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教会で起こる人生の悲喜こもごも  作者: 瀬崎遊


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18 五歳児の仕事初め

 孤児院では五歳になると何がしかの仕事を割り振られます。

 今日は五歳の誕生日を迎えたばかりの孤児が初めての仕事に挑む日です。


 本当に忙しいときには五歳までの教室へと戻されてしまいますが、ここ四〜五日は何の予定も入っていなくて仕事を教えるのにとてもいいタイミングでした。


 結婚式の飾り作りから始まって椅子がまっすぐ並んでいるかの確認までありとあらゆる事を教えられます。

 その中で得意なことがあればその得意なことを伸ばすように訓練していきます。

 もちろん一度で覚えられないことなど解っています。

 何度も反復練習をして体に覚えさせていくのです。


 もっと小さい頃から古紙などを使って折り紙で遊ぶのが好きだったこの孤児は、ナプキンを折りたたむのがとても上手でした。

 テーブルの上に飾るナプキンをいろんな形に折りたたんでいきます。


 扇形に、袋型、三角折りに薔薇形に兎型。

 ナプキンの折りたたみには色んな種類があります。

 素早く美しく畳んでいくことができるのはある種の才能ではないでしょうか?


 年長組はこの子は即戦力だと思いました。

 この子は何をやらせても人並み以上の成果を挙げる子ではないだろうか?大いに期待できます。

 そんな中シスターが釘を差します。

「まだ五歳だということを忘れてはいけませんよ」と。

 

 年長組は首を縮めて「気をつけます」とばらけていきました。

 シスターは五歳になったばかりの子の頭を撫でて、微笑んでいました。



 葬式の予定が入ってきて皆バタバタし始めます。

 五歳の孤児のお仕事はここまでで教室に戻されたことが不服でした。

 シスターには「焦ってはいけません」と言われましたが孤児にはその意味は解りません。


「自由に遊べるのは今だけですよ。さぁ、今日も何事もなく食事をいただけることを神に感謝しましょう」

 神に祈りを捧げて孤児院とは思えない、たっぷりとした食事をいただいて、五歳の孤児は幸せな眠りへとつきました。



 年長組は大忙しです。

 あの役に立たない神父まで走っています。

 孤児達は首を傾げて神父を見ると、トイレへと入って行きました。

 孤児達は納得して、ホッと息を吐きます。


 あの神父が仕事のことで走るようなことがあったら、それはもうとんでもないことになってしまいます。


 通路に黒い絨毯をひき、椅子を美しく並べていきます。

 ご遺体が棺に入れられて運び込まれます。

 故人が元気だった頃の絵が運び込まれて、花が飾られます。


 夜もふけたというのに訪問される方が途切れません。

 これは椅子が足りないことになるかもしれないと、予備の椅子を並べ始めます。

 故人に会いに来られる方が途切れないので、音を立てないように静かに運び込まれます。

 

 一人、棺に取りすがって泣いていらっしゃいます。

 死ぬことは辛いことですが、死んでからこうやって泣いてくれる人がいることは羨ましいことだと思います。

 

 周りにいた人が棺に取りすがって泣いている人を立たせて、椅子へと連れていきます。

 泣いている人は「ごめんなさい。ごめんなさい」と何度も謝っていらっしゃいます。


 年中組の孤児がワゴンにお茶の用意をして、今いる方々に振る舞いました。

 その事で気がそれたのか、泣いていた人も落ち着きを取り戻しました。


 そんな中でも孤児達は裏方で走り回っています。

 神父はきっと夢の中でしょう。



 遠方から駆けつけてきた人のための控室にお茶の準備を整えて持っていくと、故人の使用人が後を引き受けてくださるそうで仕事が一つ減りました。

 料金の割引は致しませんが、どんどんお手伝いをお願い致します。


 チラホラと耳に入る話を取りまとめると、故人は棺に取りすがって泣いていた人を庇って亡くなられたようです。

 孤児達の野次馬根性はそれはそれは大きなものです。

 娯楽がありませんからね。人の話を盗み聞くのは大好きです。


 ですが決して表で話したりは致しません。

 信用第一ですからね。

 孤児達の噂は面白おかしく脚色がされていきます。

 いつか孤児の中から物語を書く人が現れるかもしれません。

 そんな日が来ることが楽しみで仕方ありません。


 

 夜が明けても陽の光は差し込んできません。

 生憎の曇天です。

 葬儀までにはまだまだ時間がありますが、結構な人が集まってきています。

 洗い場が戦争になる予感がします。


 皿洗いに人員を振り分けました。

 予定より多い弔問客に故人の家族の方に軽食をお出しするか確認を取りに走って、お出しするように頼まれました。

 昨夜から孤児は見越していたので慌てることはありません。


 サンドウイッチにクラッカーなど色とりどりに仕上がったものが控室に並べられていきます。

 あっという間に無くなり、追加を受け付けて先程の倍量を用意します。

 

 元々調理予定はありませんでしたが、調理部も慌てたりいたしません。

 この調理部は元孤児院卒の成人が多い部署です。

 現在調理部の総指揮をしているのはこの孤児院の卒業生です。

 酸いも甘いも噛み分けています。


 ですが洗い物をしている孤児達が疲れてきているように見えます。

 選手交代です。


 葬儀がはじまり後は神父が唯一役に立つ時間です。

 孤児達には何も響かない説法もここに来られている方には届くのでしょうか?

 神父の話を聞いてひときわ嗚咽が大きくなります。


 孤児達は神父の口八丁を是非とも自分のものにしたいと切望します。

 年長組が神父の口八丁に心酔している孤児達に説教を始めます。

 あんな人間になってはいけないと。

 ろくな死に方をしないぞと。


 神父様は酷い言われようです。



 何事もなく葬儀が終わり、余った食材で孤児達の夕ご飯に一品足されます。

 孤児達は大喜びで、今日の仕事の反省会をしました。



「なぁ、聞いたか?」

「何を?」

「今日埋葬された人、人助けで亡くなったと思われていたけど、実は自分が助かろうとして側にいた愛人を突き飛ばしたのに突き飛ばしそこねて助けたように見えただけだったらしいぜ」


「あっ!聞いたっ!!」

「それに愛人が三人もいて裏庭で修羅場になってたよ」

「本妻の方は余裕の態度を崩してなかったけど、顔を引きつらせていたから、今頃屋敷では揉めに揉めまくっているんじゃないか?」


「あぁ〜〜〜屋敷の中まで見に行きたいねぇ〜!!僕たちが知らないいろんなことが起きてるんだろうなぁ〜〜〜」

「フッフッ。孤児院よりいろんなことが起こっているかもしれないね」


 孤児達は帰る家があることを羨んで今日も眠りにつきました。

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