14 短い期間で二度訪れた新郎の行く末
すいません。言い回しがおかしなところに気がついて修正したら話しの大本は変わっていないのですが、色々増えたり減ったりしてしまいました。3/3 20:00
訂正してまたおかしくなっていないといいのですが・・・。
孤児達はよく知っている。
神に祈っても何もしてくれないことを。
そして、貧乏人のところには小さな幸運すらもやってこないことも。
孤児達は祈る真似はするけれど心から祈ることはそうはない。
きっと神父も孤児達と同じ気持ちだろうと思っていた。
けれど、神にすがるしかない日もあるのだと孤児達は知っていた。
その日は、この教会でするには小さすぎる結婚式だったが、何もせずに開放しているだけより、小さくとも受ければほんの少しでも孤児院の食事にも還元されるので、神父と孤児達は受けることにした。
結婚式だというのに広い教会で少数で行う式はどこか寒々しくて、やはり受けるべきではなかったのではないだろうかと孤児達は思っていた。
身の丈に合う。という言葉が身にしみるような結婚式だった。
寒々しくさせているのは、何も規模が小さいだけではない。
新婦側の出席者は誰も居らず、新郎は新婦を気にかけるも、新婦は新郎を見ようともせず、口づけをと言われても「次に行って」と言い指輪の交換をと言ったら、自分のサイズの指輪を自分で取って投げ捨てた。
宣誓書にサインをと言うと、孤児や参列者にはサインしているように見えたのに神父は困り顔で、孤児が受け取りに行くと、新郎はサインをしていたが、新婦がサインする場所には「誰が結婚なんかするか」と書かれていた。
これは挙式の前にでも喧嘩をしたのだろうかと思っていた孤児達は、二ヶ月後にこの結婚式を挙げながら結婚しなかった二人のその後のことを知ることになった。
新婦がサインしなかった結婚式の、新郎が別の女性を連れて結婚式の申し込みに来た。
孤児達がじっと新郎の顔を見ると新郎は何事もなかったかのように微笑んで、前回とは違う規模の大きな結婚式を申し込んできた。
神父はその結婚式を断ることにしたようで「残念ながら・・・」と言うと新郎はムキになって「空いている日ならいつでもいい」と言い出した。
「よその教会で式を挙げられることをお勧めいたします」と神父が言うと「今回の挙式を上げる規模の結婚式ができる教会は他にない!!」と言い出し、神父は新郎一人を連れて席を外した。
「前回の結婚式で神を冒涜しておいて、それから間も開けずに結婚式をする事はできません。招待客を減らすか、前回のように大規模な教会で参列数が少ない結婚式を挙げるかになさってください」
「神を冒涜したのはあの女であって、私ではない」
しかし神父は強固に断った。
「何があってもあなたの結婚式は受けられません」
悪態をつきながら新郎と新たな新婦が出ていくと神父は「気分が悪いですね」と言い、その日はそれから誰も来ないまま、開放されている教会の扉を閉じた。
勿論教会なので、鍵を閉めたりはしない。
来るものは拒んだりしない。
孤児達が「大きな結婚式なのだから受ければよかったのに」と口を尖らせたが珍しく神父は「絶対に嫌です」と引き下がらなかった。
こんな強固な姿勢を取る神父は珍しかったので、全員が押し黙ると「前回結婚式に来られた新婦の方が告解室に来られたのですよ。とても人として許されるような内容ではなかったのです。だから今回は私のわがままを聞いてください」
そんな風に言われると、孤児達は受け入れるしかなかった。
神父は一人心の中で思い出す。
『誰が結婚なんかするか』と書いた新婦が結婚式の数日後にやってきて、告解室で告白したことを。
「証拠はなにもないんです。だけど夫となるあの男が酔っ払って眠った時、寝言で言ったんです。私の家を乗っ取るために私の家族を事故死に見せかけて殺してやったと」
神父は息を呑んだ。
「その後は私を不慮の事故で殺して我が家のすべてを手に入れるのだと」
この元新婦が言っていることが本当かは分からないけれど、婚姻を結ばなくてよかったことに安堵した。
「ご家族は無事なのですか?」
「結婚式に私の親族は誰もいなかったでしょう?」
「そうでしたね・・・」
「本当に悔しい・・・。結婚式の数日前、両親と兄は領地からの帰り道に馬が暴れて馬車が横転して・・・その時は事故だと思っていたのです。なのにっ!!」
涙をボロボロと流す元新婦に掛ける言葉がない。
神父失格である。
「その状況でウエディングドレスに袖を通しましたね・・・」
「私は結婚式を延期したいと言ったのです。ですが、両親が心配しているから安心させてあげようって説得されてしまったのです。両親と兄が死んでからはまるで我が家に居るように振る舞うあの人に不信を抱いて結婚式の前日にお酒を沢山飲ませました」
「それで寝言でご両親とお兄さんを殺したと話したのですね?」
「はい・・・。馬車は今も川の深い所に沈んでしまって引き上げることも出来ません。三人が今も川の底で眠っているのだと考えるだけで私は胸が締め付けられるような思いがします」
それは当然だろうと神父は思った。
「夫となる男は笑いながら、あと少しだ。あと少してすべてが手に入ると笑っていたんです」
「そうですか・・・」
「警察にも相談しました。でも寝言では何も対応できないと言われたのです。あの男を殺してやりたい!!」
「その気持は痛いほど解りますが、ご両親やお兄さんは
あなたが幸せになることを望んでいると思いますよ」
「それは解っています。でも、私はあの男を殺す誘惑に勝てそうにもない!!」
「復讐をやり遂げても、残るのは虚しさだけです。あなたの幸せを探しましょう」
神父の言った言葉は元新婦には届かなかったようで半月ほど経った頃、新聞の一面に元新婦が復讐をやり遂げてしまった記事が載っていた。
神父は警察へと面会に行き、何も言わず何時間も元新婦の前に座っていた。
何時間か経った頃に元新婦が口を開いた。
「あの男を罰してくれと神にも祈りました。警察にも捕まえてくれと頼みました。けれど誰も私の話を聞いてはくれませんでした・・・。私は後悔していません」
「そうですか。ならば良いのではないでしょうか?」
神父は立ち上がり、元新婦の前を辞して教会の神へと願いでる。
どうか正しき者には、それに見合う罰を下してくださいと。
その願いが聞き届けられるのかは、長い長い裁判の後になる。




