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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
五章 私が取り戻せたもの、取り戻せなかったもの

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2話

 ーー私はいったいなんのために。

 ここまで走ってきたの。


 徐々に見えていく文字は、少しずつ私に思い出させる。


 ーー必ず、あの壇上の高さまでたどり着いて見せる。

 そう誓った日のことも。


 ーーこれからは、君の友でライバルだ。

 そう固く握った手の熱さも。


 ーー夢が叶ったね。君が次の団長だ。

 星のような遠い目標に手が届いたことも。


 ーー君は私の運命の番じゃない。だから、君のことは、選べない。

 自分の世界が、音を立てて崩れ落ちるような瞬間も。


 ーー僕の勝手な期待とお節介を押し付けて、ごめん。

 明かせない隠し事で、傷つけてしまった苦しみも。


 ーーあなたの居場所、私がもらうわね。

 悪意に満ちた、その言葉も。


 ーーふぅん、逃げるのか。

 失望に満ちたその瞳も。


 ーー嘘をついてまで、竜王陛下の隣が欲しかったのか?

 誰よりも何よりも近くにいた人に、信じてもらえなかった悲しみも。


「あ……あぁ」

 そっか、そうだったんだ。

 ううん、そうだった。

 この経験こそが、私。ロイゼ・イーデンを形作るものたち。


 ーーでも。


 私は今までずっと、走り続けてきたはずだ。

 ただ一つの目標に突き動かされて。

 ーーあなたに会いたい。

 だって、約束したから。何度生まれ変わっても、迷わずあなたを探しに行くと。


 ……それなのに。

 今世の記憶とそれに伴う感情は、私の中にある。

 でも……私を突き動かす衝動であった、ある意味一番私の大事な部分。

 前世の記憶が朧気だった。

 運命の番になろうと、約束したことは覚えている。たしかに、陛下を運命の番だと思い、そのために上り詰めたことも。


 でも、どうしても、一番大切だった運命の番であるはずの、陛下や……アレックスへの熱も甘さも苦味も、思い出せない。

 そこだけが以前と違う空洞だった。


 ーーでも、それでも。


 日記を閉じて、手を強く握りしめた。

 私の中をめぐる魔力が、以前よりもずっと手に取るようにわかる。

 必要な魔法の知識は、探さなくても浮かんでくる。


「……大丈夫」


 私は、ちゃんと自分の足で立てる。

 たとえ、以前のような突き動かす熱がなくなっても、空洞があったとしても。


 それでもこの力があれば、ちゃんと一人でも立てる。


 魔法はいつだって、私の味方だから。


 消えたかった。

 何も残さず、ただ、消えたかった。


 でも、消えずにこうして戻ってきてしまった。


 だからといって、そのことを嘆くだけでは意味がない。嘆くよりも、私がしたいこと。


 かつての熱の代わりに私を突き動かすもの。


 それはーー。


「ーー確かめたいの」


 なぜ、陛下はエルマを番だとーーエルマが私に成り代われてしまったのか。

 エルマは何を望み、そんなことをしたのか。その全てを。


 ぶわり、と私の魔力が立ち上がる。

 その魔力が形作るのは、魔法生物。

 代々団長だけに継承される魔法だ。


「!!」


 元気な鳴き声と共に、フクロウが姿を現す。

 大いなる知恵を象徴するフクロウが、私の魔法生物だ。

 フクロウの頭を撫でると、彼は、嬉しそうに目を細めた。


「ええと、ロイゼ様……?」


 突然のフクロウの出現に驚いたアリーに微笑む。 


「大丈夫。この子はあなたたちを傷つけないわ」

 フクロウは大いなる知恵を持つけれど。

 鋭い嘴と爪も持つ。

 だからこそ、この子を私の魔法生物に選んだ。


「先ほどと顔つきが変わられましたね」

 カイゼルが恭しく、礼をした。


「ええ。思い出したの」


 全部ではない。

 それでも、私の大事な記憶を思い出した。

 ……だから。


「……行っておいで」

 窓からフクロウを解き放つ。

 光り輝くその軌跡に目を細めた。

 ーー美しいその飛行を、魔術師ならきっと誰もが見ることになる。

 だれもが、目を背けられない。

 だからこそーー。


「エルマ、あなたを見つけるわ」

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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
>魔法はいつだって、私の味方だから。  当然、知りたいですよね、エルマさんが用いた疑似番の魔法はロイゼさんにとって未知のもののようですから。ワクワクさえしちゃうのでは? ふふふのふ〜  作者様、ご更…
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