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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
三章 私という存在

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12話

私をまっすぐ見つめる、薄青の瞳。

「……カイゼル」

「はい」

 私もカイゼルを見つめ返した。


「ありがとう。その気持ちは、とても嬉しいわ。……でもカイゼルは、買い被りすぎだと思うの」


 私は、真面目……というよりも、自己保身を一番に考えているだけだ。

 だって、今の私を一番守れるのは、私だけだから。


「いいえ」


 カイゼルは、首を振ると、私の手を取った。


「あなた様をお守りできること、心より光栄に思います」


 澄み渡ったその瞳には、嘘がない。


 そこまで言われてしまったら。


「――ありがとう」



 私も微笑むより他はなかった。

 カイゼルと私はおそらく初対面だ。

 つまり、私のことを知っている割合は、同じくらい。

 でも、そんな人に光栄だと思ってもらえたことこそ、光栄だった。


「ロイゼ様、カイゼル殿、昼食の用意ができましたよー!」


 アリーが元気な声で駆けてくる。

 そして、私たちの前まで来ると、叫んだ。


「ええっ!? いくらなんでも多過ぎませんか!?!?」


 贈り物の箱の山をみて、そう思ったようだ。

「……そうよね」


 よかった。

 そう思ったのは、私だけじゃないみたい。


 ――でも。

 そういえば、カイゼルはこの量に驚かなかった。それどころか、王族なら普通、みたいな反応だったけれど……。


 元々、王族の誰かの護衛騎士でもしていたのだろうか。


 ……まあ、直接言ってこない限り、気にしなくていいわ。


 もしかしたら、触れられたくない話題かもしれないし。


「あれっ、どうしてカイゼル殿は跪いているのですか?」

「……ああ、ロイゼ様を守る誓いを立てておりました」


 何気なくそう言って、カイゼルが立ち上がる。


「へぇ、そうなのですね。……ところで、今日の昼食は、白身魚のソテーです――あ」


 うんうん、と納得した後、急にアリーが固まった。


「どうしたの?」


 たらたらと冷や汗を流しているアリーの顔を覗き込む。

「いえっ、なんでも! なんでもございません」

「……そう?」


 そのわりには顔色がとても悪い。


「まだ間に合うかもしれないし……、見てきます!」


 アリーは、急に厨房の方角へ走り出した。その様子を見て、私とカイゼルは顔を見合わせる。


「どうしたんでしょう?」

「とりあえず、おいかけましょう」


 アリーの後を追って、厨房に向かうと、アリーが項垂れていた。


「……アリー?」


 なんだか焦げ臭い匂いがする……ということは、触れずに、アリーの肩にそっと手を置く。


「どうしたの?」

「いえ、あの、その……ロイゼ様に温かいお料理を! と思いまして……」


 アリーはそっと、フライパンを指差した。


「直前まで温めていたんですが、……火を切るのを忘れていました!!」


 ――どうしよう、一番大きなお魚だったのに!


 ぽろぽろと大粒の涙をこぼすアリー。


「この仕事、ちゃんとできないとクビなのに……。まだ弟の学費も稼いでないのに……、どうしよう。私、私――」


「大丈夫。落ち着いて、アリー」


 なるべく、優しい声でアリーの肩を叩く。


 フライパンの中を見てみると、確かに魚は真っ黒だった。

 ……でも。

「あなたの気遣いが嬉しいわ。ありがとう、アリー」


 アリーに微笑む。


「ありがとうございます、でも……」


 アリーはまだ不安そうな顔だ。

「こういうときこそ、魔法使いの出番ではないかしら」


 こういうときの魔法は――。

 頭の中で、知識を探す。

 うん……あった。


 不可逆反応を可逆にする魔法。


 魔法って意外と種類があって、すごい。

 だから、私も魔法に夢中になったのだろう。


 知識を頼りに、魔法を展開しようとして……。


 ――いつでも呼んでね。


 そう言ってくれたノクト様のことを思い出した。

 


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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
黒身魚のソテーになってしまいましたか。
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