10 孤児のお姉さんが帰ってきて目のやり場に困る衣装で葬式をすると言った
教会の中の誰も彼もが沈痛な表情をしていた。
幼い孤児達は知らない相手だけど、年長組にとってはとっても優しいお姉さんだった。
そのお姉さんが、見る陰もなく私達の目の前にいる。
「何よその辛気臭い顔は!!久しぶりにあったんだから嬉しそうな顔の一つでもしたらどうなのよっ!!」
「せめて服を着てくれれば、私達も喜んで迎えたんだけれど、君のその姿は・・・目のやり場に困ってしまうよ」
まだ裸のほうが、マシだと思えるような淫靡な格好をして孤児達の前に立つお姉さん。
年頃の男の子達は、チラリラ見ながらモゾモゾしている。
「今日は会いに来てくれたんですか?」
「違うわ!葬式をお願いしに来たのよ!!」
「どなたがお亡くなりになられたのですか?」
「私の亭主よっ!!」
「ご結婚されていたのですか?」
「入籍しただけだったけどね。何故か一攫千金当てちゃって、驚いてぽっくり死んじまったんだよ!」
「ギャンブルでもしたのですか?」
「コインを一個落としただけで、全額私のものになったのよっ!!」
「大金を持って、身を滅ぼさないようにしてくださいね」
「その為に葬式が必要なのよ!。亭主と私の墓所を買いたいの」
「解りました。場所はどこにしますか?」
「無縁墓地のすぐ横がいいわ。賑やかしになるでしょう?」
「解りました。お葬式はどうされますか?」
「弔問客なんて居ないから、棺は中間のもので、それ以外は最低のものでいいわ」
「解りました。あなたは、・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないじゃない!!これからっていうときなのよ?!なのに一人ぼっちになってしまったわっ!!」
「・・・淋しいですね。まずは喪服を買いましょう」
「そうね、そうするわ・・・」
年長の孤児が二人、お姉さんに着いていきます。
買ってきた喪服は普通では考えられないほど官能的な衣装で「この方が亭主が喜ぶからね」と言って涙を流していた。
本当に弔問者は誰もいなくて、棺も孤児と神父で担いだ。
埋葬する間も、お姉さんはずっと棺から離れず、じっと土に帰っていくのを眺めていた。
「何百何千と見てきたはずなのに、亭主の埋葬だと思うと、やっぱり心の持ちようが違うのね。すごく悲しいわ」
神父が触れるのに戸惑いながら、肩をそっとだいて、慰めていた。
持ち寄りの食事もないので、ケータリングで買えるだけ買って、孤児や神父様達と一緒に食事を楽しんだ。
「私、人生を間違わないように、シスターになるわっ!!」
「それもまた、人生でしょう」
また役に立たない神父の言葉だと孤児達は思った。
それから数ヶ月、シスター見習いになったお姉さんは、あの官能的な衣装を着ていた人には見えなかった。
グレーのベールを被り、グレーの修道服に身を包んだお姉さんは、誰よりもシスターに見えた。
シスター見習いの仕事の合間に、小さな花束を買って、ご主人の墓石にもたれている姿は物悲しかった。




