11話
……番を騙った。
私の魔術師団での評価は、まだそうなんだ。
「陛下は、団長が本物の番だったって、言ったけど――、そんなはず……そんなずないわ」
ぶつぶつと呟くその瞳は、虚だ。
「だって、エルマ隊長が番のはずだもの」
「エルマ……隊長」
――エルマ・アンバーは、君に成り代わろうとしたんだ。
昨夜聞いた名前に、思わず瞬きをする。
そうか、6番隊は、彼女の所属する部隊だったんだ。
「ええ、そうよ。私たちの隊こそ、運命の番であるエルマ隊長が出現された、誉高き隊よ」
「……そう、なんですね」
もっと詳しく話を聞きたい気もするけど、彼女の瞳は虚で正気じゃない。
「そうよ! エルマ隊長が嘘をつくはずないじゃない!! 陛下も他の団員もみんな手のひらを返して――団長が嘘をつくはずないって言ってたけど……エルマ隊長こそ、嘘をつくはずないわ」
「そうなんですね」
話を切り上げないと。
「エルマ隊長は、素晴らしいの。私を救ってくれた、女神なの。でも、私を置いて行った。牢から出るならどうして、私を連れて行ってくれなかったの。裏切られた。私が、私が……」
「すみません、先輩。急いでいるので!」
まだぶつぶつと何かを呟いている、彼女を後に、走り出す。
魔術箱を使おうかとも思ったけれど、なんだか怖くて、階段を駆け降りた。
「はぁっ……はあっ」
荒い息を吐きながら、寮の扉を抜けた。
「さっきの人……様子が、おかしかった」
幸い、追いかけてくることはなかったようだ。
ノクト殿はまだいるだろうか。
門まで走ると、人影が見えた。
「ロ……フィア? どうしたの、そんなに慌てて」
心配そうに首を傾げたのは、ノクト殿だった。
「ノクト殿……」
見知った顔に安心して、一気に力が抜けた。
思わず、手元の日記が落ちかけ、慌ててぎゅっと力を込める。
「どうしたの、何かあった?」
さっきよりも心配そうな顔でノクト殿は、私の元に駆け寄った。
「実は――」
廊下で、第六部隊の女魔術師にあったことを話した。
彼女の様子がおかしかったことも。
「そうだったんだね」
「……はい。ノクト殿、エルマさん――エルマ・アンバーという人物は、どんな人だったんでしょうか?」
彼女について、ノクト殿は何か知っているだろうか。
番を騙り、私に成り代わろうとした、私の親友だったという彼女。
「……」
「ノクト殿?」
そんなに考え込むほど、答えるのが難しい質問だったかな。
「……あ、いや、ごめん。夢を思い出して」
「……夢、ですか?」
そういえば、悪夢を見たと言っていた。
「うん。それで、質問の答えだけど……僕にとっての彼女は、選民主義の塊みたいな人かな」
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!




