19話
なぜ……?
陛下の言葉に首を傾げる。
「私がハロルド様に親しくしていい理由がございません」
相手は一国の王だ。
元気? なんて言おうものなら、不敬罪で牢獄行きだろう。
「君は、私の番なんだ! それ以上に、理由なんて必要ないだろう」
番……か。
「かもしれない、程度の存在の私には、恐れ多いことです」
番かもしれないし、違うかもしれない。
そんな曖昧な私が親しくして良い相手じゃないわ。
「……っ、ロイゼ」
深青の瞳が、揺れる。
その瞳は、どこまでも美しく吸い込まれてしまいそうだ。
……その瞳に、かつての私は焦がれたのかな。
私だけを映してほしいと。
でも、それは叶わなかった。
叶っていたら、今の私はいない。
「君が番なんだ。私が……私さえ間違えなければ」
俯いて、ぎゅっと握りしめたその手は、微かに震えていた。
「だが――、だからこそ……私は」
陛下はそこで言葉を止めると、顔を上げた。
「引き留めてすまない。……困ったことがあったら、なんでも教えてくれ。できる限り、力になろう」
――この約束は、決して違えない。
強い意志の宿った瞳で、陛下は続けた。
「お気遣いありがとうございます」
丁寧に別れの挨拶をして、陛下と別れる。
「……ロイゼ様?」
銀行の中に入ってもしばらく無言だった私に、心配そうにカイゼルが声をかけた。
あの強い瞳を見たとき、確かに懐かしいという感情が胸から湧き出た。
でも、今の私には、陛下との接触は二回目で、今日初めてみたはずなのに。
「ううん……なんでもないの」
首を振って雑念を追い出す。
今の私にとって最優先事項は、私の生活だ。
そのために、カイゼルに銀行に同行してもらっている。
「預金の確認してくるから、カイゼルはこのあたりで待っていてくれる?」
「はい。かしこまりました」
カイゼルと別れ、預金確認の列に並ぶ。
ほどなくして、私の順番はやってきた。
「ロイゼ・イーデンです。預金の確認をしたいのですが……」
私の言葉に頷くと、銀行員は四角い箱を渡した。
この箱はなんだろう?
「そちらを右目に当ててください。虹彩を確認いたします」
頭の中で知識を探す。
銀行では、魔導具によって虹彩を確認し、口座主を確認していると知識が浮かんできた。
なるほど。
四角い箱を右目に当てると、少ししてピピッと音がした。
「はい、もうよろしいですよ」
銀行員の言葉に、箱を机に置く。
「確認が取れました。ロイゼ・イーデン様、ご本人ですね」
「はい」
銀行員が、かちゃかちゃと鍵盤のようなものを打つと、やがて、黒い数字が書かれた紙が出てきた。
「こちらが現在当行で、お預かりしている金額となります」
紙を受け取り、その数字を心の中で数える。
いち、じゅう、ひゃく、せん……………………。
――ええ、こんなに!?
さすがは、魔術師団長。
かなりの額を預けていたみたいだ。
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