや。だが、少し考えればわかることだ」


 ローゼスの回答とともに迫る剣撃。だがこれも間一髪で避けた響はにやりと笑って見せる。


「ああ、やっぱりそうなんだ」

「何が言いたい?」


「アンタの予知能力には2つ弱点がある。だから俺が勝つ。そうだな。じゃあ俺も予知……いや『予告』しようか。アンタは、あと3分以内に俺に負ける」


 予知と予告、これは似ている言葉だが、決定的に違うものだ。


 戦ううちにスーズのいた宙域からは少し離れている。あえてだ。

 そして、ローゼスと響の立ち位置、その座標も計算通りだ。


「……私の予知に弱点、だと?」


 食いついてきた。ローゼスは勝利を確信しているだけあって、警戒が甘い。また、人は具体的な質問の答えは知りたくなるものだ。そこに響の狙いはある。計算ではあと2分55秒、時間を稼ぐうえでは有利な展開といえる。


 響はゆっくりと続けた。


「まず一つ。アンタはスーズちゃんとは違って、近い未来しか読めない。せいぜい数秒程度だ。しかも、自分の周囲に限られる」


 スーズは響と出会う未来を予知してあの広場にやってきていた。少なくとも数時間以上先を予知できる、ということになる。


だがローゼスは違う。スーズがどう動くのか、あえて泳がせて観察していた。そして響がこの場に現れることも予知していなかった。


そもそも、仮にローゼスがスーズと同じレベルの力を持っているのなら、彼女の重要性はなくなってしまうはずだ。彼のこれまでの言動を顧みても、遠い未来は読めないと考えるのが妥当だ。


「……そうだとして、それが弱点につながるとは思えないがね」


 ローゼスの動きが止まった。響から襲い掛かることもしない。会話で時間が稼げるのなら、それにこしたことはないのだ。


「かもね。でも、2つ目の弱点が致命的なんだよ。……ローゼス、アンタの予知は『確定した未来』じゃない。そうだろ? 具体的に言おうか『未来を読んだアンタが起こした行動』は未来を変える。そりゃそうだよな。落とし穴に落ちる未来を読んだ人間がそのまま歩いて穴に落ちるわけがない」


 ローゼスを指さして見せる響。ローゼスは黙っていたが、この仮説には確信があった。

 華星で戦った時、殺されそうな響を助けるためにスーズは言った。『響を殺すなら、自害する。その光景を予知してみろ』と。結果、ローゼスは響を見逃した。


 これが意味することはなにか?


 ローゼスの予知する『近い未来』はある程度決まっているのかもしれない。誰も何も知らず自然に行動すれば高い確率で決まっていた未来が訪れるのだろう。


 だが、ローゼスは予知を行うことで『予備知識』を得て、彼が本来取るはずだった行動は変わる。そうなれば結果として予知した未来は変わるのだ。


 おそらくあのとき、スーズは本当に死ぬつもりだった。ローゼスにはその未来が見えたから自身の行動を変えて、結果スーズは死ななかった。


 これは戦闘の場でも同じことだ。『頭を撃たれる』とわかっていたとしても、早々に頭部を防御すれば当然、相手はそこ以外を撃つ。予知によって未来は変わる。


 だからこそ、ローゼスは剣での戦いにおいてギリギリのタイミングでしか防御や反撃をしてこないのだ。未来を予知したローゼスの動きに相手がさらに対応できないタイミングでしか動かない。

 

 その技術はたいしたものだし、響も素直に感心する。だが、付け入る隙はここにある。


「……なるほど」

「正解でしょ?」


 ローゼスはしばらくの間黙っていたが、不意に笑いだした。


「ふ……ははははは!! たしかに君の言う通りだ。だが、それがどうしたというのだ! 変えられない予知に意味などない。違うかね?」


 たしかに、ローゼスの言うことも一理ある。『頭を撃たれて死ぬ』という未来を予知できたとして、頭を守って死なないようにする、という行動で未来を変えられなければ意味はないし、ローゼスはそうやって強くあり続けた人間なのだろう。


 それは響にもわかっているが、所詮、一理は一理だ。


「ちっ、ちっ。わかってないなー。予知できたから負けることもある。俺はそう言ってるのさ。……あー、よし、来たみたいだ」

 響は向かい合うローゼスに笑いかけ、右手の親指で宇宙空間を指して見せた。


 響の右側、ローゼスの左側。その方向には当然広大な宇宙空間が広がっている、が、それだけではない。


「……なに……?」


 すでに目視できる距離まで近づいてきている。暗い宇宙空間を切り裂くようにして高速で飛来する無数の物体。


「……あれは……」


「ここに来る前に俺が航宙機グラスパーのミサイルで吹き飛ばしておいた。宇宙塵デブリだよ」


 デブリ。宇宙に放棄された人工物の残骸に氷、岩石など、惑星の周りにはそうした物体が多く漂っている。響はサイキックスキルを用いた上で正確に座標を計算してそれらを壊し、流星群のように飛ばしていた。


「さすがに航宙機よりはスピードはないけど、それでも320レイセクくらいは出てるかな? 当然、宇宙空間だから減速もしないければ方向転換もしない。まっすぐに、こっちに向かってる」


「なんのつもりだ……?」


 ローゼスはせまりくるデブリ群を気にかけながらも響からは目をそらさなかった。ただ、その声のトーンはさきほどまでとは少しだけ違う。


「あのゴミの群れは、あと少しで俺とアンタに直撃する。質量はそこそこあるし、速度もある。直撃すれば、機動宇宙服アーマースラスターはただじゃすまないし、最悪死ぬ」


「……なに……?」


 ローゼスはここで初めて接近するデブリ群のほうに視線を向けた。


 その瞬間にあわせ、響はサイブレードで斬りかかる。


「うりゃぁっ!!」

「くっ!」


 スパークが散るも、この一撃は受け止められた。だが、これまでほどの余裕はローゼスにもなさそうだった。


 今度はそのまま距離を取ったりはしない。響はそのまま鍔迫り合いを続け、ローゼスとの距離を詰めた状態を保つ


 光の剣を重ねた接近状態。双方気を抜けば相手に斬られる状況。


「ほかのことに気を取られちゃダメだなー。今俺の攻撃を予知してなかったでしょ? でさ、わかってると思うけど、デブリから逃げるためには俺に背を向けないといけないよね?」


 もう間もなく飛来する無数のデブリ。音もなくやってくるそれは、間違いなく人を殺す速度と質量を持っている。


「背中を向けたら斬るよ」


 響は状況にそぐわず静かに言い放った。サイブレードで押し合っている現状、この場から離れるためにはスラスターを吹かす方向を変えて軌道を変えなくてはならないが、それをやってしまえば向き合う相手に致命的な隙を与えることになる。


「この……劣等種が……!」


 ローゼスの口調がやや粗くなった。彼はこの状態のヤバさをわかっているらしい。


「それとも、さっさと俺を斬り殺して逃げるっていうのもいいかもね。けど、そしたらアンタのほうから攻めることになる。予知は後手でしか活きないってのはわかってるよね? その条件で防御に徹する俺を即座に倒せる自信ある?」


 さきほどよりもデブリ群が大きく見えた。近づいてきているのだ。


「だが、君とてこのままではアレの直撃を受けるはずだ。ハッタリとは見苦しいね」

 サイブレード越しのローゼスの表情に冷ややかな笑みが戻った。だが、それはあえて作っている表情だということがわかる。


「そーだね。まあ、このままここで鍔迫り合いしてたら二人とも死ぬんじゃない? まあ、このままなわけないけどね」


 響の方も作り笑いを浮かべてみせる。背中には汗が伝っているが、それは悟られないようにだ。


「何を言っている……!?」


 空気もなく、重力もない、この冷たい宇宙で機動宇宙服アーマースラスターが破損すれば、間違いなく死ぬ。それどころか、デブリの直撃の衝撃で即死することもありえる。

 そしてそれは、このままいけば間違いなく数十秒後には訪れる未来だ。


 だが、そうはならない。響には仮説があった。


 それは、相手が予知能力者だからこそ成り立つもの。

自分と相手との、未来というものへの捉え方の差異によるもの。

 その仮説は今確信へと変わった。


 ローゼスは、この状況ですら攻撃してこないのだから。


 そうとも、先がわからなきゃ戦えないような臆病者に、この宮城響が負けるはずがない。


 その自信を込めて、響はあえて口にした。使い古された、でも今この場ではなによりもふさわしい言葉を。輝く宇宙の真ん中で叫ぶ。


「未来は、自分で作るものだって、言ってんだよ!!」




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