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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
四章 私の望み

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5話

「……陛下」

 後悔を湛えた深い青の瞳を見つめ返す。


「今更何を言っても遅いが……、本当にすまなかった」


 ――なぜ。

 硬く手を握りしめる。

 なぜ、過去の私を信じてくれなかったの。


 その問いは、目覚めてからずっと私の中にある。


 でも、詰ったところで仕方がないのだ。

 今の私には詰るための記憶もない。

 結果だけが私に残り、過程である過去や記憶は消えてしまった。

「……」


「信じられないかもしれないが、君が本当に、」


 続く言葉は、先ほどと同じ、心配なんだ、だろうか。


 けれど、予想に反して、陛下はそこで言葉を切った後、口を閉じた。


「言葉の価値を貶めたのは……私自身だな」


 深い息と共に、吐き出された言葉がゆっくりと空気に溶ける。


「――ロイゼ」

 陛下が手を差し出した。

 その手には、陛下の瞳と同じ色の美しい石があった。


「この石は、君の身を守るものだ。できるだけ、外出は避けてほしいが、もし外出する際は持っていてほしい」

「……わかりました」


 石を受け取る。


 陛下は、私がしっかりと石を握ったのを確認して、立ち上がった。

 私も立ちあがろうとすると、手で制される。


「夜分に訪れてすまなかった。……無事で、良かった」


 最後の言葉は、震えていた。

 額から汗を流すほど焦っていた姿が、蘇る。


「……あの」


 咄嗟に引き留めるような言葉を言った自分に混乱する。


 私は、この人に何を言いたいんだろうか。

 何を言うべきなのだろうか。


 思った通り、振り返った陛下は、戸惑った顔をしていた。


 迷った挙句に、口から出たのは感謝だった。

「……来てくださって、ありがとうございます」


 この人が心配しているのが、運命の番にせよ、私にせよ、わざわざ訪ねて来てくれた。

 そのお礼はいうべきだ。

 

「この石も……ありがとうございます。出かける際は、持ち歩きます」

「ああ。そうしてくれると助かる」


 ……それから。

 お礼のほかに何かいうべきことはあるだろうか。


 心の中で言葉を探す。


「陛下、おやすみなさい」


 なぜ、急にそんな言葉がでたのかは、わからない。

 時間的には間違っていないけど、和やかな空気ではないのに。


 陛下は、驚いた顔をした。

 ……当然だわ。


 でも、私が発言を取り消す前に、陛下が微笑んだ。

「おやすみ、ロイゼ。……良い夢を」


 今度こそ、陛下が去っていった。


 夢、で思い出したけれど、そういえば、さっきまでうなされていたのだ。


「……アレク」


 小さく呟いた名前は、そっと夜に浮んだ。

 やはり、口馴染みのいい名前だ。


「ロイゼ様、よく眠れるハーブティーはいかがですか?」

「うん、お願い」


 アリーの淹れてくれたハーブティーは、じんわりと私の体に染み渡る。


 ――悪夢なんて見ないほど、深く眠った。

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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
自分で壊しておきながら今更都合のいいことばかり言われてもなぁ 正直、早く国外まで逃げた方がいいと思う 碌なことにまきこまれないでしょこれ
一応は「助けを求めたら飛んでいく」の約束を果たしたことになるのでしょうか。手遅れを更に過ぎてから、という感じですが。 どう転んでも、前世と現世をきっちり分けて考えられないと、ロイゼは幸せになれないよう…
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