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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
三・五章 私の知らないこと

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ノクト 1話

 ――今もずっと、夢に見る。


「ノクト殿!」

 眩しすぎる笑みが、自分に向けられた。

 強い意志で煌めく紫水晶の瞳は、ただ僕だけを見つめていた。


「推薦状をいただきましたね!」


 喜びで震える手に握られていたのは、魔術師団の頂。

 団長、副団長への推薦状だった。


 彼女が――ロイゼがずっとずっと願っていたこと。

 そして、それは僕自身の願いでもあった。


 高みへ上り続けるロイゼの隣に振り落とされず、並べますように。


 その願いが、ようやく叶いそうだった。


 ロイゼは気が付いていないが、彼女の隣を願っているのは僕だけでなかった。


 魔術師団は、ほぼ貴族で構成される。

 それは、入団するには、魔術学校を卒業しなければならず、平民には学校の卒業は困難だからだ。


 そんな中、首席で学校を卒業し、あっという間に幹部にまで上り詰めたロイゼは、注目の的だった。


 実力主義の風土とはいえ、平民出身のロイゼには風当たりが強い時期もあった。

 それでも、決して挫けずに、強い意志で進み続けるロイゼに魅せられたのが、僕だけじゃないのは当然で。


 現団長・副団長の引退が決まったとき、団長に納まるのは間違いなくロイゼだろうと言われていた。しかし、副団長の座は、僕の他にも何人か有力候補がいた。


 そんな彼、彼女を押し退けて、副団長になる。

 努力をしている自負はあった。

 それに、副団長は団長との相性も見られる。

 ずっとそばで見ていた彼女に、僕以上に合わせられる人がいるはずもないとの自信も。


 それでも、実際、彼女の隣に並び立つ資格を得ると――。




「……よかった」


 

 嬉しい。

 これ以上ないほど。


 一番近くで眩しさを見つめ続ける資格の証を、抱きしめる。


「……ノクト殿」


 ロイゼは、そんな僕を見つめると、微笑んだ。


「あなたがいたから、今の私がある。――魔法を教えてくれて、私の果てない夢を笑わないでくれてありがとうございます」

「ううん――君の力だ」


 ずっと見ていた。

 誰よりも何よりも努力をする君をずっと見ていたから。


「それにそれを言うなら、君という弟子で友でライバルがいたからこその今の僕だ。だから……ありがとう」


「よかった。お互い助けられていたんですね。これからも頼りにしています、ノクト殿」

「もちろん」


 ――このとき、僕は自分に誓った。

 君が頼れる僕でいようと。


 ――でも。

 僕は、決定的に間違えて、君を追い詰めてしまった。



 あの日、ロイゼが消えた日を忘れることは生涯ない。


 あの瞬間のロイゼの絶望の表情を。

 縋り付いた椅子の冷たさを。


 僕はずっと忘れない。


 僕がロイゼの背中を押した。

 どれだけ悔いても足りない。



 君の本意ではなかったとしても、それでも君が生きていてくれて、嬉しかった。


 そして、記憶を失くした君が、僕を頼ってくれたことも。


「魚、ちゃんと食べられたかな」


 手の中の金のバッジを転がしながら、窓の外を見つめる。


 窓から見えるはずもないのに、君の姿を探した。


 一度、寮の鍵を無くしたロイゼが半泣きで、僕の部屋の窓に魔法でサインを出したことがあったな、なんて懐かしく思いながら。



 ――そのときだった。


 卓上の灯りがチカリと瞬く。

 


 苦手な香りが、薫る。



「――」


 バッジをポケットにしまい、いつでも戦えるように意識を切り替える。


「……そんなに警戒しないで」


 鈴を転がすような声。

 人によっては愛らしく聞こえるのだろうその声も、僕には耳障りなだけだ。


 それでもなるべく時間稼ぎをするために、努めて優しく微笑む。


「僕に何用かな、エルマ嬢」


 彼女は、僕の笑みに気を良くしたように、頷くと、桃色の瞳で僕を見つめた。


「私の王子様――あなたを迎えにきたの」

 

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お読みいただき有難うございます
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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
エルマさんの狙いはそっちだった…? え、竜王さんの扱いが本命に近づく為のそいつの友人を踏み台にして本命落とす、に使われる友人みたいな枠になってまうよ!? 運命の番に対してとことんやらかし、やり直し後も…
おーまいがー!
エルマ!?どういうこと!? とにもかくにもエルマはいい加減ざまぁされろとは思う 処刑ですら生ぬるいレベルの大罪をした罪人だからね
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