15話
陛下の中で決めたことなら、ただの平民である私に抗えるはずもない。
「……はい」
私が小さく頷くと、陛下は私の瞳を覗き込んだ。
「……すまない、ロイゼ。君の望みとは異なることはわかっているが、どうしても、安全でいてほしい」
私が――陛下の運命の番だから。
私に何かあれば、困るのは私だけではない。
竜王の運命の番は、国の栄衰に関わる。
本当は、一人で暮らせるだけのお金がある。
だから、一人で暮らしていきたい。自分の足で立ちたい。
でも、マリアの襲撃があったとき、咄嗟に対応ができなかった。
私一人が、被害を被るのなら、我を通すのもいい。だけど、そうじゃないから、ここは引くべきだ。
……わかってる。
ぎゅっと、日記を強く抱きしめる。
あなたなら。……以前の私だったら、きっと、こうはならなかった。
一人で立つだけの実力も、立場もあったのだから。
そうではない私が、こんなにも悔しい。
「わかりました。アリーとカイゼル――侍女と護衛騎士に、知らせてからでもよいですか」
アリーもカイゼルも、私のために、城から派遣されたと言っていた。
だから、連絡を入れればきっと、二人も城に来てくれるだろう。
「心配しないで。二人には、僕から伝えておくよ」
ノクト殿の言葉に、ほっと胸を撫でおろす。
「わかりました。ありがとうございます」
それならば、安心だわ。
「それでは、城の客室まで送ろう」
◇
陛下にエスコートされて歩く。
その間、なぜだか、陛下の戸惑いの視線を感じた。
「どうされましたか?」
「!?」
あまりにも何か言いたげだったので、私から尋ねると、陛下はびくりと肩を揺らした。
「その……君の今の姿は……」
「姿変えの魔法で変えました。……この姿では不都合なようなら、戻しますね」
「、あ、ま――」
姿変えの魔法は、思った以上にすぐに解けた。
やっぱり、元の姿の方が想像しやすいからかもしれない。
「……陛下?」
そういえば、さっき何か言いかけていたような。
そう思って呼ぶと、陛下はじっと私を見つめた。
「あの?」
そういえば、先ほどの姿変えの魔法の私を見たとき、陛下は驚いていたわね。
その件と関係があるのかな。
「……いや」
陛下は、小さく首を振った。
「ロイゼ、君は左利きなんだな」
「? ええ、まあそうですね」
おそらく記憶を無くす前と利き手が変わっていることはないだろう。左手の方がしっくりくるし。
「……私は、今の君について知らないことばかりだ」
自嘲気味なその今、とは記憶を失くした私というよりは、きっと。
私――ロイゼについてのことのように聞こえた。
「私も陛下のことを存じ上げません」
たとえば、何が好きで、どんなことをされると嬉しいのか、そんな基本的なことさえ、私も知らない。
……以前の私なら、前世の記憶とかで知ってるのかもしれないけれど。
「……そうだな」
何かを噛み締めるようにゆっくりと頷き、陛下は立ち止まった。
「ここが君の暮らすことになる客室だ」
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