ノクト 2話
――王子様。
それも、ただのではなく、私のときた。
「おかしいな。君の王子様は、竜王陛下だと思っていたけれど?」
「……ノクト様、あなたなの。私の王子様は、あなただけ」
まっすぐに僕を見つめる、桃色の瞳。
「それは光栄だね」
微笑みながらも、思考は止めない。
エルマ嬢には、魔法封じの錠がつけられていたはずだ。
しかし、現在、彼女の腕には何もついていない。
協力者が内部にいて、逃走したか?
その情報を引っ張りたいな。
「……王子様なのに、ノクト様はちっとも気づいてくれないのだもの」
頬を膨らませた姿に、思わず失笑してしまいそうになる。
可愛らしい、と思う者もいるのだろう。
でも、僕には、ただ……邪悪に見える。
だって、エルマ嬢がいなければ、ロイゼは。
いや、エルマ嬢だけのせいではないけれど。
僕が背を押した事実は、消えない。
それでも……彼女も大きな要因には違いない。
「気づかなかったよ。だって、君は陛下に夢中だったし」
べたべたと陛下に触っている姿を見て、誰もまさか他に狙いがあるとは思わないだろう。
首をすくめて見せると、エルマ嬢は微笑んだ。
「それは……ごめんなさい。敵を欺くには、まずは味方からというでしょう? だから――しかたなかったの」
「しかたない……ねぇ」
僕はエルマ嬢を責めるように、片眉をあげた。
……ここにいるのは、本体じゃないな。
迎えに来た、といっていたが、幻影魔法か。
僕がその手を取らないと見越してのことだろうか。
それとも――。
「怒らないで、ノクト様」
エルマ嬢は、うるうると瞳を揺らして、手をぎゅっと握った。
「怒る? 違うよ、嫉妬しているんだ」
よくもまぁ、すらすらと嘘がでてくるな。
自分でも呆れるほど、回る口に感心しつつ、エルマ嬢を見つめる。
回路を誰かと繋げているようだ。
つまり、この会話も現在誰かに聞かれている。
その回路を辿れば、正解にたどり着けそうだが――ここまであからさまに回路を繋げているということは、罠だろうな。
「……やっと夢から目が覚めたのね」
エルマ嬢が安心したように、息を吐いた。
「僕が、眠っているように見える?」
「いいえ――ノクト様は優しいから」
優しい、か。
「だから、ずっとロイゼを気にかけていたんでしょう」
「――なるほど」
演技ではなく、自分の唇が弧を描くのを感じる。
「エルマ嬢には、そう見えていたんだね」
僕が彼女を気にかけていたのは、ただ優しさからじゃない。
ロイゼだけが僕にとって特別だからだ。
「ええ。でも……、目を覚ましてくれて良かった。だって、報われない想いをずっと持ち続けるのは辛いもの」
報われない想い。
エルマ嬢は自身のことを言ったのだろうが――。
「……そうだね」
ロイゼは、辛かっただろう。
ただ、陛下に会いたい一心で駆け抜けてきた日々を、その努力を、嘘だと一蹴されたのだから。
「ところで、僕を迎えに来たというのは?」
「次の満月の夜には、準備が整うから。……それを伝えに来たの」
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