7話
おまたせしました!
エルマの喉に触れる。温かい肌の感触がした。
脈も感じる。……生きているから当然ね。
もちろん、エルマの喉は焼けてないし、腕も折られていないし、足の腱も切られていない。
……服は破れちゃったけど。
「ーーエルマ」
ごめんね。
目を閉じて、手に力を入れる。
「ぐっ……!」
エルマのうめき声が聞こえた。
でも、それに構っている余裕はない。
意識をエルマの体内に集中させる。
魔法の源となる魔力を生み出すのは、心臓に近い部分だ。
触れた喉からゆっくり魔力を流す。『相手』に気づかれないように、少しだけ。
心臓あたりに核があればいいんだけど。
それ以外だと、時間がかかりすぎて、相手に気づかれる可能性がある。
今回は、魔法と違う力というのが、難点ね。
ーーいや、違う。
魔法との併用のほうが可能性が高い。
私でもそうする。
「ぐうぅ……かはっ!」
ーーまずは、ひとつ見つけた。
でも、魔法回路をただ閉じれば疑われる。
だから、小細工をさせてもらう。閉じてるのに、閉じてないと思われるように。
あとは、魔法以外の何かの核をつぶせばいい。
「!」
ーーああ、なるほど。
心臓の真上に核を埋め込んだわけね。
薄い魔力の膜で核だけを覆う。
核をただ破壊してしまえば、エルマの心臓も活動を終えるだろう。
「ごめんね、エルマ。私のために……死んで」
まだ核は起動したままだ。
この言葉もしっかりと聞かれているだろう。
そして、エルマの心臓を魔力で保護して。
「!!!」
私は、核を破壊し、魔法回路も完全に閉じた。
「!!! ーー! ーー!!!」
エルマが声にならない悲鳴をあげている。
「ごめん、エルマ。すぐに回復するわ」
エルマに回復魔法をかける。
核も破壊したし、盗聴の魔法回路も閉じた。
これ以上、なにか仕掛けられていたら、私の負けだけど、そうではなさそうだ。
「ーーロイゼ!!!!」
回復魔法をかけた後。
エルマは私の名を大声で呼び、睨みつけた。
「嫌い、だいっきらい!! あなたなんか、この世で一番嫌いだわ!!」
「ーーええ、そうね」
……良かった。
喉にもあとは残っていないし、エルマの心臓も正常に働いている。
「何笑ってるの?」
「嬉しいのよ。無事に終わって」
「はぁ!? 無事なわけないでしょ! 死ぬかと思っーー……」
エルマは、そこで言葉を止めて、瞬きをした。
そして、口を開けたり閉じたりする。
「あなたの恐れは消えた? ……エルマ」
盗聴の魔法回路に、心臓の真上にあった魔法以外の力の核。
「……本当に、きらいだわ」
「あら、ただの捨て駒になりたかったの?」
「そんなわけないじゃない! 私は、絶対王子様とーー」
ーー王子様? 陛下ではなく?
他にも気になる点はあるけれど。
「エルマ、あなたはお芝居が上手よね」
私はエルマを両手で抱きなおすと、エルマに向かって微笑んだ。
「城まで、死んだフリをしてくれる?」
そして、高度を下げる。
「!! ーー!!!! ーー……」
エルマが目を回して、最後はぐったりと目を閉じるのを確認してから、一気に高度を下げた。
そして、まっすぐに城に向かう。
「さすがに、この持ち方はよくないわね」
エルマを荷物のように抱き上げていたのを、横抱きに変える。
そして、ちょうど城で一番安全な場所の窓が開き、着地した。
「ロイゼ!!!」
「陛下、窓を開けてくださりありがとうございます」
すぐ近くにいたノクト殿に、エルマを渡す。そして、私の上着をかけた。
下着などが見える箇所ではなかったけれど、異性に服が破れたままの姿を見られるのはいやだろう。
「大事な捕虜です。安全な場所に保護をお願いします。くれぐれも、失うことのないように」
「かしこまりました、ロイゼ団長」
ノクト殿が急いでエルマを連れていく。
「君は……君には、怪我はないのか?」
「はい。全く」
陛下の言葉に頷く。
正直、それなりに負傷することは考えていた。
だからこそ、カイゼルやアリーに別れを告げたのだし。
でも、こうして、無事にエルマも傷つけることなく、連れ帰れて良かった。
「ご心配くださり、ありがとうございます。それでは、ノクト殿が戻ってくるまで、私は陛下の警護にあたるので、陛下は安心してお寛ぎください」
特に、この城周辺には害意や殺意はない。
だから、大丈夫だ。
安心させるように、微笑む。
「君は本当に……無茶をする」
陛下は、深く息をついた。
「本件で私が怪我をしても、陛下のせいではございませんので、盟約などの件で陛下にはご迷惑は……」
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