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教会で起こる人生の悲喜こもごも  作者: 瀬崎遊


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13/24

13 子爵家の少女

一話完結型のお話です。

どのお話から呼んでいただいても問題ありません。

 この世界は悲しいかな人の尊厳や命が軽くて安い。

 平民などは一枚の紙よりも安いほどだ。

 

 貴族であってもそれは変わらなかった。

 子爵家に妻によく似た可愛い子が生まれたが、その直後に子爵が事業に失敗して、生活が苦しくなった。

 

 その時手を差し伸べてくれたのが裕福な伯爵家だった。

 その男は既に妻がいるにも関わらず、金銭的援助をする代わりに生まれたばかりの子を、伯爵の婚約者にすることを望んだ。

 援助を受けたお金を返し終わればその婚約は取り消す約束で、正式な婚約を取り結ぶことになった。

 

 

 孤児達は親子が入ってきたのだと思った。

 父親にエスコートされて入ってくる少女は十二〜三歳にしか見えなかった。

 立派な身なりをしていたので、神父と秘書役の孤児が付いて話しかけると、二人の結婚式だと言われて神父も孤児も表には出さないが、とても驚いた。


 この世界では一応十五歳になるまでは結婚できないという決まりがある。

 神父がそのことを伝えると、半年後が少女の十五歳の誕生日だという。


 新郎はこの教会で一番豪華結婚式を望み、ウエディングドレスもその少女を最も美しく見えるものを用意したいと言った。

 ウエディングドレスの特別なものを望まれるのなら外部のオートクチュールを受けてくれるところへ発注したほうがいいと孤児が言うと、どこも忙しいらしくて受注できないと断られたそうで、教会のできる範囲で構わなからとウエディングドレスの発注も受けることになった。

 

 少女にどのようなドレスがいいか孤児達が訪ねたが、薄い笑顔を浮かべて「伯爵様の望まれるように」としか答えなかった。

 新郎は事細かな注文をつけて、結婚式は少女の十五歳の誕生日の次の休日と決まった。

 招待客はこの教会の最大で予約され、花の色や飾りも事細かに決めていった。

 少女は諦めたような笑顔を顔に浮かべて、新郎にエスコートされて帰っていった。



 ウエディングドレスのフィッティングに少女が来た時、前回より少し大きくなっていて、孤児達は慌てて修正していった。

「また成長されるかも知れませんので結婚式の三日前に、もう一度フィッティングに来ていただけますか?」

「わかりました」

 前回にも見た、諦めたような笑顔を浮かべて少女は帰っていった。


 式の三日前に袖を通したウエディングドレスは、余裕を見ていたため、ちょうどよくただ、少し痩せてしまったのかウエストや胸元をつめなければならなかった。


 孤児達は気の毒に思いながらもプロとして仕事をこなしていった。

 

 結婚式当日、新郎と少女・・・新婦は準備が整い、ウエディングマーチが流れる中を父親にエスコートされ、まるで死にゆくような顔をしてゆっくりと歩いてくる。

 新郎に手渡され神父の前に並び立っても親子にしか見えなかった。

 神父は恙無く結婚式を執り行い、二人は夫婦として認められてしまった。


 沢山の招待客が見守る中、披露宴へと場所を移し各テーブルに妻となった少女・・・新婦を見せびらかせて、新郎新婦の席へと付いた。

 食事の開始前に新郎にはワインを新婦には果実水を持ち上げて乾杯をした。

 新郎はのどが渇いていたのか、一気にワインを飲み干し、グラスをテーブルにおいて、フォークとナイフを手にした途端、口から血を吐き出した。

 

 ガタリと新郎とは反対方向からも音が聞こえて、新郎の奥様も同じように床へと倒れていくところだった。

 初めは何が起こっているのか解らず、招待客達は食事に手を付け始めていたのだけれど、新郎が前へと倒れたのを見て新婦が悲鳴を上げた。


 奥様が座っていた席周辺からも悲鳴が聞こえ、何が起こっているのかと孤児達は焦った。


 その声に視線が新婦に向かい、奥様へと向かう。

 倒れている新郎と奥様を見て女性客が悲鳴を上げ、成人に近い孤児が新郎と奥様の側へと走り寄り、新郎と奥様をその場に寝かせた。

 新郎と奥様の脈を探しても見つけられず、両者とも口からは血を流してこの世界で有名な毒の匂いがした。


 孤児は「亡くなっています」と口にすると、別の孤児が慌てて神父を呼び、憲兵を呼ぶことになった。

 死因はまごうことなく毒殺で、犯人はあっさりと捕まった。自分がやったと名乗り出たのだ。

 新婦に恋していた伯爵家の下働きの男だった。

 伯爵の魔の手から守りたかったと。奥様も少女の邪魔になるから殺したと自供したらしかった。

 その下働きの男は五年間労役した後、死罪と判決が下された。


 新婦の少女は妻として最初に行うのは夫ともう一人の妻の葬式だった。

 少女・・・喪主はとびきりの笑顔で一番小さな葬儀で、一番安い棺でと決めていき、結婚式の三日後に夫ともう一人の妻の葬儀を恙無く執り行った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 思わぬ幸運に恵まれた少女だけど、自分を救ったせいで死刑になる青年の事はどう思っているのか気になる
2024/02/17 05:35 退会済み
管理
[一言] コワいですね。少女が魔の手から逃れられたのは幸いですが、下働きの男は救われない⤵️⤵️思い人を助けられて本望なのかな*✧✫*✬
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