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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
四章 私の望み

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2話

 ――声が、聞こえる。

 真っ暗で何も見えないのに、声だけが鮮明に聞こえていた。


『こんな嘘つきが団長だなんて……』

 ――ちがう、嘘なんてついてない。


『平民のくせに団長になっただけじゃ、満足できないわけ?』

 ――それは、私が本当の……。


『親友を素直に祝福できない最低なひとだよね」

 ――真実なら、祝福できたわ。


『運命の番まで望むなんて、醜いよね』

 ――私が追い求め続けた理由だから。


『なんていうかさ、消えればいいのに』

 ――ああ。

 

 ……バキッ。

 何かが折れる音がした。


 折れた何かを集めたいのに、この闇の中では、拾うことさえままならない。


 しゃがみ込んで手探りで探す。

 だって、折れた何かは私にとって大事なものな気がするから。


「……っ、よかった」


 しばらくして、ようやく集まった何かを抱きしめる。

 全部じゃないけどまだなくなってない。



『元からそんなに好きじゃなかった』


『そうそう、ムカつくよね』


『平民のくせに、お高くとまっちゃって――』


『ちょっと魔法が使えるだけで団長になるなんて』



 ようやく見つけたのに。

 握りしめた手から折れた何かが落ちそうになる。


『君は――嘘をついてまで』


 ――あ。


 何かが、完全に砕けた。

 砕け散った何かは、さらさらと指の隙間からとまることなく、落下していく。


 もう、拾い集める気力も残っていなかった。



「……たすけて」


 途方にくれて、思わず溢れた言葉に自嘲する。


 誰も助けてくれるはずがない。

 だって――にまでそう言われたのだから、私の味方はどこにもいない。



 上手く立ち回れなかった私が悪いのだ。



 そんなこと、わかっているのに。


「たすけてよ――」


 誰も来ない。

 誰も私を助けてくれない。

 だって、私が悪いから。

 愚かな私を助ける人は、誰もいない。



『大丈夫。だって、君が困っていたら飛んでいくし、困ってなくても飛んでいく。約束だ』



「だったら、早く助けてよ。……アレク!!!」



◇◇◇



「……さま、――ロイゼ様っ!!」

「!?」


 強く、体をゆすられて目を覚ます。


「ロイゼ様! 大丈夫ですか……? ひどくうなされていたので――」


 ここは、私は――。


「……ありがとう、アリー」


 だんだんと意識がはっきりしてくる。

 それと同時に、夢の内容も薄れていった。


 どんな夢、見てたんだっけ。


「いいえ。ずっとアレク?という人の名を呼ばれてましたが……」

「……アレク」


 呟いた名前は、ゆっくりと空気に溶けた。

 知らない名前だ。

 それなのに、自然と舌に馴染んだのはなぜだろう。


 記憶を失くす前の私にとって、大事なひとだったのかしら。



 ――コンコンコン。

「ロイゼ様、起きていますか?」

 控えめなノックの音と共に、カイゼルの声がした。


「ええ。アリーが私を起こしてくれたところよ」


 扉の方に向かって答えながら、首を傾げる。

 まだ、日は昇っていない。

 こんな夜更けにカイゼルがただ訪ねてくるのは考えにくい。


「……陛下がお見えですが、いかがなさいますか?」


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
これで「アレクとは誰だ」とか問い詰めてきやがったらもう完全アウトですよ
好き放題言ってた人達は、真実を知ったんでしょうか。 知ったなら、いま何を考えているのか見てみたいです。 陛下が、自分のことは棚に上げて罰を与えてくれないかな。笑
ロイゼ…今来たハロルドの野郎もかつてロイゼに酷いこと言って傷つけたからね。 しかし拾った欠片の中にハロルド関連の物が全く無いのが気になりますね。 続きも楽しみにしてます!
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