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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
四章 私の望み

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6話

 翌朝の朝食後。

「便箋と封筒ですか? ご用意いたしますね」

 アリーに手紙を書く用意をしてもらう。

 宛先は、ノクト様だ。


 ずっと、考えていた。

 今の私のこと、かつての私のこと。


 私は、過去の私を知らなすぎる。

 記憶がないから当然なのだが、それでも、今の私は、かつての私のおかげで存在している。


 多くの魔法を覚えたのも、魔術師団長になったのも、かつての私だ。


 私が何を考えていたのか、何を感じていたのか。


 ……もっと、知りたい。


 だから、かつての私が住んでいた魔術師団の寮や施設の私の私物を映像などで見られないか、ノクト様に尋ねることにした。


 もちろん、ノクト様から貰った笛は今も持っている。


 でも、彼は副団長で、忙しいはず。

 呼び出すのは気が引けた。

 手紙なら見る時間を選ばないし、そんなに負担にならない……と思いたい。



 アリーに頼んだ通り、封筒の色は白。

 白は火急ではなく、ごく一般的に使われる封筒の色だ。

 反対に、火急の件は、赤い封筒を使うのがこの国のルールだ、との知識が浮かぶ。


 挨拶、気にかけてくれていることのお礼、そして用件を手短に書いた。


 そこまでで、手が止まる。

 宛名と宛先は……差出人はどうしよう。


 普通に手紙を出す際は、当然、宛名と宛先、差出人名がいる。


 でも魔術師団の他の団員の目に、私の名前が触れることは混乱を招くのでは?


 まだ実際に魔術師団で、私が今後どういう扱いになるのか聞いていないし、私の現状も誰がどこまで知っているのかもわからない。


 ノクト様の迷惑になることは本意ではない。



「魔法で直接届けよう」


 差出人はなく、宛名だけを封筒に書いた手紙。

 不審に思い、破られる可能性がなくはない。

 でも、魔法の師である彼なら、きっと、手紙に残った魔力に気づくはず。


 

 頭の中にある、郵送魔法の知識を引っ張り出して、魔法を使う。


 瞬きの間に、手紙は私の手元からなくなった。




 魔法は成功したみたいだ。



 ほっと息を吐く。


 返事が来るまでしばらくかかるだろうし、今日は何をして過ごそうかな。


 ……そういえば。


「ねぇ、アリー」

「どうされましたか?」


 陛下からの贈り物だという、たくさんのドレスや靴やアクセサリー。あれらの返品について、相談したい。


 そう思って、アリーを呼んだ時だった。


 私の手元に何かが、触れる。

 瞬きの間に、私の手には封筒があった。


「郵送魔法……それに、この魔力はーー」


 封筒の宛先は私。そして差出人は思った通り、ノクト様だった。

 さっき送ったばかりなのに、もう!?



 驚きつつも、封を開ける。


 手紙には、美しい文字で、直接見にこないかと書かれていた。


 それは願ってもないことだった。


 でも、迷惑かと思って言えなかった。


 手紙には、今日の午後が空いている、とも書いてあった。


 もし、私もそれでよければ、笛を吹いて教えて欲しいと。


 笛を吹く。


「……よし」

 これで、伝わったはずだわ。

 


 そう思いながら目を通した、手紙の最後。


『僕が、ロイゼに関わることを迷惑だと思うはずがないよ』


 その言葉はゆっくりと胸の中に溶けた。


 ノクト・ディバリー様。

 魔術師団の副団長で、公爵子息で、師で、友で、ライバルだという彼。


 そんな彼にそう言わせるだけの何か、が。


 果たして、私の中にあるのだろうか。



「ううん」


 首を振る。

 今の私の中にあるのは、結果だけ。


 だからこそ、過去や過程を知ることは、意味がある。


 結果だけをただ享受する人間にはなりたくないから。



 ーー午後がやってきた。

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