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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
五章 私が取り戻せたもの、取り戻せなかったもの

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3話


 ――あなたの走り、見事だったわ!

 まっすぐに見つめた桃色の瞳も。


 ――ロイゼ!

 拗ねると膨らませた頬も。


 ――ロイゼ。ううん、ミルフィア、あなたの居場所、私がもらうわね。

 悪意に満ちたその言葉も。


 どれが本当のあなただったんだろう。

 あるいは、どれも本当のあなたではないのか。


 ――8年。8年間、私たちは親友だった。

 その友愛が一方通行だったのだとしても、決して短くはない期間だ。

 その期間ずっと、あなたは何を考えていたの。


 ロイゼ・イーデンを形作る上で、欠かせない人物であるエルマ・アンバー。

 そんなあなたが、どんなひとだったのか。


「……エルマ」

 フクロウが大空を飛翔する。

 星のように煌めくその軌跡が、一瞬だけ止まった。

「――!!」

 目的……エルマがフクロウを瞳に映したのだ。

 その瞬間を、私のフクロウは決して見逃さない。

 美しい飛行で、窓から私の元に帰ってくる。

「……ありがとう。いいこね」

 フクロウは私の腕に留まると、目を細めた。

 そして、私がその頭を指で撫でると、視覚情報を共有してくれる。


 エルマが潜んでいたのは、王都からそれほど離れていない場所だった。

 それでも見つからなかったのは、いくつにも張り巡らされた魔法障壁のせいだろう。



 でも、おかしい。

 エルマも部隊長になるほどの魔術師だ。

 とはいえ、ここまで何重にも魔法障壁を張れるだろうか?


 ――いや、違うな。


 魔法障壁に、似ているけれど、この力は魔法ではなく――でも、それならなに?


 魔法だと説明がつかない。

 だけど、こんな力は魔法以外にありえない。


 そう、まるで……。

「未知の能力? でも、そんなの聞いたことが……」


 いや、私自身の知識で、否定をするには尚早だ。

 団長だったとしても、私は全知全能ではない。

 そういう驕りは、身の破滅に繋がる。


「……まあ、いいわ」


 知らないのなら、確かめればいい。

 それこそが、私の原動力なのだから。


「アリー、カイゼル」


 私は、二人に向かって微笑んだ。


「色々とありがとう。大変お世話になりました」


 小切手を書いて、二人に渡す。


「二人の働きに報いるには、少ないけれど。……これは、私からのお礼です」

「ロイゼ様? どうして、急に……。どこにもいかれませんよね?」


 戸惑っている、アリーに微笑む。


「アリー、ありがとう。あなたの料理とっても美味しかったわ。それにあなたの淹れてくれたハーブティーすごく好きだった」


「また、何度でも淹れますよ! でも、どうして……」


「アリー嬢」


 カイゼルが、アリーの肩に手を置いた。


「ロイゼ様、行かれるのですね」

「うん。カイゼルもありがとう」

「わたしも共に行ければよかったのですが……今のロイゼ様には足手纏いになってしまいますね」


 そう苦笑し、カイゼルは、真っ直ぐに私を見つめた。


「ご武運を」


「ありがとう」


 そう、頷いたときだった。

「ノクト・ディバリー、参りました」

 光と共に、ノクト殿が現れた。

「ロイゼ団長、ご指示を」


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悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
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