5話
全部知りたい。
私の知らない全て。かつての私を殺した全て。
「教えるわけないじゃない! 私はあなたがきらーー!」
「エルマ、勘違いしないで。あなたに拒否権はないわ。なぜ、私の大事な過去を知っていたの」
ミルフィアという名前も、婚約して初めての夜会のドレスの色も。なんの関係もないエルマが知り得るはずがない。
私は誰にも過去を話していない。
「他人の記憶をのぞく魔法? そんなの聞いたことがないけれど。それとも別の何か、かしら。……ああ、そういえば」
エルマに触れていた手を離す。
「エルマ、あなたはよく、私にくっついていわね。いえ、私だけじゃないわ。誰にだってあなたは距離が近かった」
「!」
エルマの綺麗な桃色の瞳が見開かれる。
「もしかして、距離が関係ある? たとえば、触れると、何かが見えるとか」
私の言葉に、エルマは呆れたように息を漏らした。
「……そんなことできるわけないじゃない。そしたら、私は魔法使いじゃない何かね」
告げられた言葉は、自信満々で一見ウソがないように見える。……でも。
ーーああ、なんてわかりやすいの。
エルマは隠し事をするとき、一瞬、目を閉じるのだ。
もちろん、そんなこと、教えてあげるつもりはないけれど。
「そう……そうなのねーー」
先ほどの仮説通り、エルマは触れることによって、過去を見られるのだとして。
その力が何によるものなのかも気になる。
魔法、あるいは先天的なものなのか、それとも訓練などによって得られる後天的なものなのか。
……それに、本当にそれだけが全てなのだろうか。
考えて、ふっと俯く。
ーーその瞬間。
「!」
首筋にチリチリとした殺気を感じ、エルマを抱き上げ、飛翔する。
「なーー」
エルマは、よほど驚いたのか、ぱくぱくと口を開けたり閉じたりしていた。
先ほどまで、縫い留めていた場所のエルマの頭のあたり。
そこに大きな魔法痕があった。
あのままだったら、エルマは頭ごと吹き飛んでいただろう。
「可愛らしい服が、破れちゃったけど、怒らないでね」
「きゃあっ!」
矢で縫い留めていたのを、無理やり引き剥がしたので、服の一部が破れてしまっている。
エルマは慌てて服を抑えようとしたけれど、それどころではない。
「そんなことより、エルマ。このままだと、あなた殺されるわよ」
先ほどの魔法痕からして、エルマに対する殺意は、十分すぎるほど感じられる。
「はっ……違うわ! さっきのはロイゼ、あなたを狙ったのよ」
「本当にそう思う?」
じっと、エルマを見つめ返す。
「……っ!」
エルマは目を逸らし、唇を噛んだ。
「ねえ、エルマ。取引をしましょう」
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