12 最も高貴な人からの依頼
とても高貴な方が来られた。
「死の淵に居る友の葬儀を頼みたい」と。
「私は友と名乗れないのだ。だから葬儀に参列することは出来ないのだが、友には葬儀を手配してくれる存在がいないのだ。もしかしたら参列者は十人いないかもしれない。けれど私は彼を寂しく送り出したくはないのだ」
神父は「かしこまりました」と頭を垂れた。
「最大限の準備をいたしましょう」
「私の金を預けておく。何もかも最高のもので、誰も来なかったらお菓子を配って人を集めてもいい。沢山の人に送られて逝ってほしいのだ」
「お任せください。全ての手配を完璧にいたしましょう」
「すまない。よろしく頼む」
入院されている病院、と名前を聞いて、その人の知り合いなどを神父が聞いていた。
神父は見舞いと称して、これから死に逝く人に会いに行き「とても高貴な方があなたを心配して居られます。一人寂しく逝かせてはいけないと」
その人は涙を流し、過去の友人知人達の名前や所在を教えてくれた。
孤児達が一軒一軒家を回って、ご病気で長くないことを伝えに回った。
元は教師だったそうで、通っていた学校にも連絡を入れ、お見舞いを孤児達がお願いして回った。
一人で寂しくベッドで死の訪れだけを待っていた人の周りは人でいっぱいになった。
友人知人が病院にまで足を運んでくれて、それから昔世話になったと言う生徒たちが足繁く通った。
元気なように見えたが、死の影を払うことはできず逝ってしまわれた。
そのお顔は満足そうなものだった。
孤児達は亡くなったことを連絡して回った。
一人でも多くの人に来てもらえるようにお通夜と葬儀の日を二日伸ばした。
冬だったから出来たことだが、通夜には入りきれないほどの人が参列した。
葬式にも沢山の人が来てくれた。
孤児達は道行く人にお菓子を配って「とてもいい人が亡くなったのです。通りがかったあなたにもおすそ分けをと仰っていました」
お菓子を受け取ってくれた人の中には、教会へ立ち寄ってくれ、手を合わせて去っていく人もいた。
本当にあふれかえるほどの人がやってきて、寂しいとは絶対に言えないにぎやかな葬儀になった。
子供の泣き声が聞こえたり、どれだけ先生に世話になったかを力説する人がいたり、これから送る人が如何に偉大だったかを話す人がたくさんいた。
埋葬の時間は伸びに伸びて、それでも日が暮れるまでには埋葬しなければならない。
沢山の人が棺を運びたがり、生きている時にもっと会うべきだったと後悔して泣く人もいて、本当ににぎやかな葬儀になった。
墓所に棺が降ろされ、花が添えられ、土が掛けられ、平らにならされるまで帰らない人々がいた。
平らになると、墓石の前に沢山の花が添えられ、孤児達も葬儀用に用意されていた花を束にして、墓石の前に並べた。
葬儀から二日後、とても高貴な方が教会を訪れ「どうであったか?」と尋ねられ「この教会では規模が小さすぎました」と神父は答えた。
「いや、この教会だからそれだけの人が来てくれたのだと聞いている。色々ありがとう。費用は足りたかな?」「はい。余った金額をお返ししなければなりません」
「それは名無しの誰かからの寄付として孤児達にいいものを食べさせてやってくれ」
「ありがとうございます」
「墓所はどこか教えてくれるかな?」
「この寒い中に色とりどりの花が山になっているところです」
「あぁ、あんなにも沢山の花が・・・」
「通夜や葬儀に来られなかった方が未だに花を添えられにいらっしゃいます」
「そうか・・・そうか。一人ではなかったのだなぁ〜本当に良かった」
「お花を添えられますか?」
「花はあるのか?」
「ご用意してございます」
「では頼む。通りすがりに添えるだけなら構わないよな?」
とても高貴な方は空に向かって聞き、孤児から花束を受け取って、教会を後にした。




