9話
「……もちろん」
そういって、頷いたノクト様――いや、ノクト殿は、ひとつひとつ話してくれた。
「君は、休憩のとき、このベンチによく座ってた」
だとか、
「この本棚の魔術書みてごらん、奥付に君の名前が載っている。君がこの魔法の開発に関わったんだ」
だとか、
「この機材を導入したとき、あまりにも高すぎておっかなびっくりみんな触ってたんだけど。君が団長になってから一気に三機追加投入したから、みんな遠慮がなくなった」
だとか。
どのエピソードも、懐かしさをにじませて、大切に話してくれた。
「……ふふ」
話に耳を傾けていると、ノクト殿は、急に笑った。
「ノクト殿?」
「ううん。君があまりにも瞳を輝かせて、聞くものだから、懐かしくて、つい。僕に魔法を教わるときの君も、そんな感じだったなって」
私とノクト殿が師弟関係だったときの話。その話も聞きたいな。
「……あ」
ノクト殿は、思い出したように、窓の外の建物を指さした。
「ノクト殿?」
「あそこ二棟、建物があるだろう? 右か男子寮で左が女子寮なんだけど……」
「はい」
寮がどうしたのだろうか。
「あそこにいけば、君の日記があるかもしれない。今はどうかわからないけれど、僕が魔法を教えていた時、君は日記をつけていたから……」
「!!」
日記、それは重要な私の手がかりだ。
もし、見つけられれば、何かわかるかも。
「寮のカギは団長たちだけ両棟分もってるんだ。寮が襲撃されたときのためにね」
ノクト様が私の手に鍵を渡した。
「ただ、緊急時以外女子棟には僕は、入れないから、君一人で行かなきゃいけなくなるけど……」
「行きます! 一人でも大丈夫です」
食い気味に言った私に、ノクト殿は笑った。
「うん。君ならそう言うと思ってた」
二人で、寮の門の前までいく。
「…今は丁度みんな、出払っている時間のはずだから、寮には誰もいないと思うけれど、気をつけるんだよ」
「はい!」
ノクト殿は、門の前で待ってるね、とひらひらと手を振った。
寮の中に入るのには鍵がいるけれど、部屋に入るのは魔力認証になっていて鍵が要らないらしい。
ノクト殿に教わった知識を思い出しながら、寮の入り口の鍵をかちり、と回す。
どきどきしながら、扉をあけると、本当に誰もいなかった。
「……ええと」
私の部屋は、最上階だといわれたから……五階かな。
ここから、五階まで上がるのは面倒だ、と思いながら、廊下を進むと、箱があった。
この箱は、何だろう。
知識を探すと、この箱は、上下に動いて各階に連れて行ってくれる魔法機械らしい。
良かった。
箱に入り、五階までと念じると、箱が一気に動いた。
あまりの速さに腰を抜かしそうになりながら、手すりを掴む。
――チン、と音がして、箱の扉が開いた。
どうやら、到着したらしい。
ふらふらと505号室、を目指して、箱から出る。
「…501、502、503」
504号室とかかれたプレートはなく、503号室の隣が、505号室だった。
……私の部屋、どんな部屋なんだろう。
ドキドキしながら、ドアノブに手をかける。
「!」
一瞬、手から魔力が流れる。
これが魔力認証だと、知識が囁いたので、構わず、そのままドアノブを回した。
「……開いた」
私の部屋のなのだから、当然なのだが、なぜか妙に感動があった。
ひとまず、扉の中に入り、誰かが入ってこられないように、扉を閉める。
まず目に入ったのは、本。
次に目に入ったのも、本。
とにかく、本棚のたくさんの魔術書と思われる本で埋め尽くされた部屋だった。
部屋には、他にベッド、テーブルランプ、机……など生活に必要そうなものしか置いていない、ように見える。
「……私って、魔法馬鹿だったのかな」
でも、団長にまで上り詰めるぐらいだ、その可能性は大いにある。
かつての自分のことを考えながら、本棚を見る。
目的のものは、案外すぐに見つかった。
他の魔術書よりも二回り小さい。
その背表紙には、確かに、日記、と書かれていた。
日記を本棚から、抜き出す。
「やっと見つけた。私の手がかり……」
何が書かれているんだろう。
何を感じていたんだろう。
どんな日々を過ごしていたんだろう。
たくさんの期待をこめながら、日記を開く。
「――え」
私は、ページをめくった。
最初から最後まで、一ページも漏らさぬように、何度も、何度もページをめくる。
それでも。
それでも、どのページも、一緒だった。
ところどころ、文字は、見える。
でも、どのページも文章としては、読めない。
――黒いインクで塗りつぶされていたからだ。
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