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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
三・五章 私の知らないこと

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ハロルド 1話

「……は」

 ロイゼと別れ、ため息を吐く。

 私は、また――間違えた。

 ロイゼが護衛騎士と親し気に歩いているのを見て、なぜと思ってしまったのだ。


 たとえ、記憶を失っていても、護衛騎士よりは番である私の方が親しいはずだと。


 ――だが。


 そんなはずはないのだと、彼女の言葉で思い知らされた。

 今のロイゼにとって、私は番を名乗るただの他人で。

 

 しかも、記憶を失くす前の彼女を傷つけているときている。


 まだ、挨拶を返してくれただけましだ。


 私がした約束はたくさんあって、その中でも一番大事な約束を違えてしまった。

 彼女にとっての私に対する信用に対する値は、地の底にめり込んでいるだろう。


「……」

 空っぽの手を握りしめる。

 この手の中には、何もない。

 あるのは、王という立場だけ。


 その高すぎる地位があれば、彼女を――ロイゼを守り切れるのだろうか。


「今度こそ、必ず、約束を果たす。――そのために銀行に来たんだ」


 結局無駄足だったとはいえ。

 着実に、何かは進んでいる。

 ……そう、思いたかった。



◇◇◇



 自室に戻ってきた。

 いつもと寸分も変わらないはずの部屋なのに、妙に落ち着かない。


 そう思わせるのは、結局今日もこれといった収穫がないせいかもしれなかった。


「……なぜ」


 静かに落ちたのは、疑問だ。

 ロイゼが消失魔法を使って、数日。


 ――つまり、エルマ・アンバーが私の本当の運命の番ではないとわかってから、数日が経過している。


 それなのに、エルマ・アンバーが、どのように番を詐称できたのか、なぜ詐称したのかもわかっていない。


 貴人牢に捕縛しているエルマ・アンバーは嗤うだけだ。

 何も答えない。


 侯爵家を疑い、不審な金の流れなどを探ってみたが、怪しい点は見当たらなかった。

 ロイゼの消失当日に、城へ走っていたはずの侯爵家のものは、エルマ・アンバーに会いに来ただけだとしらを切る。


 ……だが、それはおかしい。


 竜王の運命の番を詐称するなんて、大それたことを、一人で計画するはずがない。

 そんなことをすれば最悪、国が亡びる。


 それに――。

 私が感じたあの偽の多幸感の正体は?

 エルマ・アンバーが私たちの前世を知っていた理由は?


 私が見つけるべき答えは、数多くある。


「……痛いな」


 ロイゼに会った時だけ収まっていた鈍い痛みがして、額に手をあてた。


「明日は――」


 明日こそ、答えが見つかるだろうか。

 早く、答えを見つけなければ、ロイゼの身に危険が及ぶのでは?

 副団長の家は、強い魔法防壁が張られており、寮よりは安全なはずだが――それでも、心配はつきない。


 もっと護衛騎士を派遣すべきだったか?


 だが、見知らぬばかりの人物に囲まれるのは、記憶を失くした彼女の負担になるのでは。


 それでも、何かあってからでは――……。


 ――リィン。


 鈴が、なる音がした。


 思考を止め、その鈴の音の方向へ意識を巡らす。


 アンバー侯爵家は、精鋭部隊に見張らせている。

 怪しい動きがあれば、報告が飛んでくる。


 だが、この方向は――……。


「陛下、おやすみのところ、申し訳ありません! 火急の用のため、御前失礼したく」

「よい。報告を」


 音もなく現れたのは、エルマ・アンバーの見張りの一人だ。

「被疑者――エルマ・アンバーが姿を消しました」


本作の息抜きに、過去作のリメイクを始めました!

下記にリンクを貼っていますので、よろしければぜひそちらもご覧ください!!



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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
逃すとか…(藁 大罪犯した女と家を甘やかし過ぎですわ。
拷問に掛けろよ、と。
実際なんでハロルドが番を間違えたのかはまだ明らかになってないんですよね 頭痛がするって言ってるから一服盛られた&ロイゼが香水の香りを気にしてたから、エルマが香りを使って何かしたのかな?って感じでしょう…
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