2話
――声が、聞こえる。
真っ暗で何も見えないのに、声だけが鮮明に聞こえていた。
『こんな嘘つきが団長だなんて……』
――ちがう、嘘なんてついてない。
『平民のくせに団長になっただけじゃ、満足できないわけ?』
――それは、私が本当の……。
『親友を素直に祝福できない最低なひとだよね」
――真実なら、祝福できたわ。
『運命の番まで望むなんて、醜いよね』
――私が追い求め続けた理由だから。
『なんていうかさ、消えればいいのに』
――ああ。
……バキッ。
何かが折れる音がした。
折れた何かを集めたいのに、この闇の中では、拾うことさえままならない。
しゃがみ込んで手探りで探す。
だって、折れた何かは私にとって大事なものな気がするから。
「……っ、よかった」
しばらくして、ようやく集まった何かを抱きしめる。
全部じゃないけどまだなくなってない。
『元からそんなに好きじゃなかった』
『そうそう、ムカつくよね』
『平民のくせに、お高くとまっちゃって――』
『ちょっと魔法が使えるだけで団長になるなんて』
ようやく見つけたのに。
握りしめた手から折れた何かが落ちそうになる。
『君は――嘘をついてまで』
――あ。
何かが、完全に砕けた。
砕け散った何かは、さらさらと指の隙間からとまることなく、落下していく。
もう、拾い集める気力も残っていなかった。
「……たすけて」
途方にくれて、思わず溢れた言葉に自嘲する。
誰も助けてくれるはずがない。
だって――にまでそう言われたのだから、私の味方はどこにもいない。
上手く立ち回れなかった私が悪いのだ。
そんなこと、わかっているのに。
「たすけてよ――」
誰も来ない。
誰も私を助けてくれない。
だって、私が悪いから。
愚かな私を助ける人は、誰もいない。
『大丈夫。だって、君が困っていたら飛んでいくし、困ってなくても飛んでいく。約束だ』
「だったら、早く助けてよ。……アレク!!!」
◇◇◇
「……さま、――ロイゼ様っ!!」
「!?」
強く、体をゆすられて目を覚ます。
「ロイゼ様! 大丈夫ですか……? ひどくうなされていたので――」
ここは、私は――。
「……ありがとう、アリー」
だんだんと意識がはっきりしてくる。
それと同時に、夢の内容も薄れていった。
どんな夢、見てたんだっけ。
「いいえ。ずっとアレク?という人の名を呼ばれてましたが……」
「……アレク」
呟いた名前は、ゆっくりと空気に溶けた。
知らない名前だ。
それなのに、自然と舌に馴染んだのはなぜだろう。
記憶を失くす前の私にとって、大事なひとだったのかしら。
――コンコンコン。
「ロイゼ様、起きていますか?」
控えめなノックの音と共に、カイゼルの声がした。
「ええ。アリーが私を起こしてくれたところよ」
扉の方に向かって答えながら、首を傾げる。
まだ、日は昇っていない。
こんな夜更けにカイゼルがただ訪ねてくるのは考えにくい。
「……陛下がお見えですが、いかがなさいますか?」
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