7話
城のすぐ近くで、住める場所――。
「それは助かりますが……」
いったい、どこだろう。
「魔術師は基本寮住まいだけれど、団長副団長や既婚者は家を持つことも多いんだ」
……確かに。以前の私は寮暮らしだったけど、そういう場合もあると知識が浮かんできた。
「僕は、副団長になったから、家に移り住むつもりだったんだ」
「そうなのですね」
「色々と落ち着くまで、そこで暮らすのはどうだろう? 一通りの設備は整っているはずだよ。――もちろん、異性だし、今の君にとって知らない人物である僕は住まない」
それは正直に言って、とてもありがたい提案だった。
「でも、ノクト様は嫌ではありませんか? せっかく自分の城として居を構えるつもりだったのに」
自分のために準備したスペースを他人に使われるのは、嫌ではないだろうか。
「ううん。嫌ならそんな提案をしないし、それに……」
ノクト様が金の瞳で、私を見つめる。
「今の君にできる限りのことをしたいんだ。僕の自己満足だけど、それでも」
その瞳には、強い後悔が映っていた。
――彼との間にも、何かあったのだろうか。
「ありがとうございます」
でも、おそらくあったのだろう「何か」を言わないのは有り難かった。
今の私には、判断がつかないからだ。
「ううん。じゃあ、そこで暮らすでもいいかな? 護衛と侍女も僕の家からつけようと思うけれども」
「ディバリー様!」
急に話に入ってきたのは、今まで黙っていた男の人たち――おそらく陛下の側近たちだった。
「その……侍女と護衛は我々で選定させていただけませんか?」
――なるほど。
陛下の運命の番……かもしれない私に対して、なにもしないというのは、国として困る、ということだろう。
「あなたたちが――? でも、そうですね。今のロイゼにはどの派閥にも属さない者を手配する方がいいかもしれません。……ロイゼはどうかな?」
本当は、自分に侍女も護衛もいらない、と言いたいところだ。
でも、記憶喪失の私には、生活に不安があるし、色々と面倒ごとに巻き込まれないという保証もない。
「……はい。お願いします」
「では、話は決まったね」
――それからはあっという間だった。
側近たちはすぐに侍女と護衛を選定し、彼らと私とノクト様で、ひとまず家に移動することになった。
「ここが、私が暮らす場所……。城とも近いですね」
ノクト様の住むはずだった家は、王城の本当にすぐ近くだった。
「寝坊が心配だったんだ」
そう言って苦笑いする彼は、寝坊とは無縁そうだ。
「そうなんですね」
でも、確かに王城での勤務が多い、魔術師にとって、近い方が便利なのは確かだろう。
「うん。さぁ、ようこそ。今日から、ここが君の家だ」
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