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てのひらに星雲を  作者: Q7/喜友名トト
シーズン1~ 転入編~
11/70

ちょっと待ってて

「と、いうわけでカク。お前ちょっとクラスに戻って、『響くんはサボっておうちに帰りました』とか言ってきてくんない?」



「それは別にいいけども。響どん、一人で大丈夫だか? オラも一緒に行くだよ」


 カクはある一点を除けば常識人で気も優しいいいヤツである。しかも星雲騎士の家の生まれであるから、実はかなり強い。なので、この申し出はありがたいではあるが、響は遠慮することにした。


「や、いいや。なるべくなら戦ったりしたくないし。それにお前がいるといくらなんでも目立ちすぎる」

 

 身長200センチもあるカクと一緒ではひっそりとアカデミー内を移動できそうにないし、それに響は単に事態を把握したいだけだ。


「そうだか。じゃあ、気を付けるだよ」


 そういって立ち去るカクを横目に、響は屋上からアカデミー内を見下ろした。

 侵入者、というからにはアカデミー内のどこかにいるのだろう。偶然だが、校内を見下ろせる屋上にいたのはラッキーだった。


 もちろん、侵入者は堂々と校庭を歩いているわけではなさそうだが、生徒の動きは見ることが出来る。


 オリオン・アカデミーは基本的に、本校舎、クラブハウス棟1~3、グラウンド1~3で成り立っている。

 中央に本校舎、校舎右の森側にクラブハウス、グラウンドは左の海側だ。ちなみに例のものが安置されていると考えられる森は本校舎の裏にある。


 生徒たちはグラウンド3に向けて移動しているように見えた。これは避難なのだから、危険から遠ざかっていると考えるのが妥当だ。



 ゆえに、危険なものはそこからもっとも遠い場所、つまりクラブハウス棟1あたりが怪しい。クラブハウス棟1はたしか、武道場とマシン格納庫があったはずだ。


 じゃあ、少し待ってから向かってみるとしよう。


 そう判断した響は10分程度屋上で待った。本校舎にいた人はほとんどグラウンドに移動しているはずだ。無人の校舎をすたすたと歩く。


 校内のいたるところからアラート音は流れているが、それ以外は平和そのものである。

 本校舎を出て、クラブハウス棟に近づく段になると、さすがに人気が出てきたので、遮蔽物の陰に隠れつつコソコソとすすむ。


「……?」


 クラブハウスを視認できる位置まで近づいた響は妙なことに気がついた。

 

 何故、警備員が逃げていく?


 どうやら問題の発生地点であるはずのクラブハウス棟奥から、警備員と思しき人たちが次々と離脱していっている。それも、なにか慌てているように、まるで逃げているように見える。


 良家の子女を預かるオリオン・アカデミーだけあって、警備員の質もそれなりに高いはずなのだからこれはいかにも不自然だ。


「バリケードは五分程度しかもたないぞ!!」

「教師の方々はまだか!?」


 わーわーと口々に叫ぶ警備員たちから、二つの台詞を拾うこと出来た。


「なるほど」


 要は、この侵入者というのは、警備員の手には負えない何者かということだ。それも、一流の能力を持つであろうアカデミーのサイキック系教師陣の手を借りなければならないほどに。


 響にはそれが一体何者なのかわからない。普通の人間ではないのだろうか。


 例えば野生生物ということは絶対にありえない。なにせここはそうは見えなくても宇宙空間に浮かぶ居住区なのだから。


 では、強いサイキックスキルを持った犯罪者だろうか。これはまあ、なくはない話だ。

 だが、それも少し無理がある。なんのためにアカデミーに進入する必要があるというのだ。

 警備員が言うように、アカデミーの教師陣は優秀なのだろう。しかも、重要施設であるこの学校を襲撃すれば、あっという間に警察組織も駆けつけるし取り押さえられるに決まっている。


 以上のことから、侵入者は二種類のどちらかしかありえない。

 一、錯乱し、まともな判断が出来なくなったサイキッカー。

 二、取り押さえられることを前提としてもアカデミー内でやるべきことのある誰か。


 また、教師陣は生徒の避難の誘導を優先させているらしく、クラブハウス棟にやってくるまで少し時間があるだろう。


 結構危険そうな気がする。じゃあ俺はどうしようかな。

響がそう思いを巡らせたそのときだった。


クラブハウス棟奥から、大きな破壊音と、それにまぎれるような悲鳴が聞こえた。

悲鳴、である。


「すいません。今、悲鳴聞こえましたよね?」


 もう隠れている必要もない。響は近くを走っていた警備員にそう話しかけた。


「!? 君は、どうしてまだこんなところに!?」


「いや、ちょっとそこで昼寝してたんですよ。で、今あっちから悲鳴聞こえましたよね?。どういう状況なんですか?」


 警備員は意外そうな表情を浮かべた。どうやら、本当に慌てていて悲鳴を聞き逃したらしい。


「……悲鳴? そんなはずは……!? エネルギーバリケードを設置してあるから、しばらくは閉じ込めておけるはず……」


「バリケードの有無は置いといて。まだ、クラブハウス棟に人がいるんですか?」

「いや。クラブハウスでの授業は行われていなかったし、生徒は誰も使用していないという報告を受けている!!」


 響は警備員の言葉に違和感を覚えた。


 そこで、すかさず自分の持つ学生用携帯端末を起動させ、クラブハウス棟で現在行われているはずの授業と利用予定表を確認する。アカデミーでは生徒の自習であっても各自申請することによってクラブハウス棟の各ルーム設備を利用できる。故に、誰でも各クラブハウス空き時間を調べることが出来るのだ。

 

そう、だからこうすればすぐにわかることのはずなのだ。


「うーん。これは……」


 案の定、実際にはクラブハウス使用予定者一覧には何人もの生徒の名前が登録されていた。


その名前の一覧を見て、響は確信する。


間違いなく『PP』、華星人至上主義連盟の残党によるものだ。

多分、本当の狙いは森のなかにあるアレで、クラブハウスにいるヤツは陽動のようなものに違いない。多分、他にも侵入者はいる。


アレを手に入れて、自分たちのボスに献上し、そしてPPは勢力を一気に復活させ、最終的には現在停止中の野望を実現させちゃおう! と、多分そんな感じだ。


こんな杜撰な計画で陽動の方の実行犯をやらされているソイツは多分下っ端で、トカゲの尻尾のように切り捨てられる、逮捕されて終わりだ。そして本人もそれをわかっている。


が、ソイツは気がついた。どうせ自分は終わりだ。なら道連れが欲しくもなる。


おそらくこれは偶然なのだろうが、クラブハウスでお勉強していた生徒のなかには、彼らにとって殺したいほど憎い少女がいた。


華星人こそ支配者になるべきだという理念で活動してきたはずのソイツにとっては、同じ華星人でありながらそれを妨害し、あまつさえ地球人と子どもを作った男など許せるはずがない。その娘もまた同様だ。


わからないのは、これまで沈黙を守ってきたはずのPPがここに来ていきなりこんな性急で乱暴な行動に出たことだが、今はそれを気にしている理由はなさそうだった。


「じゃあ警備員さん。俺ちょっと行ってきます」

 「き、君!?」


響は警備員を無視して駆け出した。身体強化バイタルブーストは使えないので、ただ風を切って走るだけだ。


だが、脚には少しばかり自信がある。子どものころは政治団体によるリンチから逃げるために、あるときからは単に体を鍛えるために走り続けた足腰は伊達ではない。


「俺の予定が崩れるのはごめんだからな……!」


警備員が逃げ出すくらいなのだから、多分暴れているソイツは強いサイキックスキルを持っているのだろう。一方、響は16歳の地球人としては非常に高い身体能力を持っているが、それで勝てるとは思わない。


だが、関係ない。


クラブハウスのドアロックを解除し、突入する。いくつか設置されているバリケードはハードル走のように飛び越えて走る。


物音がするのは二階の奥の武道場。響はそこまでの距離を1分足らずの間に駆け抜けた。

 ロックされた扉の向こうからは怒声をあげる男の声と、それに怯える女生徒の声が聞こえる。


 響は、慌てず騒がず、ロックを解除し、


「シャァッ!!!」


後ろ回し蹴りで扉を蹴破って空けた。


目に映るのは、五人の女生徒と、一人の男。男は上半身が裸だ。ちなみに、今ベルトに手をかけていた。何をするつもりだったのじっくり聞いてみたいところだが、どうやら間に合ったらしい。


そんな彼の筋肉は青い光を放ちながら異常に膨れ上がっている。もう見るからに半分くらいは怪物で、とても殴り合って勝てる気がしない。


五人の少女と一人の男の視線が一気に響に集まった。


「……なんだ? お前」


 男は響をいぶかしげに観察し、四人の知らない少女は、状況がわからないのか、泣きじゃくったままだ。


 そして、もう一人、亜麻色の髪の少女は信じられないものをみるかのように響を見た。

 

ちなみに彼女は、座り込んでいる他の少女たちを守るように立っている。制服のミニスカートからのぞく膝を震わせ、美しい瞳に涙を滲ませながらそれでも。


うーん。やっぱりいい娘だ、と響は一人頷いた。


「……ミヤシロくん……あなた、どうして……?」


 そんな彼女、アマレット・アードベックは響にそう問いかけたが、響の答えはもう決まっている。走っている間に決めていた。


「そりゃもう、アマレットちゃんをデートに誘おうかと」


 何を当たり前のことを、と胸を張って偉そうに答える響。唖然とする室内の一同。


「……はぁ!? お前なに言って……」

「ば、バカじゃないの!?」


 半裸の男は怒声をあげようとしたが、それよりもアマレットのいつもの言葉のほうが早かった。極限の状況に恐怖していたであろう先ほどと比べると少し元気が出たらしい。


細い肩を怒らせ、猫が毛を逆立てるような仕草をするところもいつもどおりだ。


 それは良かった。

響はそう思いながら、言葉を続けた。


「と、その前に。まずはコイツをブチのめすから、ちょっと待ってて」



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[一言] 学校にテロリスト!男の子の夢ではないですか。
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