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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
三章 私という存在

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8話

 ノクト様に案内されて、家の中を見て回る。

 さすが、副団長――そして公爵子息でもあると聞いた――なだけあって、暮らすには十分すぎる家だった。


「どう、気に入ったかな?」


 ノクト様が首を傾げる。


「はい、とっても。ですが、本当によろしいのですか? 私は平民なんですよね」


 この道中で、私の出自のことを聞いた。

 貴族ですらなく、魔術師団長に復職できるか怪しい私に、優しくしてもメリットなどないだろう。


「出自のことは関係ないよ。言っただろう、僕は今の君にできるだけのことをしたいって。この言葉に嘘はないよ」


 ――ノクト様にそうさせるのは、「何か」のせいかしら。

 ……いずれにせよ。


「ありがとうございます!」


 住む場所があるのは、いいことだ。

 もちろん、ずっとここにいるわけにはいかないけど、衣食住の住が整うのは、これから生きていく上で大切だから。



「!!」

「……ノクト様?」



 驚いた顔をしたノクト様の瞳からぽろり、と涙が溢れた。


「……いや、ごめん」


 ノクト様は慌てて顔をおさえたけれど、涙はあとからあとからこぼれ落ちていた。


「ロイゼが、今日、初めて笑ったから。……嬉しくて」

「? ……そうですか?」


 私はそんなに険しい顔をしていただろうか。

 でも、目覚めたばかりは記憶がないことに混乱して、笑う余裕は確かになかった。


「うん……ごめんね、落ち着いた」


 少し鼻声で涙を拭ったノクト様は、ところで、と話を変えた。


「改めて紹介するよ。こちらが、君の身の回りのことを担当してくれる、侍女と護衛騎士だ」


 城から派遣された侍女は、礼をした。

「アリーと申します。よろしくお願いいたします」

 アリーは茶髪に緑の瞳のとっても可愛らしい女の子だった。


 護衛騎士の青年も、礼をした。

「わたしはカイゼルと申します。あなた様をお守りいたします」

 カイゼルは金髪に青目の誠実そうな青年だ。


「ロイゼです。アリーさん、カイゼルさん、こちらこそ、よろしくお願いします」


 私も礼をすると、二人とも慌てたように、敬語や敬称をやめてほしいと言った。


「そのロイゼ様のことは、王族と同等に扱うようにと、指示が出ていますので……」


 平民の私を王族と同等に扱え、というのは、陛下の運命の番かもしれないからだろう。


 正直に言うと、そんな仰々しい態度を取られるのは身に余る。


 ……でも、上司にそう言われているのなら、従わざるを得ないわよね。


「……わかった。今後は、アリー、カイゼルと呼ぶね」


 その言葉に、ほっとした顔をした二人に、微笑む。


「さて、二人の紹介も終わったし……、ロイゼ」


 ノクト様が、手を差し出した。


「魔法をまた使いたかったり、練習したいと思ったら、これで僕を呼んで欲しい」


 差し出されたのは、小さな笛だった。


「これを吹いても、実際に音は鳴らないけれど、僕には届くようになってる」

「わかりました。でも、お忙しいのに……」


 魔術師団の副団長は、多忙な職のはずだ。

 団長が不在なら、なおさら。


「大丈夫だよ、僕は君の次に――優秀な魔術師だからね」

 

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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
節穴様ととっちゃん坊やの2択ならとっちゃん坊やかなぁ。 カマキリの恋に人間が共感できないのと同じで竜の気持ちなんて人間からは理解不能なのと比べて精神お子様には成長の余地あって、幼児の頃仲良しだったけど…
まずは親元に連絡しないの?記憶にないとはいえ実家のほうが安心安全じゃない?親との関係性が悪くなけりゃ。男二人が親御さんに連絡してないとなると確信犯で真っ黒だな…
陛下、副団長両方ともフって欲しいですわ。 アホボンら2人との元サヤはちょっと、ねぇ? 副団長が幼稚な考えなしじゃなければ応援出来たんだけど…。
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