13話
……でも。
ノクト様とは、別れたばかりだ。
ただでさえ多忙な副団長職に、団長が不在という要素も重なっている。
そんな彼を、丸焦げになった魚を元に戻したいなんて願いで呼び出して良いのだろうか。
いや、よくない。
でも、初めての魔法の実践に、監督者がいないのも危険な気がする。
そして何より、泣いているアリーを放って置けない。
「一度だけ……」
笛を吹いてみよう。
それでノクト様がこなかったら、一人でやってみよう。
首にかけた笛を吹く。
空気の通る音がするだけで、甲高い音はしない。
「……よし」
一人でやってみよう。
ノクト様は現れなさそ――。
「どうしたの、ロイゼ」
「!?」
一瞬で光に満ちた。そして、光の中から微笑んだのは。
――きた。
……本当に、きてくれた。
「――っ、……?」
なぜかひどく安堵して、涙が溢れた。
どうしたんだろう。
さっきまであんなに平坦だった感情の波が、急に激しく動いたことに驚きを隠せない。
「ロイゼ……?」
記憶を失くす前の私は、何かを誰かを待っていたんだろうか。
不思議そうな顔で、ノクト様が私の顔を覗き込む。
「!」
驚いた顔は、一瞬で真剣な表情にかわり、私の肩に手を置いた。
「どうしたの、ロイゼ――君を傷つける何かがあったの?」
――何もない。
あるはずがない。
むしろ、私は安堵したのだ。
言葉通り、ノクト様がきてくれて。
……そう、言葉にしたいのに。
「……っ、う」
涙が溢れる。
どうして。
自分の体なのに制御が効かない。
でも、今の私には、その理由がわからない。
わからないのに、涙が溢れる。
「ロイゼ……」
ノクト様は私の涙をそっと拭った。
「もしかして、不安だった?」
記憶がないのは、確かに不安だ。
でも、この涙は違う、そうじゃない。
そうじゃないのだ。
「いいえ……ありがとうございます」
――震える声で言葉になったのは、たったの二言だけだった。
それでも、それ以上は追求せずに、ノクト様は私の背中を撫で続けてくれた。
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