13話
それは疑問ではなく、確信だった。
「ふふ、……うふふふふふ、あははは!」
狂ったように笑い出した彼女は、相変わらず虚な目をしていた。
「私、あなたのことが大っ嫌いだったのよ。だって」
ぐっ、と制服のタイを掴まれる。
「……っ、い」
「あなたみたいな平民が、エルマ隊長の親友で、私たちのトップだなんて! そんなことあっていいはずがないわ!! 許さない!!」
徐々に声量を大きくしながら告げられている間に知識を探す。
攻撃魔法――だめだ、距離が近すぎる。
今の私に加減ができるか怪しい。
防御魔法は?
接触されている場合は意味をなさない。
どうしよう、どうする?
「その上、今度は陛下の運命の番ですって!? その立場は、エルマ隊長のものよ!! それをうばうなんて――!!」
女魔術師が、大きく手を振りかぶった。
思わずぎゅっと目を閉じる。
「!?」
そのとき。
パキン、と胸元で何かが音を立てる。
そして、光が溢れ――。
「そこまでだ、魔術師」
……衝撃は、こなかった。
静かな怒りを含んだ声がする。
そして、なぜか右肩が温かい。
「……?」
ゆるゆると瞼を開けると――。
「へい、か……?」
ハロルド陛下が、私を庇うようにして立っていた。
……でも。
いつもと瞳が違う。
目の瞳孔が縦に割れた、その姿はまるで――。
「あぁ。遅くなって、すまない……ロイゼ」
私に向けられた視線は、柔らかい。
気遣いと慈しみを感じた。
「ところで」
ハロルド陛下が、視線を魔術師に移す。
「ロイゼを傷つけたな」
その視線は凍てついた氷のように、鋭利だった。視線だけで、人を刺すことができるのなら、きっと串刺しになりそうなほど。
「……あ、あぁ」
ぱくぱくと、彼女は口を開けたり、閉じたりしていた。
先ほどまでの怒声とは打って変わって、蚊の鳴くような声だった。
「何か申開きがあるなら……」
ハロルド陛下の言葉が途中で止まる。
私を見て、ゆっくりと瞬きをした。
「……フィア?」
フィアは、紛れもなく私の偽名だ。
だけど、私の偽名を陛下に伝えただろうか。
「フィア、お待たせーーっ、陛下!?」
ノクト殿も用事が終わったようで、かけてきた。
そして私たちの様子を見て――、何かを察したのか、厳しい顔をした。
「6番隊の、マリア・ユーゼン。お前はここで何をしている」
その表情は、いつもの私に向けるものとは違う、魔術師団の副団長のものだった。
「わ、わた……わたし」
陛下の鋭い視線が緩んだことで震えながらも、声がでるようになった彼女は、私を指さした。
「わたしは、わたしからエルマ隊長をうばった、罰を、与えようと思って……」
その言葉に、陛下は再び視線を彼女に戻した。
「――ノクト・ディバリー副団長。先ほどの言葉通り、その魔術師がロイゼに危害を加えた」
淡々とそう言って、ふう、と息を吐き出す。
「傷害罪の現行犯として、捕縛――は、もうしているな」
魔法でできた、光の縄で、彼女……マリアの腕は拘束されていた。
「ただちに、連行させます」
ノクト殿がぱちん、と指を鳴らすと、彼の部下らしき魔術師たちが現れて、マリアを連れて行く。
「……」
脅威は、去った。
助けてくれて、ありがとうございました! と感謝だけ伝えて、私もその場を去ってしまいたい。
しかし、それを許さないほど、空気が張り詰めていた。
「ノクト・ディバリー副団長。今回の件の説明を」
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