10話
アリーの提案に頷く。
……でも。
食材などの準備はせずに来てしまった。
そもそも、食べるものはあるのかしら。
「ロイゼ様、貯蔵庫に食材がありました!」
「ありがとう、カイゼル」
本来なら、ここに住むのはノクト様だった。
食材があるということは、引っ越す準備もかなり進んでいたはずだ。
……それなのに。
私のために、この場所を提供してくれたのね。
「アリー、元々ある食材や消耗品を使ったときに、帳簿をつけて欲しいわ」
これだけ広い家だ。
家賃がどれだけになるかは、後々相場を調べるとしても。
消耗品などの帳簿をつけて、この家を出て行く際に、お金か同等以上のものを渡せるようにしておきたい。
「かしこまりました!」
にっこり頷いてくれたアリーは、腕まくりをした。
「私は料理も得意なので、昼食はお任せください!!」
「ありがとう」
厨房へ消えたアリーを見送り、そういえば、と思う。
お金のことで思い出したけれど、私のお給料はどうなっているのだろうか。
魔術師団長という職はかなりいいお金が入ってくるはず、と知識が囁く。
以前の私が豪胆な性格で、もらったお金をその日中に使ってしまった……という可能性もゼロではない。
でも、一般的には、ある程度、儲蓄するものではないだろうか。
「カイゼル」
「はい」
「昼食が終わったら、銀行について来てくれる?」
どれほど儲蓄があるかは、記憶にない。
でも、今後生活して行く上で、自分がどれほどお金を持っているか、知ることは大切だ。
「かしこまりました」
カイゼルは頷くと、でも……と続けた。
「住は、ディバリー様が。衣食は陛下より保証されると伺っております」
「……え」
必要最低限の生活を保障して欲しい――そうは言ったけれども、その具体的な内容は、住を除いて決まっていないはずだ。
でも、その言い振りだと……。
「詳しい内容も決まっているの?」
「はい。食は、一週間に一度以上、食材が届く手筈となっています」
……そうなのね。
進められていた話に驚きつつ、頷く。
「では、運ばれる食材と今ある食材で帳簿を分ける必要があるわね」
気をつけておこう。
「……ロイゼ様は」
カイゼルが青い瞳を瞬かせた。
「真面目ですね」
以前の私がどうかは知らないが、今の私が真面目かと言われると――。
「……どうかしら」
「記憶がなくて不安なのに、周囲に与える影響まで考えていらっしゃる」
「……それは買い被りすぎだと思う」
単純に必要そうなことを計算しているだけ。
「いいえ、なかなかできることではありません」
カイゼルは首を振ると、微笑んだ。
「そのような方をお守りできて光栄です……っと、ベルが鳴りましたね」
先ほど言っていた食料の件だろうか。
「見てくるので少々お待ちください」
そういって、玄関に向かった後。
……?
カイゼル、なかなか帰ってこないな。
不審に思った私が玄関に行くと――たくさんの食材や衣服が運び込まれていた。
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