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ー15ー

今回すごく悩みました。

ご意見や反論も多々あると思います。

 

「Xランクとかバカじゃねぇの? いるわけないだろ、そんなおとぎ話信じてんのかよ」


 そうこぼしたしたのは5人組のパーティ『大物食いギャイアントキリング』のリーダーであった。

 ここまで特段活躍はないパーティだが、全員が場慣れしたバランスの地力のあるパーティだと感じる


「くくっ、そう信じたければ信じていればいいさ」


 意外にもカレルは気を害した様子はない。


「ここでこうして話していてもしょうがないので、簡易ではありますが遺体を鎮魂ののちに出発しましょう」


「ちょっと待て。先にやることやらせろ。おい、目ぼしいやつは全部取れ!」

 

 そういって『大物食いギャイアントキリング』のメンバーたちはパーティ全員で死んでいる冒険者から装備をはぎ取り始めた。


「おい! なにやってんだ!?」


 その光景に思わず深月は抗議の意味を込めて声を上げた。


「なんだぁ? 見りゃわかるだろ? どうせこいつらは死んじまってこんな立派な装備なんかいらないんだ、だから俺たちが使ってやるのさ」

「はぁ!? 死人から奪うとか、クズみてーな事してんじゃねーよ」

「……なんだとガキ? お前みたいなド素人が俺に文句があるのか? 黙ってろ2度としゃべるな、潰すぞ」

「ああ゛? 素人関係ねーだろ? ボクはテメーの人としての性根に文句があんだよ」


 その死んだ同業者に敬意を払わない行動、そしてこちらを下に見るその態度に思わず頭に血が上る。

 喧嘩なら買ってやろうじゃないか。


「潰す? 面白い事を言うなぁ人間。貴様余程命を捨てたいようだが、今の深月様への無礼な言動、お前たちのような何の価値もないカスでは5人全員の命でも贖いきれんぞ?」

「深月ノ悪口言ウ奴ハネルガ首チョンパスルゾ」


 しかし息巻く深月よりも先にレーベとネルが前に出る。


「使い魔風情がなめた口を……。素材になりたいようだな?」

「テメーらみたいな性格も雑魚にボクの(しもべ)たちがやられるわけねーだろ。よく考えろクズ」

「ガキが……殺すっ」

「双方そこまで!!」


 アレンが間に入る。


「止めんなよアレン!」

「深月さん、今は争っている場合じゃないですよ」

「じゃあなにか? 冒険者の中じゃボクの方が間違っていてあいつ等が正しいのかよ?」


 その問いかけはアレンに向けただけのものではない、この場にいる冒険者全員に向けたものだ。

 答えを返したのはイリーダ。


「ま、どっちが正しいってことはないさ。ここで『大物喰い(こいつら)』が死体からコソ泥したとしても、別に珍しい光景じゃないさ。そりゃこの国の法律の中じゃ死体から物を盗むのは犯罪だし衛兵にしょっぴかれもするが、外じゃそんな国の目は届かないし、ましてここはダンジョンだ。実際かなりの数の冒険者が同じことをやってるだろうね」

「なんだよそれ……」


 ズルじゃん、と納得できない様子で小声でいう深月をアリーゼはどこか好意的な目でみる。まぶしいものを見るような、懐かしいものを見るような。

 他の冒険者も同じようなもの。常に無表情だったテオも微かに口元をゆるませている。あのカレルでさえ目を閉じ一つ鼻を鳴らす、それは否定的なものではない。


「深月様、深月様。やっぱり私は深月様のしもべになってよかったです」

「えっ、なに急に? どーした?」


 アイリスもこの通りニコニコ顔だ。

 そして「やはり深月さんは素晴らしい」ともう危ないといっていい目で深月を見ていたアレンが、こほんと正気に戻り口を開く。


「これは俺の個人的な意見ですが、ギルドに所属し、時に今回のように共に闘うことがある仲間である以上、冒険者は同じ冒険者に敬意を持つべきだと思っています。

 それに、うまく言えませんが、自ら望んで冒険という道に踏み出した以上、冒険は何一つ自分に恥じ入ることのないものにするべきだと思っています。クエストに失敗したとしても、他者に笑われても、たとえその先で死んだとしても、自分は未知への挑戦したのだと胸を張って言えるように。

 だからこそ俺たちは探検家ではなく冒険者を名乗っている。自分がした冒険がいつか子供が読む冒険譚になるような、そんなものであるべきだと。恐らくギルドの創設された理念もそのようなものであったのだと思います。だからこそギルドの職員のみなさんは命の危険がある冒険に、いつも「良き冒険を」と送りだしてくれる」


 一息で語り終わってから、「ま、だからどうしたって話なんですが」と少し照れたように笑う。


「いやー、今回はいい語りだったぜ? 深月の好感度も上がったんじゃないか?」

「ちょっと! やめて下さいよアルザさん」

「いやいや! 良かったぜ!」「そうそう、初心を思い出した!」


 確かに深月の中でアレンの株があがった。

 探検家ではなく冒険者。探り検証する専門家ではなく、危険を(おか)す者。

 深月にとって冒険とはなんだろう。

 帰るための手段をさがすもの? それとも夢とロマンと溢れるものか、はたまた男を上げる手段だろうか。どれかかも知れないしその全部かもしれない。

 まだその答えは漠然としかわかっていないが、いつか自分なりの冒険の意味を見つけたい。

 そう思えるほど冒険を語るアレンの顔は楽しそうだったのだ。 


 そしてアレンの言葉に少しひるんだ『大物食いギャイアントキリング』の男は気まずそうに舌打ちをしながらも、しかしその行為を止めることはなく死体からの剥ぎ取り作業に戻る。

 もう深月からはなにもいう事はない。


 これは時間がかかると判断したのかテオが壁に持たれて本を読み始めた。

 他の冒険者も一度荷物を下ろし、各々小休止に入る。


「じゃあ俺たちは先に行って様子を見てくるぜ」「せいぜい死体あさりを頑張りなー!」


 ツインエッジが広場の先の通路に踏み出す。


 その瞬間にかすかな違和感が走った。

 なにか明確な感覚があったわけではない。普段なら間違いなく気が付かないほどの僅か場の空気の変化。


「死体から離れろっ!!」


 アレンの怒号が飛ぶ。


「は? ――――――っが…………!」


 アルザの声に反応して顔を上げた『大物食いギャイアントキリング』のリーダーは、次の瞬間に自分が鎧を剥ごうとしていた死体に槍で身体を貫かれた。

 他の『大物食い』のメンバーも同様にある者は喉を食いちぎられ、ある者は剣で首を切り飛ばされていた。


「全員戦闘準備!!」


 アレンの声に我に返る。

 それと同時に死んだはずの冒険者たちが襲い掛かってくる。


「ちょっ、どーなってんのっ!? 確かに全員死んでたじゃん!?」

「死人に術者の魔力を打ち込みアンデットにして操るネクロマンスですっ。この術は術者の魔力が多いほど、そして操る死体が強ければ強いほど効果を発揮する!」


 アレンの長剣が飛びかかってきた死体を頭から真っ二つに切り裂いた。

 あらかじめ決めていた陣形などまったくなく、乱戦へとなだれ込んだ。

 深月も自身に向かって来る槍を打ち払おうと腰の剣を抜く。


「汚らわしい死にぞこないが、貴様、誰に剣を向けている理解しているか?」


 深月に向かう死体の剣は、深月の前に割って入ったレーベに事もなげにつかみ取られる。


「首ッ、チョンパー!」


 ネルの鋏が死体の首を切り飛ばす。

 しかし、それでも冒険者の動きは止まらない。

 レーベに掴まれた槍を手放し、今度はネルに襲い掛かる。


「ネルちゃんっ心臓です! 心臓を狙ってください!」

「オー、ワカッタ!」


 アイリスからの助言通りにネルは尻尾で胸を貫く。

 今度こそ冒険者は動きを止め、糸が切れたように崩れ落ちた。


「ネル、私は深月様とアイリスの護衛に徹する。遊撃は任せたぞ」

「オー! 深月ー、イッパイ頑張ッタラ後デナデナデシテネー」




「下がってろカルミナ!」


 アルザは戦闘要員ではない自身のパーティのヒーラーを下がらせ、目や口の穴が開いていない不気味な面をかぶった死体と対峙する。


「お前『死面デスマスク』のメンバーだよな? 全員が高ランク暗殺者アサシンのパーティって聞いてから、どっちがアサシンとして上か一度確かめたかったんだ。やろうぜ?」


 もちろん死体は答えない。

 一瞬身体を沈ませ、一気に飛び込んで来る。

 一息で懐まで飛び込み腕に装備された鉤爪を振るう。

 アルザは咄嗟にナイフでガードするも弾き飛ばされる。


 ――――――速っ。


 今の攻防で理解できた、スピード、パワーともに相手が上だ。

 次々に繰り出される鉤爪の連撃。アルザはなんとか凌いでいるが突破されるのも時間の問題だ。

 ついにガードを弾かれた。無防備になったアルザに鉤爪が振り下ろされる。その一撃はアルザの肉を裂き、致命的なものになると思われたが、

 切り裂かれたはずのアルザの姿がもやもやとゆらめき、ぶれた。


「『陽炎』のアルザをなめんじゃねぇぞ!」


 もう一度はっきりと現れたアルザの姿は先ほどよりもやや横の位置にいて、鉤爪はあたっておらず、大型のナイフをカウンターの様に相手の心臓に突き刺していた。

 アルザはしっかりと手ごたえを確認し、すぐさまその場を飛びのく。

 死体の入ったフルアーマーからアルザに向かって振るわれた剛剣

 その攻撃のスキを見逃さずに剣の相手にナイフを振るが、その鎧に簡単に弾かれる。


「今度は『アーマーナイツ』かよ…………」

「どけアルザ!」


 ジェイクがアルザを押しのけ、渾身の力を込めて大剣を叩きこむ。


「くっダメかっ」

「あーもう! こんないい装備持ってて死ぬなよなぁ!!」


 ジェイクの一撃も鎧を砕くまでに至らない。


「くっ」


 反撃に振るわれた剣をジェイクの腕を切り裂く。


「はぁ!」


 魔力が付与された矢が三本、ククミの弓から一息に放たれ鎧の関節部分を正確に貫き、一瞬だが動きを止める。

 その一瞬でアルザとジェイクの二人は死体から距離をとり体勢を整える。


「ジェイク、こっち!」


 カミラの手のひらから光る回復魔法が瞬時にジェイクの傷を塞ぎ血を止める。


「本格的な治療は後で、今は応急処置」

「すまん」

「しっかしどうするよ? 前々から不安だった俺たちの攻撃力のなさがここにきて露呈したな」

「ゆっくり考える時間はありません。戦いながら探るしかありません、っね!」


 ククミは話しながらも周りにいる他の冒険者を援護するため連続で矢を放っていく。


「だな。行くぞジェイク!」

「おう!」


 もう一度ジェイクが正面から切りかかり、アルザが脇から攻める。

 先ほどと同じように攻撃は受け止められるが、


「バァー!」


 後ろから忍び寄っていたネルが冒険者の兜と鎧の隙間をぬって首筋に針を突き立てた。

 針を打たれた冒険者はしばらくふらふらとよろめき、倒れた。


「すげっ。お嬢ちゃん一体なにしたんだ?」

「チョー強イ、オ肉ヲ溶カス毒ヲ刺シタ!」

「お、おうそうか……。やるな……」


 見ると倒れた冒険者の鎧の隙間から何かドロドロとした汁が徐々に広がっていく。

 中身がどうなっているかは想像したくない。


「しばらく共闘といこうじゃねぇの」

「イイヨー」


 『昼の影』とネルは襲い掛かってくる死人たちを迎え撃つ。




 カレルは笑っていた。

 おそらくこの魔法は感知式のもので、広場から出て先に進もうとした者を後ろから襲うように魔力を仕込んでいたのだろう。

 確信する。これほど高度で複雑なネクロマンスを操るものなど『不死の王ノーライフキング』以外にいるものか。

 伝承だ、おとぎ話だといわれたモンスターがすぐそばにいる。

 もうすぐその伝説をこの手で終わらせることができるのだ。

 しかもカレルの戦い方ともっとも噛み合う・・・・であろうアンデットのXランク。


「今いい気分なんだよ……」


 背後から現れた死面を被った男の一撃を、そちらを見ることもせず右腕のガントレットで払いのける。

 そのガントレットの指先が異様に鋭く尖り、手のひらの部分には紫に鈍く輝く宝石が埋め込まれている。


「雑魚が水差すんじゃねぇ!」


 振り向くと同時にカレルの腕が死面の男の胸を突き破り心臓を掴み取る。

 鼓動は止まっているがいまだ魔力を多く貯めている心臓を握り潰す。潰れた心臓は血とともに大量の魔力をまき散らした。

 ガントレットに仕込まれた宝石はその魔力を吸い込んでいく。


「消えろ」


 その言葉に応えるように宝石から深紅の炎が燃え上がり死面の死体を一瞬で灰へと変える。

 ああ、伝説の心臓はどんな握り心地であろうか。

 もうすぐ訪れるであろうその感触を想い、まずは前菜からと戦場へ身を投じる。




 テオはこの乱戦の中で変わらず壁にもたれて本を読んでいた。

 目の前に二体の動く死体が武器を手に現れ襲い掛かってきても変わらず。

 テオへと降り下ろされた二体の死体の攻撃は直前で何かに阻まれ止まる。

 氷だ。巨大な氷の壁がテオへの攻撃を防いだのだ。

 いつの間にかテオの肩に何処かの民族衣装に身を包んだ半透明の小さな少女が浮かんでいる。死体を見たくないとテオの首に顔をうずめている。


「……自分ら醜いわ、死んでまで動くなや。オレの精霊つれが怯えてんねん」 


 テオの全身に雪の結晶のような模様が浮かび上がる。

 『氷の男アイスマン』テオ・ラークスが駆使するのは精霊術である。

 この模様は単純な刺青ではなく精霊がその力を契約者に委譲するさいに魔力を通すパイプの役割を担う魔法陣。

 術者と精霊の絆が強ければ強いほど引き出す力も強くなる。


「死人は死人らしく、氷っとけ・・・・


 パタンと本を閉じたテオの前には、二つの氷の彫像が出来上がっていた。




 乱戦が始まってから終わるまでの時間は実はそう長くはなかった。しかしほぼゼロ距離での不意打ちという形となり、数もサーフェル支部の方が多かったであろうことから、決して少なくない被害が出た。

 そんな中でも一番多く敵を屠っていたのはやはり『優者』アレン・ルクランシェ。

 この乱戦の中では自身が得意とする大魔法も使えず、ほぼ剣技だけですでに二桁を超える敵を切りすてた。

 アレンが振るう剣技には一切の無駄がない。

 そしてその振るわれる長剣もまた規格外の一品である。とあるダンジョンの最深部で火竜を倒し発見した、持ち主の魔力に反応し切れ味をます一種の魔剣。

 アレンの魔力を帯びて光輝く稀代の名剣が、一人で演武を踊っているかのように敵を切り裂く。

 そしてアレンの剣が最後の一人をミスリルの鎧ごと両断した。

 

「探検はその場所がどうなっているかという土地の話、冒険は人の物語で主人公は自分であるというストーリー」

                 ――――――角幡唯介(探検家)


この世界では深月やアレン達のような考えは少数派です。

たまたまそんな奴らが今回集まっただけです。


自分は昔から勇者が人の家のタンスを漁るのは違和感がありました。いや、もちろん漁りましたが。


  モンスター講座、雑学講座シリーズを数が増えてきたため新たな連載のエッセイとして投稿しました。

  よろしければ見てやって下さい。

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