12話
「ノクト殿、何を……」
「僕のすべてを、君に」
その言葉と共に、魔力が文字となって浮かび上がる。
「ーーノクト・ディバリーはロイゼ・イーデンの願いに従うと、誓う」
魔力の文字にノクト殿が触れると、文字が収束し、鍵になった。
黄金色の輝きを放つその鍵をとると、ノクト殿は私を見た。
「……ノクト殿」
私は、まだ一度も使ったことがない魔法。
でも、その存在は知っている。
「初めてだけど、上手くできたね」
ーー君の師匠なのに、失敗したら恥ずかしいから、よかった。
そんな言葉と共に鍵を差し出された。
「……わかっているのですか、この鍵をもし私が受け取れば」
誓約魔法。
誓う内容と背いた場合の対価を設定し、相手が受け入れることで成立する魔法。
ノクト殿は対価に自分の魔力を賭けた。
つまり、証である鍵を私が受けとった後に、誓約に背いた場合、彼の魔力は、すべて私のものになる。
「うん」
ノクト殿は、頷いた。
「…………」
鍵と同じ黄金の瞳の中に真意を探す。
短絡的な思考によって、魔法を使ってしまったと後悔しているのではないかと。
でも、そこには、いつもの穏やかな光があるだけだった。
「……どうして」
「君になら、なんだってできるよ」
穏やかな微笑を浮かべたまま、……どうして、そんな当たり前みたいに。
魔術師が魔力を全て失ってしまえば、当然もう魔法は使えないから、魔術師としてはいられなくなる。
ずっと生まれた時からそばにあった力を手放すことになるかもしれない。
そんな恐怖なんて、まるで感じていないようすでノクト殿は微笑んだ。
「……僕はね、ロイゼ」
私だけを映す金の瞳は、変わらず穏やかなまま。
「君になら、僕の全部をあげたっていいんだ」
……どうして、そんなこと。
そう言いかけて、やめる。
知っている。
私は、気づいてはいなくても、知っている。
ノクト殿が持っている魔法の知識も技術も。
魔術師にとって全てに等しいものを、私は既に与えられていた。
「君はもう、覚えていないかもしれないけれど……。君が初めて僕に夢を語ってくれた日のことを昨日のように思い出せるよ」
ーー覚えている。
だって、あの日、あまりにも遠い目標を、星に手を伸ばすような話を、馬鹿にしないでくれた。
「あの日、僕がかけた願いを、誓いを、そしてーー君を。僕は一度踏み躙ってしまった」
目を伏せたノクト殿は、息を吐き出した。
「こんな情けない僕をただ信じてというのは難しいと思う。でもね」
私の手の中に小さな金属の感触が落ちる。
「君のこれからの望みには、絶対に裏切らないという確証がある人物は必要なはずだ」
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