17 忙しい三日間の最終日の出来事
今日も今日とて孤児は走り回っている。
その理由は明日が葬式で、明後日が結婚式、明々後日も結婚式の予定が入っているからだった。
規模が同じなら椅子の片付けに時間が取られなくて済むのに、三つとも招待客の人数が全く違う。
葬式に関しては席が足りなくなると困るのでスカスカでも構わないので椅子をすべて設置して欲しいと頼まれ、翌日の結婚式は格式は高いが結婚式に招待するのは百席の用意と言われていて、明々後日の結婚式は満席の三百席を用意が必要と言われている。なおかつ、後百席用意するように言われていた。
寒い季節にでも人息だけでも暖かそうだと孤児は考え、最終日の結婚式は暖房の調節も必要だと言い出した。
それに納得した年長組の孤児達は暖房の調整の指示を今まで仕事をしたことがない年少組に仕事を割り振った。
初めて仕事をする孤児は仕事を任されたことに嬉しそうに胸を張っていて、自分が仕事を任されたときも同じ気分だったと懐かしい思いを抱いた。
そんな忙しい中、小さな子供の孤児が連れてこられた。
事故で両親が亡くなり、引き取り手が無くて孤児院送りになってしまったのだ。
これでシスターの手が一つ足りなくなって、年長の采配を振るう孤児は急いで仕事の割り振りを替えていった。
自分がこの孤児院から出ていくまで後二ヶ月、後進はとても頼もしく育っている。
私は他所の神父に気に入られて、神父見習いになることが決まっている。
役に立たない神父ではなく、役に立つ神父になることを心に誓っていた。
この教会の役に立たない神父はニコニコして孤児達が走り回るのを眺めている。
年少の孤児が神父を呼びに来て、神父が告解室に入っていくのを眺めて当分出てこないことを確信した。
正直、年長組が次々と孤児院を出されていることで、手が足りていない。
年中組では椅子を運ぶのはまだまだ大変なのだ。
椅子をすべて並べ終わって、私は年中組の中でも一番しっかり者に、私の権限をすべて渡すことになっている。
もちろんサポートはするが、椅子運びの手として私が働くほうが皆のためになる。
世代交代の時なのだ。
私が全てが書かれた三日分の手配書を年中組の一人に渡すとその孤児の手は震えていた。
「一人じゃないのだから心配ない」
安心する言葉を言って聞かせ、夜が明けて葬式の最終準備が始まった。
今回亡くなられたのは侯爵家の三男様でボートレースをしていて湖に落ちて己が乗っていたボートにぶつかって意識を失った。
すぐさま助け上げられたにも関わらず、その日の深夜頭が痛いと言い出して、意識を失いそれっきり目を開けなかったそうだ。
まだ二十歳。若い人の葬式はそれは辛いものだった。
三百席全ては埋まらなかったが、寂しさだけでなくにぎやかだった。
生前故人が好きだったという歌を友人の一人が歌い出し、知っているものは一緒に涙を流しながら歌ってた。
孤児達は自分の葬式がこんなふうだったらいいのになぁと思うような葬式だった。
葬儀が終わって次は結婚式の準備である。
椅子を片付けて、百席だと寂しく感じてしまうので百五十席は出しておく。
年中組の子は真面目に取り組んでいる。
今までに忘れて困った物などは予め用意してある。
が、今回の忘れ物は想定外だった。
子供を忘れてきたと言い出したのだ。
子供を家に忘れてきても貴族なので自宅には使用人がいるので問題はないが、新婦の血縁関係者として濃い者なので連れてこなければならないと言い張る。
孤児が馬を借りて貴族の屋敷へと迎えに行くこととなった。
ぁあ・・・また必要な手が一つ減った。
それからもあれがないこれがないと言い出す人が多く、孤児達は準備してあるものをどんどん販売してく。
この忘れ物も良い売上げになるのだ。
ハンカチで小さな刺繍入りのものでも銀貨一枚はしないが、ここで売られるものは最低でも銀貨一枚以上の値段がついている。
孤児達は悪い顔をしながら必要なものを売って歩く。
忘れられた子供は間に合って、髪を振り乱して到着したその子を早急に整えて席に座らせたのはウエディングマーチが奏でられたときだった。
その後は何も問題なく結婚式は終了し、披露宴へと移っていった。
披露宴のことは披露宴を担当している孤児達に任せて、飾りや花を取り替えていく。
椅子を運び入れ、年少組の誰かがこけたらしく泣いている声が聞こえるが、誰にも相手にされないと気がついて、一人で立ち直ってしゃくりあげながらも仕事を始めたのを見て、他の孤児達が頷いているのが可笑しかった。
今日の結婚式はこの教会でできる最大規模の結婚式だ。
最大の椅子が並べられ、スキマにも椅子が並んでいる。
花は美しい真っ赤な薔薇が用意されていた。
まかれる花びらの量も多く、その後の掃除組が大変だと騒いでいた。
踏みつけられた花びらは本当に掃除が大変なんだ。
新婦が父親に連れられて赤い絨毯の上を歩くのを見て孤児達はホッと息を吐いた。
ここまで暮れば八割方仕事は終わりになる。
神父が「この結婚に正当な理由で異議のある方は今申し出てください。異議がなければ今後何も言ってはなりません」と言うと「異義があります!!」と叫ぶ女がいた。
神父と孤児、その場にいる他の皆も動きを止めた。
その女は結婚式だと言うのに真っ白なドレスを着て来ていた。
「私は彼の恋人です!!彼の子供もお腹にいます!!」
たしかにその女は大きなお腹をしていた。
孤児は披露宴がずれ込む可能性が出てきたと連絡を入れる。
こういうときこそ役に立って欲しい神父は女性が叫んでいるのを聞いているだけで瞬きを何度も何度も繰り返しているだけだ。
新郎が新婦を見てその顔色は悪い。
新婦は何かを読み取ったのか、新郎を力の限り拳を握って殴りかかった。
神父はそれも見ているだけで、止めようともしない。
新婦は何度も何度も握りこぶしで新郎を殴っていた。
孤児達が、新郎と新婦のご両親に止めた方が宜しいのではないでしょうか?と伝える。
その言葉でハッとしてご両親が動き出し、使用人も動き出す。
最悪披露宴は行われないかもしれないと年中組の進行係は考えた。
披露宴会場には披露宴だけに出席する人達がポツポツと集まり始めていると連絡があり、披露宴が遅れることを周知させて欲しいと司令を飛ばす。
新郎、新婦の両親に結婚式を進めるのか確認を取る。
両方の両親もどうすればいいのか解らないのだろう。
新郎は血まみれで、新婦は肩で息をしている。
神父が正気に戻ったのかご両親に色々話しかけていく。
新郎の父親にお腹の大きな人のことを知っているか?などを聞いている。
孤児達はこの結婚式は駄目だろうなと考えて動き始めている。
披露宴に招待された人には食事会として食事をしてもらって帰ってもらうようにするべきかと考えていた。
新婦は「異義があった場合どうすればいいんですか?」
「話し合って異義を取り下げていただくか、異議の申立通りにこの結婚を取りやめるかですね」
お腹の大きな女も会議室へと案内されて、新郎にその子の父親は本当にお前なのか?!とか、怒鳴り声とテーブルを叩く音等が聞こえてくる。
孤児達は面白いことになったね。と話しながら今回の進行を任された孤児に披露宴をどうするか決めてもらわなくてはならないと進言した。
少し怒声が収まった時にノックして返事を待たずに入室していった。
披露宴が一時間遅れていること、招待客の方々がお腹を空かせていることを伝え、食事会として食事を開始していただいてもいいか尋ねた。
新婦が一度きつく目を瞑って「食事会を始めてもらってください」と答えた。
新郎や両家のご両親はその決断に不満があったようだが、異議が取り下げられないので結婚が出来ないのである。
仕方のない決断だっただろう。
進行役の孤児は食事会に変更になったことのみを伝え、ごゆるりとご歓談ください。と伝えて、通常通りの片付けを始めるように伝えた。
会議室での話し合いはあまり意味がないようで、時折お茶を交換に行く孤児が入室するだけになっていた。
進行役の孤児がノックをして「ご招待した方々のお食事も終盤になってまいりました。ご両家、ご挨拶はどうされますか?」と聞くと両家とも頭を抱えた。
「私共でご挨拶することも可能ですが?」
「頼んでも宜しいですか?」
「もちろんです」
「いいえっ!私は来てくださった方にご挨拶してまいります」
新婦が言い出し立ち上がる。
「でもドレスを着替えるわ!!」
孤児達はドレスの着替えの準備を始める。
新婦を先導して早々に着替えてもらうことにした。
「新婦様がご挨拶されるのなら、新郎様もご挨拶に出られたほうがいいかと存じますが・・・ご両親がご挨拶されるのが宜しいかと思います」
新郎の両親が挨拶することになり、新郎のご両親は新郎が急病でと説明しているところに新婦が来て「結婚にお腹の大きな女が来てビュイットの子だと宣言して結婚に異義を申し立てたために結婚できなくなったの」と説明していた。
新郎の両親は頭を抱えていた。
進行役の孤児は会議室の扉の外で控えて、采配を振るっていた。
大きな声で新婦が「子供が出来ている以上それなりの責任を取らなければならないでしょう?その女を消してしまうのか、結婚をとりやめるのか決まったら連絡してちょうだい」
中々怖いことをいう新婦だ。今夜の食事の席での楽しい話になりそうだと耳を澄ませる。
「殺すなら騒がれる前にさっさとしたほうがいいわよ。少々のことは黙らせることはできるから、さっさと決断しなさい」
お腹の大きな女は声を荒げて「私は頼まれただけなの!!ほら」と言って大きなお腹を取り外したと後から新婦に聞いた。
「誰に頼まれたの?」
「ユーグレナ様です・・・」
「結婚に異議があるの?あなた」
「いえございません!!」
「そう・・・」
「殺さないでぇーーー!!」
という叫び声と共にお腹が大きかったはずの女が使用人と思わしき男達に連れ出されてきた。
孤児は知らん顔をして部屋へ入っていき「結婚式を済ませてしまわれますか?」と聞いた。
「婚姻するにしてもしないにしても、今日はもう帰ります」
新婦がため息を吐きながら孤児に伝えてきた。
「本日の想定外の料金がこちらになりますので、お支払いをお願いします」
その金額を見て新郎側は目を剝いていたが、支払いをその場で済ませてくれた。
孤児達は大満足で、こういう面白い結婚式は大歓迎だと笑っていた。
その日の晩御飯はいつもとは違う豪勢な一品が付いたとか付かなかったとか。
孤児達は大満足だったと伝えておこう。
明日、17時にこのお話の裏側を
『物語の裏側の話』
『ちょっとした出来心は第三者に用意されたものだった【教会で起こる人生の悲喜こもごも17話の裏側】』
でUPします。 よろしかったら覗いてみてください。
https://book1.adouzi.eu.org/n9166io/1/
↑↑↑↑↑↑ 4月14日17時UPです。↑↑↑↑↑↑




