1話
お待たせしました!!
5章は内容が固まっているので、更新頻度は以前ほどお待たせしない予定です!!
――あなたは、いったい何を想っていたの。
何を感じていた? 私にどうしてほしい? あなたなら、どうする?
「…………」
ふ、と息を吐きだす。
手の中にあった日記を置いた。
「ロイゼ様?」
不思議そうな顔で、私をアリーが見つめている。
私が居住地を王城に移してからも変わらず、アリーとカイゼルは私の元で働いてくれていた。
「ねぇ、アリー。あなたは、エルマ・アンバーという女性を知っている?」
かつての私の親友で、部下で、そして私に成り代わろうとした彼女。
私を襲撃したマリアという女魔術師の様子から、相当慕われていたということはわかった。異常とも呼べるほど。……でも、もっと他の人から見た、彼女を知りたい。
「私も詳しくは――カイゼル様の方がご存じだと思います」
「そうなの、カイゼル?」
カイゼルは、ゆっくりと薄青の瞳を細めた。
「はい。私は、以前あの方の護衛をしておりました」
……なるほど。
カイゼルは、竜王陛下の運命の番である私の護衛をしている。
だったら、私がそうとわかる前は、彼女の護衛をしていても不思議ではない。
「あの方のことが気になりますか?」
「……ええ」
頷く。前から全く気になっていなかったと言えば、嘘になる。
でも――。
『エルマ隊長は、素晴らしいの。私を救ってくれた、女神なの!!』
『選民主義の塊、のようなひとかな』
相反する二つの印象。
どちらが間違っているのか、あるいは、どちらも正しいのか。
「そうですね……私にとってあの方の印象は」
カイゼルは、そこで言葉を切った。
言葉の続きを口に出そうか、悩んでいるようだった。
「気味が悪い……ですかね」
何度か悩んだように、口から出たのは、カイゼルらしくない言葉だった。
「気味が悪い?」
思わず瞬きをして、カイゼルを見つめる。
カイゼルは、困ったように苦笑した。
「はい。知りすぎている……そんな風に見えるのです。私の想い違いかもしれませんが。――それに周りの者もみな一様に、あの方の虜になるのは、あまりにも異常ではないかと」
知りすぎているという言葉。
そういえば、彼女は、私に成り代わろうと……いや、実際成り代わっていた。
なぜ、そんなことが可能だったのだろう?
「そうなのね、ありがとう。カイゼル」
「いえ。お役に立てたかは、わかりませんが」
疑問は尽きない。
でも……彼女がどんな人であれ。
私が今、一番知らなければならない人は。
「ごめんね……」
小さく呟く。
誰にも暴かれたくない。誰にも知られたくない。心を映した黒いインク。
――あなたの想いを蔑ろにしたいわけじゃない。
でも……。
「知りたいの」
私が失くしてしまった私の欠片。
「アリー、カイゼル。念のため、少しだけ離れてくれる?」
二人が離れたのを確認して、日記に手をかざす。
イメージするのは、焦げた魚を戻した時のこと。
あのときのように可逆魔法を使えば、きっと。
――あなたは、それを望まないだろうけれど。
でも、私は力が欲しい。
私の力でちゃんと立てる力が。
だから……。
可逆魔法を行使する。光が日記を包み込み、インクが徐々に薄くなっていく。
「――あ」
ちょうど開いていた、ページの一文が見えた。
『私は、いったいなんのために』
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