3話
「陛下が……」
……どうしよう。
服は、就寝用の簡素なものだ。
一国の王をこの格好で迎えるのは、失礼ではないかしら。
――でも。
「はい。かなり慌てておいででしたが」
わざわざこんな夜更けに訪ねてくるのだ。陛下の様子からもかなり重要な用件のはず。
「……わかったわ。陛下を応接室にお通しして」
「かしこまりました」
カイゼルが去っていった気配を感じながら、アリーに尋ねる。
「ガウンなどはあるかしら?」
「はい、ご準備しております」
アリーがガウンを羽織らせてくれた。
「ありがとう」
「いいえ」
首を振ったアリーは、そっと私の手を握った。
「アリー?」
「大丈夫です、ロイゼ様」
アリーの緑の瞳は、真摯に私を見つめていた。
「私も、カイゼル様も。ロイゼ様の味方です」
「……ありがとう」
陛下がこの邸に来た理由は、まだわからないけれど。
アリーの言葉はとても心強かった。
じんわりと胸が温かくなるのを感じながら、ベッドから立ち上がり、応接室へと向かう。
「陛下、大変お待たせいたしまし――」
謝罪の言葉は、途中で途切れた。
「……」
無言のまま、食い入るように私を深い青の瞳が見つめていたからだ。
そしてその背には翼が生えていて、額から汗が流れているし、息も荒い。
「陛下?」
……その格好は、一体?
それに、なぜそんなに慌てて――。
しかし、陛下は私の呼びかけにも答えることなく、私の前に立った。
「……あの?」
無言で距離を詰められたので、思わず後退りする。
でも、その距離は、強く引き寄せられたことによりゼロになった。
「え――」
あまりにも突然のことで、抱きしめられたのだと、数秒して気づいた。
えっ!?
どういうこと!?!?
……いえ。とにかくこの状況はよろしくないわ。
なんとかして、この腕の中から抜け出さないと。
「――飛んできたんだ」
陛下はただ、そう言った。
――聞きたいのは、私の元に訪れたその方法ではなく、今抱きしめられている理由だわ。
そう思うのに。
突き飛ばそうともがいていた体の力が、急に抜けた。
……どうして。
自分でもわからない体の反応に戸惑う。
まるで、ずっとその言葉を待っていたような。
「君が無事で……良かった」
陛下の声は安堵で震えていて、よほどの心配事があったとわかる。
「……」
……どうしよう。
自分の体の変化にも、陛下の様子にもついていけず、ただ困惑する。
「――すまない!」
困惑が伝わったのか、急に我に帰った陛下は、抱擁を解いた。
「同意も得ずに、不躾だった。……本当にすまない」
「……いえ」
大慌ての陛下に、首を振る。
なんとなく、緊急事態だったのだろうな、という感じはしたから。
――それにしても。
「理由をお伺いしてもよろしいですか?」
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