15 二人の母親の望む結婚式と新郎新婦が望む結婚式
今回のお客様は本人よりも親が舞い上がっているようだった。
新郎新婦達は互いにそっぽを向いているのに、新郎新婦の両親は神父と年長の孤児三人を目の前において「特別な結婚式にしたいの」と母親二人が盛り上がっている。
母親同士が友人で、そのつながりで結婚することになったのだとそれは嬉しそうに話しているのが離れた場所にいる孤児達にも聞こえた。
新郎と新婦に「どのようなお式にしたいか、ご希望はありますか?」と新郎新婦の側にいた孤児が尋ねると「両親達の望むように」と言って二人、座る席も離れた場所へと腰を下ろしていた。
孤児は思うところがあって「失礼な質問になりますがお聞きしてもいいですか?」と聞いた。
「何かしら?」
「本当にご結婚されていいんですか?ご結婚するのはお二人ですよ?」
「この結婚に私達の意志は関係ありませんから・・・」
と諦めたように新婦は母親達を見ながら話した。
「今なら結婚を止められますよ?」
「いえ、母達がその気なのでどうにもなりません」
今度は新郎が諦めたように溜息とともに孤児にそう伝えた。
「お父様は味方になってくださらないのですか?」
「母達を押さえられる人はいません」
「私・・・他に結婚したい人がいるんです」
「それは俺もだよ!!」
新郎、新婦は別に結婚したい人がいると言いだしたので、孤児は目が点になった。
神父は大掛かりな結婚式になりそうで大喜びしているし、年長の孤児三人も目の形が金貨がジャラジャラ落ちてくる目になっている。
これは駄目だと新郎新婦と話している孤児は思って、勝手に話を進めることにした。
「お二人のお相手の方はお二人と結婚したいと思っていらっしゃいますか?」
「ええ」
「ああ」
「ならばわたくしどもからご提案があります」
「なんですか?」
私は新郎、新婦に孤児の提案を話して聞かせた。
二人は乗り気になってくれて、結婚式に必要なことを決めるために、明日再来することを約束して二人は両親を置いて帰っていった。
翌日新郎新婦がやってきて細かな打ち合わせをしていく。
色や花を決めて、新郎新婦は昨日の様子が嘘のように笑顔で結婚式のことを決めていく。
「お母様方のご希望に、結婚式の指輪の交換のシーンを絵に残すことを望まれているので、結婚式自体の時間が少し長くなります」
「絵なんて描き始めたらその姿勢のままずっといなければならないんじゃないのですか?」
「はい。そこはお母様お二人のお望みなので、叶えて差し上げてくださいませ。絵師もよく解っている者なので、最速で下書きを書いて、仕上げは式が終わってから披露宴などを見ながら仕上げていきます。指輪の交換シーンは最長でも十分くらいだと思ってください。あっ、新婦が指輪をはめるシーンと新郎が指輪をはめるシーンの二枚になります」
「まぁ、それくらいならなんとか・・・頑張ります」
「よろしくお願いします」
お母様方の望みと、新郎新婦の望みをすり合わせて最後に「お父様にくれぐれもよろしくお願いします」
と伝えると、新郎新婦は笑って帰っていった。
最年長の三人の目は金貨が降っている目になっていて、きっと私も同じだろうなと思った。
結婚式当日、残念なことに曇天だった。
幸先が悪い。と孤児達と神父は信じてもいない神に祈りを捧げた。
新郎新婦が現れ準備が着々と進んでいく。
親族も現れて、各々孤児に招待状を見ながら席へと案内していく。
新郎新婦の母親は自分の子供の世話を焼くのに忙しく、二人で新郎新婦の間を行ったり来たりして誰よりもにぎやかにしていた。
神父の前には必要な物が揃っているか確認しつつ、間違いがないようにしなければならないとお腹に力を入れて気合を入れている。
孤児はそんな神父を見て、いつものことながら頼りない人だとため息を吐いた。
母親に連れられ、新郎が神父の前に立つ。
音楽が始まり、ドアが開かれる前に、二人の母親の口元に猿ぐつわがはめられ、椅子にくくりつけられた。
母親二人は目を見開いて、唸りながら文句を言っていたが、孤児に「静かにしてください。入場が始まります」と言われ唸るのを止めた。
新婦が二人、各々の父親に手を引かれてやってくる。
神父の前には新郎が二人。
それを見て母親二人がまた唸り声を上げるが、音楽の音量を上げて対応した。
親族たちには説明されていたので、皆知らぬ顔をしてくれている事がありがたかった。
新婦二人が自分の結婚相手である新郎の手を取り、式が滞りなく進んでいく。
母親二人は初めこそ唸って抗議していたが、我が子の幸せそうな顔を見て、唸るのを止めていた。
指輪の交換の時間になって「絵を描くので、少々お時間を頂きます」と孤児が宣言して、二人の絵描きは丁寧にかつ最速で下絵を仕上げていった。
二組の結婚式を同時に行い、一度で二組分プラス迷惑料が足された料金を稼ぎ出した。
披露宴は教会の左右の庭に別れて行う予定だったが、天気はどうなっているのだろうと孤児が教会から出て空を見上げると、晴天だった。
結婚式が終わった頃には母親二人は涙を流して、自分の子供の幸せそうな顔を見て、すべてを諦めたような顔になり猿ぐつわを外しても何も言わずに化粧直しをして、披露宴会場へ夫に連れられて行った。
右の庭では、新郎の母親に新婦が挨拶をしている。
左の庭では、新婦の母親に新郎が挨拶をしている。
互いに親族で初対面の挨拶をしているのが目に入り、孤児は自分の仕事に満足をした。




