6話
「いやよ!!!」
エルマを抱いたまま、更に高く飛翔する。
普通だと、高度を上げれば格好の的になるけれど、これほどの高さなら誰も追ってこない。誰も追えない。
その証拠に殺気はずいぶんと遠かった。
「このあたりの高度なら、落ち着いて取引について話ができると思うわ」
「ロイゼ、聞いてた? 私は、いやって言ったの!!」
ずいぶんと元気なエルマは、不服そうな顔で私を睨みつける。
「そう……ところで取引だけれどーー」
「あなたのそういう決めたことに頑固なところ、昔から大っ嫌いだったわ!!」
エルマは思いっきり顔を顰めて、叫んだ。
……エルマって、思っていた以上に感情豊かだったのね。
こっちが素かしら。
「そうなのね」
でも、やっぱり嫌いと言われると胸は痛む。
「嫌いよ! 嫌い!! ーーあなたなんて、大っ嫌い!!!」
そんな言葉を連呼する、エルマに視線を合わせる。
「私は、エルマのこと嫌いじゃなかったわ。あなたが大切だった」
初めて出会った日。
スノードロップの刺繍の入ったハンカチを差し出されたときから。
私は、あなたが嫌いじゃなかった。
過ぎ去った私の大切な青い春のあなた。
「私は、好きだったことなんてない」
一瞬目を閉じた後、そう言い切ったエルマ。
「……ええ、そうね」
思わず笑いそうになりながら私が頷くと、エルマはきっと睨みつけた。
「何がおかしいの!」
「おかしくはないわ。嬉しいのよ」
「頭沸いてるんじゃない?」
……本当に、かつてのエルマなら考えられない言葉遣いね。それほど、焦っているのかもしれないけれど。
「そうかもね。……ところでエルマ、確認だけれど、あなた死にたくはないのよね?」
「バカにしてるの? 死にたいわけないじゃない」
「それならよかった」
エルマが死ぬつもりなら、取引なんて意味がなくなる。
「エルマ、改めて言うわね。ーー私と取引をしましょう」
「だから! なんども! いやってーー」
激しく首を横に振るエルマの顎に触れる。
「エルマ、何を恐れているの?」
すると、私の苦手なエルマの香水が香った。
この香水、他の子たちからはいい香りと評判だったのだけれど、私はずっと嫌いだったのよね。
「恐れなんかないわ。私はあなたが嫌いなだけ!」
エルマに魔法がかけられた痕跡はない。
となると、考えられるのは、魔法以外の何か?
「ねえ、聞いてる?」
でも、魔法以外の何かとなると私で対処できるかしら。
そもそも、エルマの特殊能力? だって、まだ解明できてないし。
「まあ、いいわ。……可哀想で可愛い私の親友」
いつかエルマに言われた言葉を、今度は私が言うことになるなんて。
「この私が可哀想なわけがーー」
「私に服を裂かれ、腕を折られ、足の腱を切られたなんて」
「はーー」
エルマに唇で、黙って、と合図する。
「挙句、喉を自分で焼いて、何も話せなくなるなんて」
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