表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教会で起こる人生の悲喜こもごも  作者: 瀬崎遊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/24

19 結婚式の前日に亡くなった新郎との結婚式

 働き者の孤児達の手が止まって、裏方にいた孤児までが聖堂に顔を出しました。

 孤児達はワクワクしています。


 教会の見学会に来ていた二組のカップルの女性が、爪を立て、髪を引っ張り、頬を打ち、なりふりかまわずにつかみ合ってそこら中のものを倒したり壊したりしながら暴れています。


「すっげーー・・・」

 スカートが捲れ上がり、孤児達には少し刺激が強そうです。

 神父は側に居るのに止めることなく呆然と眺めているだけです。

 本当に役に立たない・・・。


 こんな時は孤児も止めに入ったりはいたしません。

 とばっちりで孤児達が怪我することがあるからです。

 ただ、神父に止めに入れと指示は出しますが、神父が何も出来ないことは解っています。


 こういうときの揉め事は男性よりも女性の方が大変です。

 年長組の孤児は壊れた物の値段を計算して見積もりを立てています。

 迷惑料という項目の金額がどんどん大きくなっていきます。


 二十分ほどつかみ合っていましたが、女性二人は肩で息をしてハァハァ言っています。

 隣に立っていた男性に美しく微笑んでいた女性の姿はどこにもありません。


 孤児が、カップルの男性に二人の女性を離すように伝えます。

 ハッとした男性二人が自分が連れてきた女性の腕を取って引き離します。


 ワラワラと集まってきていた孤児達が身を隠します。

 シスターまで居るではないですか。

 年長組の孤児が首を振って、女性二人にちょうど半分に分けた請求書を渡します。


 その金額に目をむいた女性二人は孤児に文句を言いますが孤児は周りを指さしてその惨状を示します。

 そして大きめの鏡を女性の前に差し出します。


 突然真っ赤になってトイレの場所を訪ねますが「控室のほうがよろしいのではないでしょうか?」と孤児が控室を勧めます。

 もちろん料金は分単位で頂きますが。


 神父ではなくシスターが二人について行き、離れた控室へ案内します。

 取り残された二人の男性は孤児達が片付け始めたのを機に自分を取り戻したようでした。


 請求書に支払う為のサインをしてくれたので、支払いの心配はなくなりました。

 男性二人の内一人は女性が出てくる前に黙って帰ってしまわれました。


 結婚式の予定が一つなくなってしまいました。

 その事に憂い顔をしますが、孤児達は先程の争いに心奪われてしまっています。


 実は教会での諍いは物凄く多いのです。

 結婚式では男女どちらかが奪い合ったり、両親が相手を拒否したり、葬式では隠れた愛人が出てきたり、認知されていない子供が出てきたりして、揉め事は何某か起こるものです。


 今日の揉め事も後でシスターが教えてくれるでしょう。

 とても楽しみです。



 明日は悲しい結婚式です。

 半年前から予約していた、まだ若いカップルの男性が騎士団での怪我が元で昨日、亡くなってしまいました。

 結婚式は取りやめになると思っていたら、新婦が結婚式を執り行うと強固に言い張り、棺の中にいる新郎と結婚すると言い出しました。


 変則的な結婚式が終わるとすぐさま葬式を執り行うとのことで、孤児達は珍しく気を張り詰めています。



 棺の元に父親の手を取って歩いてくる新婦の顔は涙に濡れて前も見えないのではないだろうかと思ってしまいます。

 棺の中に新郎にキスをして指輪をはめ、新郎の代わりに孤児が新婦に指輪をはめます。

 結婚証明書に新婦がサインして、新郎の父親が嗚咽をあげながらサインして、棺の中の新郎の胸ポケットに折りたたんで持たせます。


 こんなに涙の多い結婚式は初めてでした。

 新婦は新郎の父親に手を引かれて退室して結婚式は終わりです。


 一旦全員控室に戻っていただきます。

 皆さんも葬式の衣装へと替えなければなりません。



 孤児達は年少組も使って結婚式から葬式へと変更させていきます。

 絨毯を敷き替え、花を葬式用に替え、飾りつけを替えていきます。


 葬儀の準備が整ったのは葬儀が開始される十分前でした。

 見落としがないか孤児達のたくさんの目で確認していきます。

 椅子に飾られている花が一つ葬儀用に代わっていませんでした。

 慌てて取り替えて、扉が開かれました。


 新婦だった新妻は黒い衣装に身を包まれ、化粧も葬儀にあわせたものに代わっています。

 この新婦はこの先誰とも結婚せずにこの新郎を思って生きるのだろうか?


 結婚式をしたものの、新郎のサインはないので結婚は認められてはいません。

 

 結婚式に続いて葬儀も涙の多いものになりました。


 教会では結婚式の予定が葬式に変わることもままあります。

 こんな時、孤児達はやはり神はいないのだと改めて思い知ります。


 今日は孤児達もどこか湿っぽい雰囲気で後片付けをしています。

 ですが、披露宴で出されるはずだった料理は全て孤児達のお腹に収まることに決まっています。

 一度に贅沢をする必要はありません。

 傷みやすいものから順に一食に一品増えればいいのです。


 更に結婚式と葬式の二重取りです。

 くたくたになりましたが、それだけの実入りがありました。

 今日はきっといい夢を見られるでしょう。




 一ヶ月後、棺の新郎と結婚した新婦は棺の新郎の弟と結婚式をこの教会で挙げることに決まりました。


 孤児達には偏見はありませんし、プロに徹していますのでどんな結婚式でも丁寧に対応します。

 ですが心中は違います。

 この教会で挙げるには規模が小さいもので売上的にも嬉しい結婚式ではありませんでした。


 今回は両者のサインが認められた結婚です。

 ですが、新婦の薬指には棺の新郎との結婚指輪がはまったまま、新しい指輪がはめられました。

 新婦はとても幸せそうに笑っています。



 あの結婚式からたった一ヶ月で?!と孤児達は一斉に心の中で突っ込んでいました。


 ですが噂で聞いたところ、棺の新郎の子供を身ごもっていたらしく、新郎側の両親が今回の結婚に乗り気なのだそうです。

 今回の新郎の心の内を推し量ってそれぞれ思いを馳せました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 前半の女性たちの戦い、一体なんなんだ…… 嫁姑とかなのかしらとか想像が止まりません このシリーズ大好きです
[一言] 今回もとても考えさせられました。 でもやっぱりこのシリーズ大好きです。 余談ですが、後半の「騎士の花嫁の話」は私の親戚の話にかなり似たものがあったのでびっくりしました。 創作だとわかって…
[一言] 更新ありがとうございます。 またまた大変な結婚式や葬儀でしたね。 相変わらずの神父様、それにひきかえ働き者の孤児の皆さん。 孤児の皆の働きっぷりには頭が下がります。でも悲壮感はなくてちょっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ