13話
手の中に落ちてきた鍵……ノクト殿のすべてに等しいものを握りしめる。
私は、あなたに何を返せるだろうか。
なぜ、ノクト殿が私にそこまでしてくれるかがわからない。
私は与えてもらうばかりで、あなたに何一つ返せていないというのに。
「私は、何もノクト殿に……」
「ロイゼ」
ノクト殿に名前を呼ばれ、顔を上げる。
「僕は。僕はね、君が」
金の瞳の温度は、8年前からずっと変わっていない。
「君がーー……」
ノクト殿は一度目を伏せた。長いまつ毛が金の瞳を隠してしまう。
「…………」
細く長い息を吐き出す。
そして、何かを噛み締めるように、離れがたいものを手放すように、ノクト殿はゆっくりと目線を上げた。
「君が、幸せだと嬉しいんだ」
幸せだと、嬉しい。
どこまでも優しいその言葉。
「なんてーー僕にそんなこと言う資格はないけどね。それでも、君が幸せだと嬉しいんだ」
「そんなの、私だって……」
8年。8年間、師匠として友としてライバルとして同僚として部下として。
ずっと、そばにいてくれた人。
「私だってノクト殿が幸せだと、嬉しいです」
「……うん、知ってる」
ふんわりと微笑むと、ノクト殿はさて、と腕を組んだ。
「君の今の一番の望みは?」
私の望み。
私が今一番に叶えたいこと。真っ先に思いついたのはーー。
「エルマのことを、知りたいです。目的も、手段も、理由もすべて」
どうして、エルマはミルフィアに成り代わろうとしたのか。どうやって成り代われてしまったのか。私のことを本当はどう思っていたのか。エルマの背後にあるのはなんなのか。エルマは、陛下の番のフリをしたのに王子様という言葉がでてきたのも引っかかってる。
「うん。そうだね」
ノクト殿は頷くと、私の手に触れた。
「ごめん、ロイゼ」
その瞬間、私の体を覆っていた倦怠感が和らぐ。でも、私が感じていた疲労は、過剰な情報を浴び続けることによるものと寝不足によるものだ。通常の回復魔法で回復するものじゃない。
「肩代わりしましたね。大丈夫なのに」
ノクト殿は私の疲労を自身に移したのだ。
「うん、お節介だけどちょっとだけ。本当は全部引き受けたかったんだけど、今後のことも考えるとこれくらいが限界だった……というか、3分の1でこれかぁ」
ロイゼは体力お化けだな、と小さく呟いた後、ノクト殿は指を鳴らした。
その瞬間浮かび上がるのは、エルマの捕えられている捕虜牢の映像だ。
牢屋の中までは私の魔力糸は伸ばしていなかった。
牢にノクト殿がかけたエルマが内から外には出られない魔法。その魔法を信用しているから。
「エルマ嬢のところに行ってくるから、映像をみながら少し待っていて」
「ノクト殿は、エルマのことが苦手では?」
いつも私がエルマと過ごしていると、すす、とどこかに行っていた印象しかない。
「団長が城の監視で三徹してるのに、副団長が頑張らないわけにはいかないでしょ。ロイゼがくれた三日間で、手札を整えてみたんだ。……というわけで」
ノクト殿は小さく笑うと、防音魔法を解いた。
「団長はお茶でも飲みながら、特等席で見物しててください」
そう言うが早いか転移魔法で、あっという間に映像の中ーーエルマが捕えられている捕虜牢の前に立った。
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