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てのひらに星雲を  作者: Q7/喜友名トト
シーズン2~期末テスト編~
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頑張る男の子は好きよ♪

ダルモアはヒビキ・ミヤシロが去ったあとデスクに座り込み考え込んでいた。

 結論から言えば、自分はヒビキの提案に賛同し、協力することにした。果たして、その選択は正しかったのだろうか?


 理屈はわかる。期末テストの首位成績獲得者に授与するクリスタルをヒビキの持つ『ミンタカ』、つまりは『オリオンの星』にたどり着くための鍵に変更しそれを学内に周知すれば、間違いなくシャルトリューズは食いつくだろう。PPにとってあれは、たとえ一瞬たりとも他の誰かの手に渡ってはいけないものだからだ。



 ゆえに、シャルトリューズは自らの支配下にある学生を首位に立たせようと動くはずだ。


 そしてヒビキはテスト科目の順番の変更を提案した。操縦マシンコントロール空間把握パーセプション、二科目の受講者がペアを組んで行われる宙間機動試験を最終日最終科目にしてほしい、というものである。


「本当に、良かったのか?」


 ダルモアはぽつりと独り言を口にした。


 期末テスト及びクリスタルの授与はオリオンアカデミーの伝統的な公式行事であるため、厳粛に行われる。教育委員会や星雲連合の公的機関の監査が入るため不正な操作は実質的に不可能。副学長のダルモアに出来るのは、せいぜい科目の順番を入れ替えることくらいのものだ。


 つまり、もしシャルトリューズ影響下の学生が首位に立てば、本当にミンタカを与えなければならない。それを破棄しようものなら理由を追及されPPの現存が星雲連合全体に知れ渡ることとなる。


 PP〈華星人至上主義者連盟〉の活動が盛んだった時代には目を覆いたくなるような事態の発生は珍しくなかった。秘密結社であるPPは誰がその構成員なのかわからない。華星人というだけで隣人に疑われることもあった。そうした疑心暗鬼は差別を助長し争いを生みだし、そしてついには『スピカタートルの悲劇』と言われているあのような事件さえも起こした。あんなことは二度と起こしてはならないことだ


 また、今では善良な一般市民となっている人間のなかにも当時のPPに思想に傾倒していたものは少なくない。PPの健在が表沙汰になれば、社会の動きがどうなるか想像もつかない。


「……なぜ、あの子はあそこまで自信があるんだ……」


 星雲連合とPPの歴史や社会情勢を取り巻く理由から、アカデミーの期末試験をダルモアがコントロールすることは不可能だ。惑星探査実習のときとは違い、ヒビキに配慮したりは出来ない。


 だが、ヒビキはこう言ったのだ。


『大丈夫ですよ。俺は、正々堂々実力でトップをとりますから』


 自分がトップにつけていればシャルトリューズは確実に対抗してくる。最も強いサイキックウェーブを宿す『メイン端末』の学生を利用してだ。仕掛けてくる可能性が高いのは、最終科目である宙間機動試験。そこで返り討ちにしてやり、もちろんそのままトップもいただく。


 自信満々でそう断言したヒビキにダルモアは呆れてしまった。だが一方で、彼ならばあるいは、と思ったのも事実だ。


 シャルトリューズの意識が操るメイン端末は、当然知識に長けている。また、彼が操ることによって、端末である学生は負担を無視して限界以上のサイキックウェーブを行使できる。到底、ヒビキに勝てる相手とは思えない。そもそもダルモアは当初、ヒビキをこの件にかかわらせるつもりはなかった。


 それなのに、ダルモアはヒビキの考えを受け入れた。


「あの目がな……」


 まっすぐに前をみるヒビキの瞳。ダルモアはそれに見覚えがあった。

 ヨイチ・ミヤシロ、ヒビキの父親もああだった。必ずやり遂げるのだ、という強い意志が宿る瞳は、親子でよく似ていた。


 地球を星雲連合に平和的に加盟させ、PPの活動を抑制した立役者たるヨイチ。若き日のダルモアとともに宇宙を駆けた彼は清廉潔白で硬派な男だった。そんなヨイチとは性格的に真逆に思われた息子だったが、核の部分は同じなのかもしれない。


 ダルモアはヨイチが死に、自分が生き延びたあの日に誓いを立てていた。

 ―もしも、ヨイチの息子が父の意志を継ぐものであるならば協力は惜しまない―


「……やれやれ」


 ダルモアは覚悟を決めた。今はヒビキを信じるしかない。もし彼が負けるようなことがあれば、ミンタカがシャルトリューズの手に落ちてしまいそうになったのなら、その時は自分が最後の手段を用いてシャルトリューズを止め、ヒビキを守る。


結果としてダルモアは社会的に、あるいはそのままの意味で死ぬだろう。だがそれでもだ。16歳の少年が宇宙の運命をかけて戦うというのなら、自分は責任を取る。それが、大人の仕事だ。


※※


 響の生活は、表向きには普通の学生と大きく変わらない。約束通り数学の授業には出て、早朝から家にいなかった理由を隣人の美少女に尋ねられると『昨日飲みに行ったあとお店でそのまま寝た』と答える。聞く必要のない講義は堂々とサボって屋上で昼寝だ。


 だが、三限目の超剣術サイキックソードアーツの時間だけは、ちょっとだけ違う。


「はぁっ!!!」


 模擬戦で相対する学生が響に向かってテレキネシスを放った。超剣術サイキックソードアーツは文字通り『なんでもあり』の剣術なのでテレキネシスで相手の体勢を崩そうが、剣筋を予知して避けようが選手の自由だ。


「……っ!」


 ちなみに、対戦相手がテレキネシスを放ってきた場合の超剣術においてのセオリーは自分もテレキネシスを放って圧力を相殺することであるが、響はそうしなかった。


「……くそっ……!」


 身体強化バイタルブーストのみを用いて、強化した反射神経と運動能力だけで面の圧力をかわそうと試みた響だったが、これに失敗。武道場トレーニングルームの端まで吹き飛ばされてしまった。


「いくぞミヤシロ!!」

 さらに対戦相手の学生はテレキネシスで自分の体重を持ち上げることで高く跳躍し、響に斬りかかる。人間ではありえないほどの跳躍力が一瞬にして間合いを詰めてくる。


「うりゃあああっ!!」


 相手が不用意に飛び上がった場合はテレキネシスで相手の空中体勢を崩す、またはテレポートで相手の着地地点背後に回る、または剣筋を予知してカウンターを入れる。これも超剣術のセオリーだ。響はそのいずれの方法も知っているし、一つ目の方法は実践出来なくもない。だが、あえてしない。空間把握パーセプションで相手の間合いを見極め、強化した反射神経で紙一重でかわそうと試みる。


「いてっ!」


 だが失敗。少し距離の目測を誤ったようで、響の脳天は練習用のサイブレードが一撃した。転入したばかりのころは運動能力ともともと持っていた剣の技術だけで勝てていた響だったが、クラスメートが実力をあげた今となっては負けることもある。まして今は昨日の疲労も残っており、あることを実験中だ。


「はい。そこまでですぅ」


 超剣術の教師であるリベット先生が決着を宣言し、倒れた響を助け起こすために小走りでやってきた。そうしていると栗色の髪とボリュームのある胸が揺れるため、男子生徒たちの注目が彼女に集まるのだが、当のリベットはさほど気にしていないようだ。


「どうしたんですか? ミヤシロさん。貴方はテレキネシスは使えるはずなのに。先生、不思議だな」


 おっとりフワフワとした口調のリベットだが、さすがにそこはアカデミーの教師である。響の戦い方の不自然さに気が付いたようだった。


「やー。ちょっとうっかりしてまして……」


 軽く誤魔化そうとした響だったが、リベットに手を握られ、さらにじっと見つめられて言葉に詰まった。


「先生、悲しいな。嘘ついちゃダメですよ? ミヤシロさん」


 倒れていた響はリベットに助け起こされる形となったため、目の前に彼女の豊満な胸がある。そりゃあもうたゆんたゆんだ。さすがにオリオンの男子学生の性的な妄想への登場率が一番ではないか、と噂されるだけのことはあった。


「……」


 響もおもわず彼女の一点を凝視した。しかしリベットはそれを気に留めず、大人の可愛さあふれるお姉さんらしい笑顔をみせている。まさに女神のごとし、というところだ。


「ね? 先生にも話してほしいな。ダメかなぁ?」


 響は観念し、彼女には事情を話すことにした。身体強化と空間把握、二つのサイキックスキルしか使わないのは、宙間機動試験用の『必殺技』の開発のためで、その中身はこういうことで、それは期末でトップを取るためだ。


「……実はですねリベットせんせー。ちょっと耳を貸してください」


「あん♪ くすぐったいです」


 響が耳打ちをしたのは内緒のことだからというだけではなく、単にリベットの反応を見たかっただけで、それは満足のいくものだった。


「……で、……だから……」


「ふんふん。なるほどー。先生、驚いちゃった」


「……そんなわけなので、期末テストまで見逃してください」


「うーん。仕方ないですね」


「ありがとうございます!」


「ふふふ。先生、頑張る男の子は好きよ♪」


 最終的に、リベットは響の頭を柔らかな手でヨシヨシと撫でてくれた。その光景を見守る他の男子学生は一斉に「きたねー」「うらやましい」「ミヤシロ死ね」と思ったことだろう。響は思春期の少年らしいトキメキを覚えつつ、こうも思ったりした。


 この先生、いずれ絶対落とす。教師と生徒、禁断の不純異性交遊は蜜の味に違いない。


 どんな追い詰められた状況でも、課題に挑戦中であっても、それはそれ、これはこれなのだった。



 


第二部も完結が見えてきました。


そーいや、ダルモア以外の教師陣はいずれもチョイチョイ出てきてますが、覚えている方はいらっしゃるのでしょうか……

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― 新着の感想 ―
[一言] リベット先生は覚えてますよ! ミンタカは手元に置いといて、敵がオプティモをメイン端末にしてくるよう誘導するのかなーと思ってました。敵がはっきりするほうが相手をしやすいかなと。
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