1話
大変お待たせいたしました!!
――あんなにたくさんお金があるなんて、思ってもみなかった。
「……ロイゼ様?」
カイゼルの言葉に、はっと現実に引き戻される。
銀行で預金額を調べ終わり、今は帰宅中だ。
「ごめんなさい。ぼんやりとして」
「いいえ、それは構いませんが……大丈夫ですか?」
カイゼルが心配そうな瞳で私を見つめる。
「ロイゼ様の生活は、ディバリー様と陛下が保証されることになっています。ですので、何もご心配されることはありませんよ」
とても真剣な顔でそう言われ、首を振る。
「大丈夫よ、ショックを受けているわけじゃないの」
いや、衝撃という意味ではショックなのかもしれないけれど。
紙に記された、大きい桁の数字。
慎ましい生活なら、一生働かなくてもよさそうな額だ。
あれだけのお金があれば、私は、誰に頼らなくても生きていけるのでは――?
陛下にも、ノクト様にも。
アリーにもカイゼルにも。
これ以上、迷惑をかけず、私一人で生きていける。
その可能性が見えたのが、嬉しい。
「たくさんお金があって、嬉しかったのよ」
嬉しい気持ちが伝わるように、微笑む。
「それなら良かったです」
カイゼルも安心したように、微笑んでくれた。
高揚感に包まれながら、帰宅すると――。
「おかえりなさいませ!」
アリーが出迎えてくれた。
「ただいま、アリー」
「夕食ができておりますよ。今度はちゃんと火を切ったので、ご安心を!」
昼食の魚のことを思い出し、思わず微笑む。
「ええ。夕食も楽しみにしているわ」
――三人でとっても美味しい夕食を取った後。
お風呂も終えて、アリーが用意してくれた真新しいベッドに腰かける。
あれだけのお金があったら、この家からも出ていける。
私の知識が正しいか、それとなく、夕食中にアリーやカイゼルに聞いてみた。
お金の感覚は、どうやら間違ってなさそうだ。
でも、引っ越しは、今すぐ! は現実的ではないかな……。
家を借りるには、手続きがあるだろうし。
詳しいことを、明日二人に相談してみよう。
「……でも」
手の中の紙を見つめる。
紙には、黒い文字で相変わらずすごい金額が書かれていた。
これだけの額を貰うのに、ためるのにどれだけの努力が、苦労が必要だっただろう。
そして、それを成し遂げたのは、今の私ではなく、過去の私だ。
「私は――」
ロイゼ・イーデン。
銀行でも確認ができた。
虹彩が一致したのだから、私がロイゼなのだ。
それは、間違いない。
でも――……。
腰かけていたベッドに後ろ向きに倒れこむ。
ふわふわな布団が私を包んだ。
「あなたの、私の。望みは……」
ノクト様の手助けがあったとはいえ、魔術師団長まで上り詰めて、これだけの金額を貯めて。
そうまでして、私が望んだのは。
追い求めたのは。
「日記とか、あればいいのにな……」
どれだけ頭の中を探しても、知識はあっても、記憶はない。
「私」の想いを知りたい。
そう強く思いながら、目を閉じた。
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