8話
ノクト様に案内されて、家の中を見て回る。
さすが、副団長――そして公爵子息でもあると聞いた――なだけあって、暮らすには十分すぎる家だった。
「どう、気に入ったかな?」
ノクト様が首を傾げる。
「はい、とっても。ですが、本当によろしいのですか? 私は平民なんですよね」
この道中で、私の出自のことを聞いた。
貴族ですらなく、魔術師団長に復職できるか怪しい私に、優しくしてもメリットなどないだろう。
「出自のことは関係ないよ。言っただろう、僕は今の君にできるだけのことをしたいって。この言葉に嘘はないよ」
――ノクト様にそうさせるのは、「何か」のせいかしら。
……いずれにせよ。
「ありがとうございます!」
住む場所があるのは、いいことだ。
もちろん、ずっとここにいるわけにはいかないけど、衣食住の住が整うのは、これから生きていく上で大切だから。
「!!」
「……ノクト様?」
驚いた顔をしたノクト様の瞳からぽろり、と涙が溢れた。
「……いや、ごめん」
ノクト様は慌てて顔をおさえたけれど、涙はあとからあとからこぼれ落ちていた。
「ロイゼが、今日、初めて笑ったから。……嬉しくて」
「? ……そうですか?」
私はそんなに険しい顔をしていただろうか。
でも、目覚めたばかりは記憶がないことに混乱して、笑う余裕は確かになかった。
「うん……ごめんね、落ち着いた」
少し鼻声で涙を拭ったノクト様は、ところで、と話を変えた。
「改めて紹介するよ。こちらが、君の身の回りのことを担当してくれる、侍女と護衛騎士だ」
城から派遣された侍女は、礼をした。
「アリーと申します。よろしくお願いいたします」
アリーは茶髪に緑の瞳のとっても可愛らしい女の子だった。
護衛騎士の青年も、礼をした。
「わたしはカイゼルと申します。あなた様をお守りいたします」
カイゼルは金髪に青目の誠実そうな青年だ。
「ロイゼです。アリーさん、カイゼルさん、こちらこそ、よろしくお願いします」
私も礼をすると、二人とも慌てたように、敬語や敬称をやめてほしいと言った。
「そのロイゼ様のことは、王族と同等に扱うようにと、指示が出ていますので……」
平民の私を王族と同等に扱え、というのは、陛下の運命の番かもしれないからだろう。
正直に言うと、そんな仰々しい態度を取られるのは身に余る。
……でも、上司にそう言われているのなら、従わざるを得ないわよね。
「……わかった。今後は、アリー、カイゼルと呼ぶね」
その言葉に、ほっとした顔をした二人に、微笑む。
「さて、二人の紹介も終わったし……、ロイゼ」
ノクト様が、手を差し出した。
「魔法をまた使いたかったり、練習したいと思ったら、これで僕を呼んで欲しい」
差し出されたのは、小さな笛だった。
「これを吹いても、実際に音は鳴らないけれど、僕には届くようになってる」
「わかりました。でも、お忙しいのに……」
魔術師団の副団長は、多忙な職のはずだ。
団長が不在なら、なおさら。
「大丈夫だよ、僕は君の次に――優秀な魔術師だからね」
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