17話
――昼食はとっても美味しかった。
それに何より温かい料理は、ほっとした。
緊張の糸が少し弛んだ気がする。
「ありがとう、アリー。とっても美味しかったわ。カイゼルも一緒に食べてくれてありがとう」
二人は当初、別々で食べようとしていたけれど、お願いして私と一緒に食べてもらったのだ。
記憶はなくても、一人で食べる料理が味けないことはわかる。
三人で囲んだテーブルは温かく、今の私にとって一番幸福な時間となった。
「いいえ! 夕食も腕によりをかけて作るので、楽しみにしてくださいね!」
得意げに胸を叩いて見せたアリーに微笑む。
「ええ、ありがとう。……カイゼル、今から出かけるのだけど、ついてきてくれる?」
「もちろんです。先ほどおっしゃっていた、銀行ですね」
カイゼルの言葉に頷く。
私は以前の私にどれほど貯蓄があったのか、知らない。
貯蓄がある程度あれば、衣食住も自分で保てる。
ノクト様や陛下にこれ以上迷惑をかけずにすむ。
「ですが、それでしたら……、お着替えになった方がよろしいかと」
「カイゼル様の言う通りです。ロイゼ様のご格好は、魔術師のものなので、目立ちすぎるかもしれません」
そういわれて、自分の格好を見てみる。
……たしかに、ノクト様がきていたものと似ているわ。
魔術師団長だからか、ノクト様のものよりも豪華に見えるそれは、街では悪目立ちしそうだった。
「わかったわ。……あの贈り物の中から、一着選ぶ――しかなさそうね」
玄関から家の中に運び入れた大量の箱を思い出す。
でも、一箱一箱開封するのは、時間もかかるし、陛下に返すときに返しにくくなるだろう。
だから、ひとまずあの箱の山から一箱選んで、あけてみよう。
カイゼルには席を外してもらって、アリーと箱の山の前に行く。
「どちらにしますか?」
一番地味そうな箱にしよう……。
なるべく地味な包装紙の箱を探す。
けれど、さすが一国の王からの贈り物なだけあって、どの箱も光沢があり、飾りのリボンでさえ、高級そうだ。
「……そうね」
どうしよう。
しかし、銀行はわりと早い時間にしまると知識が浮かんできたから、なるべく早く着替えてしまいたい。
「この箱にするわ」
私が指差したのは、一番近くの箱だった。
ここなら、このままとっても贈り物の山も崩れないだろうし。
「かしこまりました」
箱を取り、桃色のリボンをほどく。
リボンのあまりの手触りのよさに慄きつつも、なんとか挫けずに、包装も解いた。
……ドキドキする。どうか、地味な服でありますように!
今までで一番、胸を高鳴らせながら、箱の蓋をとる。
「!!」
そこに入っていたのは、桃色のドレスと二つの箱だった。
「……わぁ! とっても素敵ですね」
アリーの言葉に頷く。
……素敵ではある。
ひとまず、二つの箱も開けてみよう。
「靴と……アクセサリーですね」
ドレスに似合いそうな、靴とアクセサリーが入っていた。
「そうね、可愛らしい靴ね」
アクセサリーは見るからに高級そうで、見なかったことにした。
蓋をして、そっと、箱の山におく。
「髪飾りやネックレス、イヤリングはお嫌ですか?」
3点セットが見事に入った箱を見ながら、アリーが首を傾げた。
「いいえ、そんなことはないと思う……でも、さすがに過ぎたものだわ」
頭の中を探しても、宝石の知識はあまり浮かんでこない。そんな私から見ても、一目で高級だとわかるものだったので、山の中に封印したのだ。
「かしこまりました! では、こちらのドレスと靴でご準備しますね。髪型もアクセサリーがなくてもバランスがとれるように工夫いたします!」
「ありがとう、アリー」
任せてください、と微笑んでくれたアリーに微笑み返す。
「いいえ、では、こちらへ」
◇◇◇
――アリーに手伝ってもらって、支度を整えた。
髪を結ってくれたり、お化粧を施してもらったりして変わっていく自分を見るのは、初めての経験なので、とっても新鮮だった。
髪型は華やか……編み込みもある髪型で、ドレスとよく馴染んでいた。
お化粧は程よく品のある感じで、全体で見ると、なるほどたしかにバランスが取れていた。
……さすが王城に勤めている侍女だわ。
その腕前に感動しながら、鏡越しにアリーに微笑む。
「ありがとう、アリー」
「いいえ! とってもよくお似合いです」
アリーが手元のベルを鳴らす。
すると、廊下で控えてくれていた、カイゼルがやってきた。
「カイゼル、お待たせしました」
「いいえ。……!」
カイゼルは、私と目が合うと、目を見開いた。
「カイゼル?」
「……いえ」
「カイゼル殿は、ロイゼ様の美しさに照れているんですよ!」
王族を見慣れているカイゼルにそれはないはず。
そう否定をする前に。
「……その通りです。先ほどの魔術服姿も素敵でしたが、ドレス姿も大変お綺麗ですね」
耳を少し赤く染めてカイゼルが微笑んだ。
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