ハロルド 1話
「……は」
ロイゼと別れ、ため息を吐く。
私は、また――間違えた。
ロイゼが護衛騎士と親し気に歩いているのを見て、なぜと思ってしまったのだ。
たとえ、記憶を失っていても、護衛騎士よりは番である私の方が親しいはずだと。
――だが。
そんなはずはないのだと、彼女の言葉で思い知らされた。
今のロイゼにとって、私は番を名乗るただの他人で。
しかも、記憶を失くす前の彼女を傷つけているときている。
まだ、挨拶を返してくれただけましだ。
私がした約束はたくさんあって、その中でも一番大事な約束を違えてしまった。
彼女にとっての私に対する信用に対する値は、地の底にめり込んでいるだろう。
「……」
空っぽの手を握りしめる。
この手の中には、何もない。
あるのは、王という立場だけ。
その高すぎる地位があれば、彼女を――ロイゼを守り切れるのだろうか。
「今度こそ、必ず、約束を果たす。――そのために銀行に来たんだ」
結局無駄足だったとはいえ。
着実に、何かは進んでいる。
……そう、思いたかった。
◇◇◇
自室に戻ってきた。
いつもと寸分も変わらないはずの部屋なのに、妙に落ち着かない。
そう思わせるのは、結局今日もこれといった収穫がないせいかもしれなかった。
「……なぜ」
静かに落ちたのは、疑問だ。
ロイゼが消失魔法を使って、数日。
――つまり、エルマ・アンバーが私の本当の運命の番ではないとわかってから、数日が経過している。
それなのに、エルマ・アンバーが、どのように番を詐称できたのか、なぜ詐称したのかもわかっていない。
貴人牢に捕縛しているエルマ・アンバーは嗤うだけだ。
何も答えない。
侯爵家を疑い、不審な金の流れなどを探ってみたが、怪しい点は見当たらなかった。
ロイゼの消失当日に、城へ走っていたはずの侯爵家のものは、エルマ・アンバーに会いに来ただけだとしらを切る。
……だが、それはおかしい。
竜王の運命の番を詐称するなんて、大それたことを、一人で計画するはずがない。
そんなことをすれば最悪、国が亡びる。
それに――。
私が感じたあの偽の多幸感の正体は?
エルマ・アンバーが私たちの前世を知っていた理由は?
私が見つけるべき答えは、数多くある。
「……痛いな」
ロイゼに会った時だけ収まっていた鈍い痛みがして、額に手をあてた。
「明日は――」
明日こそ、答えが見つかるだろうか。
早く、答えを見つけなければ、ロイゼの身に危険が及ぶのでは?
副団長の家は、強い魔法防壁が張られており、寮よりは安全なはずだが――それでも、心配はつきない。
もっと護衛騎士を派遣すべきだったか?
だが、見知らぬばかりの人物に囲まれるのは、記憶を失くした彼女の負担になるのでは。
それでも、何かあってからでは――……。
――リィン。
鈴が、なる音がした。
思考を止め、その鈴の音の方向へ意識を巡らす。
アンバー侯爵家は、精鋭部隊に見張らせている。
怪しい動きがあれば、報告が飛んでくる。
だが、この方向は――……。
「陛下、おやすみのところ、申し訳ありません! 火急の用のため、御前失礼したく」
「よい。報告を」
音もなく現れたのは、エルマ・アンバーの見張りの一人だ。
「被疑者――エルマ・アンバーが姿を消しました」
本作の息抜きに、過去作のリメイクを始めました!
下記にリンクを貼っていますので、よろしければぜひそちらもご覧ください!!
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