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海賊シャーロット(5)

 宇宙海賊シャーロットは、広大な宇宙空間から、ギャラクシー77の巨大な船体を見下ろしていた。

 傍らには、部下のゲッツとシオンが付き従っている。どちらも強力な超能力者だ。事実、ギャラクシー77は、シオンのプラズマ球の攻撃で船体に損傷を負ってしまっている。


──行くぞ。


 シャーロットがテレパシーで二人に知らせると、


──オーケイ、船長。


 と、これもまたテレパシーで返事が返ってきた。

 三人とも宇宙服は着ていなかったが、生存に問題はない。超能力で空気の膜を作って、全身を覆っていたからだ。身体をピッタリと包む戦闘服は真っ黒で、胸のところに白いドクロのマークが描かれている。シャーロットも含め、三人とも歴戦の宇宙海賊だった。


 三人は念動を使って宙を移動すると、ギャラクシー77の傷ついた外壁の端に降り立った。亀裂からは、まだ、若干の空気が漏れていた。

 三人は亀裂の隙間を通って、頭から飛び込むように船内に侵入した。


<あ、あれは何だ?>

 三人の侵入に最初に気が付いたのは、J2ブロックの作業員だった。宇宙服を着て、亀裂からの空気漏れを止めようと、修理をしていたのだ。

<う、宇宙海賊だ! 船に入ってくるぞ。気密ブロック内に侵入させるな>

 作業長と思しき男が、無線でそう伝えた。彼自身も、腰から拳銃を抜くと海賊達に銃口を向けた。


──船長。あんな『おもちゃ』で何とかなるって思ってんでしょうかね。ここは、俺にやらせてくれよ。


 ゲッツと呼ばれた男は、テレパシーでシャーロット達に伝えてきた。


──まぁ、良いだろう。やってみせろ。


──オーケイ、船長。


 ゲッツはそう答えると、現場の作業員に急接近した。

<く、来るなぁー>

 作業員が、恐慌状態に陥り、拳銃を乱射した。しかし、銃弾は全て外れた。彼の念力で弾道を逸らされたのだ。

<わ、わー。来るな、来るなぁ>

 怯える作業員の頭の中に、ゲッツの声が響いた。


──あの世に行きな。


 その瞬間、宇宙服のヘルメットの内側が真っ赤に染まった。ゲッツは手も触れずに、作業員の頭を爆発させたのだ。無重力下で、作業員がゆっくりとその場にうつ伏せに倒れる。

<わぁあああああ、逃げろ。あんなのに絶対に敵うわけがない>

<助けてくれぇぇぇぇぇ>

 残りの作業員は、それを見てパニックを起こした。我先にと持ち場を離れて逃げ出してしまったのだ。


──逃げられると思ったのかい。愚かな。


 ゲッツは素早く彼等の前に回り込みと、今度は宇宙服のヘルメットを真っ二つに割っていった。気密を保てなくなった作業員が、呼吸困難で次々と倒れていく。


──脆いねぇ。人間ってのは。やりたい放題だぜ。


 ゲッツは悦に入っていた。誰もが自分の前に膝まづく。そんな快感を覚えていた。

 その時、ゲッツの背中を高エネルギービームが襲った。だが、ビームが着弾したと思った瞬間、それは見えない壁に遮られ霧散した。

 彼の背中には、左手を前に出して立っているシャーロットがいた。ビームはシャーロットのサイコバリアで防がれてしまったのである。


──ゲッツ、遊びが過ぎるぞ。間一髪で蒸発するところだった。


──すまねぇ、船長。


 ゲッツがテレパシーで応えた。

<何なんだ、あいつらは。ビーム兵器も効かないのか!>

 それは、ようやく到着した保安部戦闘班の声だった。彼等は、重装甲のパワードスーツを纏い、巨大な高エネルギービームを放射する銃を装備していた。

<怯むな、各員一斉射撃>

 リーダーと思しき男が、命令を下した。十何本もの光の束が、海賊達を襲った。だが、シャーロットのサイコバリアの前に、全てが無へと消えた。

<ビームが、ビームが効かない>

<狼狽えるな、ミサイルだ。ミサイルを発射しろ>

<無茶です。船体を傷つけてしまいます>

<気にするな。放っておけば、どのみちあいつらに壊されるんだ。これは命令だ。全弾発射>

 隊長の命令で、戦闘班はミサイル攻撃の準備に入った。装甲の一部が割れると、その奥に無数の小型ミサイルが鈍く光を反射していた。目視センサーがミサイルの照準コントローラにデータを送ると、炎の尾を引いて無数のミサイルが雨あられと、海賊達に降り注いだ。

 しかし、その半分以上が着弾までに宙で爆発した。海賊の念動力だ。しかし、僅かな残りが三人を襲った。大きな爆発と爆炎が周囲を包む。

<やったか……>

 戦闘班は、一瞬安堵した。さすがに超能力者とはいえ、これだけの爆発に巻き込まれれば、たまったもんじゃないだろう。誰もがそう思った。

 その時、煙の中から、赤く輝くビームが数本放たれた。それは、何重もの装甲を貫き、パワードスーツの動力を破壊していた。隊員のうち、三人が力を失ってその場に倒れる。ヘルメットの中には濃密な血が溜まっていた。

<な、何だこの攻撃は>


──教えてやろうか。


 隊員の頭の中に声が響いた。その瞬間、その隊員の頭は、背後に現れたシオンのプラズマビームに貫かれ、爆散していた。

<駄目だ。このままでは全滅だ。後退する! 総員、隊列を整えつつ後退>

 隊長が無線で指示を出すと、生き残った隊員は後ずさりに後退を始めた。

 それを嘲笑うかのように、三人の海賊が、ゆっくりと隊の後を追って船体の奥に侵入して行った。



<船長、全く刃が立ちません。保安部戦闘班は総崩れです>

 ブリッジのクルーは、保安部から次々と入る報告を聞いて、蒼ざめていた。船長でさえ、言葉が出ないほどだった。


(まさか、超能力がこれほどの恐ろしい力を秘めていたとは……)


 誰もがダメだと思っていた。敵わない。助からない。海賊にいいようにされるんだと。


<ブリッジ、保安部。海賊はJ2ブロックからF3ブロックへ侵入。中央Gブロックを目指しています>

「保安部、ブリッジ。こちら船長だ。宇宙海賊はESPエンジンを狙っている。機関室までの全てのブロックから、乗員を緊急避難。通り道になる通路の隔壁を全て閉鎖しろ。海賊を通すな」

<ブリッジ、保安部。了解しました。すぐに避難誘導を開始します>

 船長はその返事を聞くと、ドサリと椅子に座り込んだ。あの超能力者達に対して、有効な手はないのか。たとえESPエンジンでも、船の中のちっぽけな人間に照準を合わせる事は出来ないだろう。船内に入り込まれては、『ジャンプ』して逃げることも出来ない。しかも、奴らは『ジャンプ』しても、瞬間移動(テレポート)で追いかけてくるのだ。


(どうすればいい。どうすれば……)


 船長が逡巡している時、また大きな揺れが船を襲った。

「何だ! すぐに状況を報告せよ」

 一旦固まっていたクルー達が、大急ぎで情報の収集にあたる。

「船長、B3ブロックで爆発発生。火災が起こっています。保安部に負傷者多数。死者も出ています」

「くっ、保安部をGブロックまで後退させろ。B、Gブロック間の気密隔壁全閉鎖。ESPシャッター、最大出力で展開」

「了解、ESPシャッター、最大出力」

 船長は、こう命令したものの、効果があるとは思えなかった。何せ、この超巨大なギャラクシー77の船体を、何十、何百光年と『ジャンプ』させるほどの超能力者の子孫なのだ。信じがたい超能力(ちから)を持っているに違いない。

 もし、彼等が機関室に入ってしまったら、ESPエンジンはどうするだろうか? 自分の子孫を認識して、自らテレポートしてギャラクシー77から脱出するかも知れない。そうなったら、我々は銀河の放浪者となってしまう。そして、長い放浪の果てに飢え死にするのだ。事ここに至っては、最後の頼みの綱は、パイロットしかいない。

 船長は、そっと拳銃をポケットに隠すと、席を立った。


「わしは顔を洗ってくる。それから、小便もな。船務長、しばらくの間、後は任す」


 船長はそう言い残すと、単身、機関室に向かった……




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